レポート
プレイスメイキング ツアー in 札幌~視察と実践者取材でわかった札幌のプレイスメイキング~
2022年8月30日〜31日、一般社団法人ソトノバを母体とする日本のプレイスメイキング普及活動体であるPlacemaking Japanメンバーで、「プレイスメイキング ツアー in 札幌」と題して、北海道札幌市に視察に行ってきました。
Placemaking Japanとは、プレイスメイキングについての情報やネットワークを広めるための、日本のプレイスメイキング普及活動プラットフォームです。
今回の「プレイスメイキング ツアー in 札幌」の目的は、公民連携でプレイスメイキングを進める札幌を訪問し、対象エリアを肌で感じながら、その内側を徹底的に取材し、全国のプレイスメイキングやパブリックスペース活用に取り組む自治体、プレイヤーに役に立つ情報を届けることです。
本記事では、札幌のパブリックスペースの様子とともに、札幌のプレイスメイキングに取り組む、林匡宏さん(札幌都⼼プレイスメイキング実⾏委員会 事務局長)、佐藤大輔さん(札幌市まちづくり政策局)、野上徹さん(札幌市まちづくり政策局)、チ・カ・ホやアカプラなどの運営に関わり、まちづくり効果の波及、都心全体のエリアマネジメントに取り組む内川亜紀さん(札幌駅前通まちづくり株式会社/取締役/統括マネージャー)への取材の様子、さらにPlacemaking Japanのメンバーを交えた座談会の様子を紹介します。
Contents
魅力の詰まった札幌のパブリックスペース
札幌市では、2030年の冬季五輪招致や北海道新幹線のJR新駅・新施設を契機として札幌駅周辺の再開発計画が進められています。今回のPlacemaking Japanは、都心のパブリックスペース活用におけるリーディングケースとして全国的にも注目されているチ・カ・ホ、アカプラ、札幌プレイスメイキングの舞台として選ばれた、大通公園を視察しました。
どの空間も綺麗に整備され、市民の憩いの空間が多くありました。
今回「プレイスメイキング ツアーin札幌」に参加したPlacemaking Japanメンバー
荒井 詩穂那さん | (一般社団法人ソトノバ理事/首都圏総合計画研究所) |
泉山 塁威さん | (一般社団法人ソトノバ共同代表理事/日本大学助教) |
加藤 友教さん | (花咲爺さんズ) |
金島 未歩さん | (花咲爺さんズ) |
佐藤 まどかさん | (HITOTOWA INC. ディレクター) |
田邊 優里子さん | (オンデザイン/Placemaking Japan) |
田村 康一郎さん | (一般社団法人ソトノバ理事/QUOLチーフディレクター) |
千代田 彩華さん | (オンデザイン/Placemaking Japan) |
札幌都心全体に広がる地下空間!札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)
最初に、札幌の地下歩行空間(チ・カ・ホ)を訪れました。
チ・カ・ホは、「札幌駅周辺地区と大通地区を地下歩道でつなげることにより、二極化する都心商業圏の回遊性を高め、四季を通じて安全で快適な歩行空間を確保すること」を目的に、2011年3月12日に開通しました。
現在では、人が多く集まる空間であることも相まって、大きな企業が展開するイベントだけでなく、地元市民の方もマルシェや発表会などでチ・カ・ホを活用していて、北海道の色が濃い空間になっています。
エリアマネジメント団体である「札幌駅前通まちづくり株式会社」が管理・運営をしていることも特徴で、地下歩行空間の壁面を活用した広告事業によって創出したまちづくり財源を地域に還元しています。
「札幌駅前通まちづくり株式会社」は、他にも、ソトノバ記事で取り上げられているコバルドオリの管理・運営もしていました(現在は運営期間を終え終了しています)。
アカプラによる、地上での賑わい創出
続いて訪れたのは、「札幌市北3条広場(愛称:アカプラ)」。ここは札幌のメインストリートである札幌駅前通と歴史的観光資源である北海道庁赤れんが庁舎の前にある空間で、植栽が多く、景観の美しさを感じられる空間でした。
ソトノバでは以前、アカプラで開催された「SAPPORO YUKITERRACE 2017」の様子を記事として発信しています。
アカプラもチ・カ・ホ同様、エリアマネジメント団体「札幌駅前通まちづくり株式会社」が指定管理業務として、まちなみ形成の促進や、施設誘致、話し合いの場づくりなどを担っています。
広場ではキッチンカーや休憩できるデッキが設置され、訪れた人が各々、好きな時間を過ごしていました。
公園面積約7.8ha!札幌プレイスメイキングの舞台になった大通公園
そして、今回の札幌プレイスメイキングの舞台として選ばれた大通公園にも足を運びました。
大通公園は札幌市の中心部に位置し、大通西1丁目から大通西12丁目までの長さ約1.5km、面積約7.8haの特殊公園で、1871年に市街地を南北に分ける大規模な火防線としてつくられたのが始まりです。
ここは、YOSAKOIソーラン祭り、雪まつりやイルミネーションなど、季節ごとにさまざまなイベントが開催される北海道随一の会場です。
まちの中心にこれだけ大きな公園があるのは珍しく、とても存在感のある公園でした。
実践者から学ぶ!札幌都心のプレイスメイキング
Placemaking Japanメンバーは、魅力の詰まった札幌のまちの内側を知るため、札幌のまちづくりに関わる実践者に、いま手がけていることや考えていること、これからやってみたいことなどを取材しました。
市民のためのエリアマネジメントの必要性とアプローチ|内川亜紀さん
最初に取材したのは、札幌のエリアマネジメント団体である、札幌駅前通まちづくり株式会社の内川亜紀さんです。
内川さんが行うエリアマネジメントの活動を、プレイスメイキング的視点から取材しました。
内川さんの取材では、エリアマネジメント団体として地元や行政との向き合い方の話や、まちが変わっていく中での、まちづくり会社の存在意義や役割についての話がありました。
エリマネとしてチ・カ・ホ、アカプラを管理・運営する中で大切にしていることについて内川さんは、
内川さん:
ただ管理しているだけではなく、より地域の価値を高める調整・企画を立てています。エリアマネジメントにあたって、地域の価値を上げるために何をするのが良いのか、使い方があるのか、場所の形状によってコンセプトが違う中で、エリアマネジメントの必要性を明確にし、アプローチするのが大切です。
と話をしました。
内川さんとPlacemaking Japanメンバー(左手前から、田邊優里子さん(オンデザイン、Placemaking Japan)・荒井さん・内川亜紀さん・泉山さん・田村さん・佐藤さん・長谷川・金島さん・千代田さん・加藤さん「まず、やってみる」札幌市の体制と活動|札幌市まちづくり政策局 佐藤大輔さんと野上徹さん
続いて取材をしたのは、札幌市まちづくり政策局の佐藤大輔さんと野上徹さんです。
札幌でプレイスメイキングなどの実証実験から状況を変えるチャレンジをした背景や、今後の札幌プレイスメイキングにおける展望についての話がありました。
札幌市まちづくり政策局の佐藤大輔さん(左)と野上徹さん(右)佐藤さん:
パブリックスペースを公民連携でやってみようということ、都心を良い所にしようという動きの中で始めたのが、プレイスメイキングです。まちに様々なポテンシャルがある中で、プレイスメイキングに関わる人が増えるといいと感じています。
行政の中で紆余曲折はあったものの、「まず、やってみる」に重きを置いたとき、今の札幌市の体制や活動になりました。
何とかしたいという想いから、プレイスメイキングなどの実証実験を行いました。パブリックスペースを活用し、地域の人にとって居心地のよい場所、楽しく過ごせる場所の創出を実感できたことは、とても嬉しかったです。
今後も、目的・課題を設定し、意識しながら取り組みを模索していきたいと考えています
パブリックスペースとヒトが生み出す力と可能性|林匡宏さん
続いて話を聞いたのは、札幌都⼼プレイスメイキング実⾏委員会 事務局長の林匡宏さんです。林さんは様々な場所や地域でプレイスメイキングを行い、地域ごとに団体をつくっています。
その1つが、「札幌都心プレイスメイキング実行委員会」です。札幌市の中心を流れる創成川の東側のエリアでエリアマネジメントを行う、一般社団法人さっぽろ下町づくり社の代表も担っています。
取材では、林さんがプレイスメイキングの活動をするにあたって意識する点についてや、札幌のパブリックスペースの可能性について話がありました。
林さん:
地域に住む人や地域に関わりのある人が参加するプレイスメイキングの実証実験では、集まった人の数よりも、地域の中でどんなプレイヤーが参加するかが大切です。来場者同士の繋がりが、札幌の底力になります。
と、プレイスメイキングの活動にあたり意識している点について話をしました。
また、
林さん:
パブリックスペースが生み出す力は、緑やベンチの多さだけの評価軸でははかり知れないものがあると思っています。
「人材育成」という軸においてもパブリックスペースは可能性があると感じていて、自分の好きなまちをつくるアクションを考え、自分がつくった空間から居場所が生まれ、そこに愛着が湧き、まちに興味が出て、その興味が将来の進路や職業につながったり、まちを再構築するアイデアに繋がったりします。
札幌には、それをサポートする熱い大人がいっぱいいます。人脈があることが最大の強みだと思うので、市民が自分を表現する環境を、これからもつくれればいいと思います。
と話しました。
札幌都⼼プレイスメイキング実⾏委員会 事務局長の林匡宏さん(左から林匡宏さん・泉山さん・田邊さん・荒井さん・田村さん)実践者とPlacemaking Japanメンバーによる座談会|札幌のプレイスメイキングのあり方について
最後に、取材をした4名とPlacemaking Japanメンバーで、プレイスメイキングという考えの普及・啓発のための既存の取り組みや新たな取り組み、公民連携のあり方などを議論した座談会を行いました。
佐藤さん:
プレイスメイキングは様々な制限のあるパブリックスペースで行うことが多いため、民間のプレイヤーが一方的に進めていくのではなく、行政と連携して考え進める必要があります。
民間から「この場所がこういうふうになったらいいな」というアイデアを提供してもらい、行政が目的や実現する計画を整えながら実行していく。そのような関係が札幌にはあります。
座談会集合写真内川さん:
ルールや条例が積み重なった上で空間はつくられています。その条例やルールを新たに検討したり、直接手をかけ、使いこなしたりすることができるのは、条例などのルールに詳しい行政だと思います。
また、民間は場所活用のアイデアを持っています。常にまちのこと、市民全員の立場に立って考えている行政と、まちのことを知り、活用に対するアイデアを持っている民間とがタッグを組み、まちづくりを進めていくことが大事です。
札幌市のエリアマネジメントにおけるポテンシャル
札幌市のプレイスメイキングにおいて、まちづくりの課題解決や、地域価値を上げる手段の一つとしてエリアマネジメントの考え方があり、自治体職員にも地域のプレイヤーにもその思想があることに筆者は驚きました。
まちづくりの目標を実現するために、まち会社や地域、行政、そして開発者の間で協力し調整を行うことが重要だと感じました。そのために、まちをどのように使うべきか議論をしていく中で、整備した後の活用をみんなで考え、目標の共通認識を広めていくことが大切になると感じます。
Placemaking Japanはこれからも、プレイスメイキングについての情報やネットワークを広めるための参考情報を提供し、国内のプレイスメイキング普及啓発を促進していきます。
「プレイスメイキング ツアー in 札幌」での座談会の様子は、近日動画公開予定ですので、ソトノバをチェックしてください。