ソト事例

Example

オープンスペース|空地

ストリート|道路空間

レポート

ミチを楽しむとヒトが変わり、マチも変わる!? パブリックマインドを育てる社会実験「OPEN STREET FUKUYAMA」

2017年秋、広島県福山市の駅前を舞台に行われた社会実験「OPEN STREET FUKUYAMA 2017 -ミチを楽しむマチが変わる-」。

福山駅周辺のまちが変わる予感にあふれた4日間の様子をレポートします!

福山市は広島県で2番目の規模の都市ですが、全国の地方都市と同様に、2000年代から郊外型ショッピングセンターの進出などの影響で、大型商業施設の撤退が相次ぎました。中心市街地である駅前は、空洞化やにぎわいの低下が深刻化しています。

OPEN STREET FUKUYAMAは福山駅周辺の快適性や回遊性を向上させ、まちのにぎわいを取り戻すために、道路(歩道・車道)や駅前広場、公開空地を活用した社会実験です。

実験の特徴を一言でいえば、まちのパブリックマインドを育てる社会実験。地元の有志を中心に企業や大学、行政がそれぞれのできることを持ち寄ることで実現したものです。

筆者は福山市出身のソトノバ・三谷繭子副編集長とともに都市計画コンサルタントとしてお手伝いをしており、今回はその模様と今後の取組みについてレポートします。

02

福山駅南口周辺の5つのエリアでOPEN STREET FUKUYAMAを実施。(Photo by Yuta YAMANAKA)

まちのみんながつくった社会実験

OPEN STREET FUKUYAMAの実施主体は地元の福山商工会議所を中心に立ち上げた「福山駅前等歩道空間活用社会実験実行委員会」。福山駅周辺の商業者などが参加しました。

実行部隊となる作業部会は、地元の有志が集まりました。まちづくりの志ある若手メンバー、福山市立大学の教員、学生の方々とともに、毎回20名ほどのメンバーで企画を温めていきました。

また、社会実験のアイテムとして使用するスツール、社会実験エリアを明示するためのガーランド、サインボードなどのツールは3回にわたる市民ワークショップで製作。

材料となる木材は地元の建設会社から、ガーランドに使用した備後特産のデニム生地は、福山を代表する繊維メーカーからそれぞれ提供いただきました。

福山では、このような社会実験は初めての取り組み。その中でもっともタフなパートとも言える、警察協議や保健所との調整などは、プロジェクト推進の中心を担った商業者の熱意と、福山市役所の元気な若手メンバーの活躍により乗り越えることができました。

OPEN STREET FUKUYAMAの最大の特徴は、このように多くの企業や市民、行政マンがそれぞれの持つリソースを出し合って役割分担し、実現したことです。

_1040042

社会実験のアイテムづくりのワークショップ。3回合わせて50名以上が参加。(Photo by Eiji KIKUCHI)

多数のスポットを連動させた、エリアぐるみの社会実験

OPEN STREET FUKUYAMAは福山駅周辺の道路空間だけでなく、駅前広場内の歩行空間や商業施設に隣接した民間敷地(公開空地)など、福山駅前広場を取り巻く5つのエリアで同時に実施しました。

当初は無謀にも思えましたが、空間特性が異なるそれぞれエリアでの社会実験を同時に実施できたことで、今後への課題がより明確になりました。

04

5つのエリア図。それぞれにコンセプトを設定してコンテンツをつくった。(Illustration by Momoko KIMURA)

まず福山駅前広場内の「インフォメーション」エリア。社会実験の実施をPRするため、JR乗降客や通行人に対して社会実験のコンテンツや、同時に開催されていたまちなかのイベント情報などを伝える案内所を設置しました。

隣接した座り場は、既設のプランターに合わせたデザインのカフェセット(テーブル・チェア)を設置しました。

5箇所の中でも日当たりの良いエリアには多くのひとが腰かけ、お弁当を食べたり、一休みしていました。

05A

「インフォメーション」エリアでは福山駅周辺の道案内も。(Photo by Yuta YAMANAKA)

05B

もともと設置されていたプランターと同じ色合いのカフェセットで統一感ある空間に。(Photo by Yuta YAMANAKA)

続いて旧キャスパ前の「スタートアップマルシェ」エリア。このエリアは、お店を出したことのない人や、チャレンジしてみたい人が小商いを通じて挑戦できる場をコンセプトにしています。

ここは福山駅南口で最も良い立地ともいえる場所ですが、大型商業施設「キャスパ」が2012年に閉店し、現在も空きビルとなっています。

その前面歩道ににぎわいを生み出すため、リヤカーをアレンジしたBANYORIワゴン、リヤカーゴを用いたマーケットを出店しました。さらにワークショップで製作したロングテーブルとスツールを設置し、誰でも一休みできる場所をつくりだしました。

06

リヤカーに地元の食材や手作りの小物などが並んだ「スタートアップマルシェ」エリア。(Photo by Eiji KIKUCHI)

07

長らく空きビルだったキャスパ前に高校生たちの笑い声が戻ってきた!(Photo by Yuta YAMANAKA)

3つめのエリアは「Book&Cafe」エリアです。こちらは複合商業施設アイネスフクヤマ前の歩道空間に、オープンカフェやミニ・ライブラリー(青空図書館)、飲食物をメインとしたマーケットを設置しました。

実は本棚に並んだ本や雑誌の多くは、地元の書店からの提供。本当に多くのヒトの力で支えられています。

「Book&Cafe」エリアは歩道に接した建物(アイネスフクヤマ)が大きくセットバックしているため、歩行空間も広々としていて非常に居心地の良い空間となっていました。

これまで全く使われていなかったのが本当に勿体ない! これからどんどん使い倒していきたいですね。

08

「Book&Cafe」エリアは子ども連れの家族に好評で滞在時間も長かった印象。(Photo by Eiji KIKUCHI)

09

もともと広かった歩道空間が活かされ、とても居心地の良い空間に。(Photo by Yuta YAMANAKA)

4つめのエリアはフューレック前に設置した「タタミテラス」エリアです。ここには、縁台の上で将棋をしたり、靴を脱いでくつろいだりできるスペースを作りました。

10

縁台で腰かけて談笑したり。(Photo by Eiji KIKUCHI)

こちらは純粋に民間敷地内。法律的な縛りは全くありません。これからアイデア次第で、もっと面白い使い方ができるかもしれませんね!

11

将棋に挑戦したり。まちでの新たなアクティビティが生まれる瞬間。(Photo by Yuta YAMANAKA)

最後に5つめは「パブリックバル」エリア。地場百貨店の天満屋南側のレンガ通りと呼ばれる場所に、ナイトタイムも楽しめるバル空間をつくりだしました。「パブリックバル」の設置範囲は天満屋福山店の公開空地と道路(市道)にまたがっています。

IMG_3274

夜間の電力の提供などは、天満屋福山店にご協力いただきました。(Photo by Mayuko MITANI)

 ここでは近隣にある4店舗の飲食店から選りすぐりのメニューをデリバリーできるシステムを、福山市立大学の学生がトライアル実施しました。

2015年に筆者も関わった、東京・池袋のGREEN BLVD MARKETで実施したデリバリー式の屋台を参考に考案しました。

これによって沿道の店舗だけでなく、まちなかの他の店舗も巻き込み、社会実験を福山駅周辺のエリア全体の取組みにステップアップしていこうとしています。

12

近隣店舗からのデリバリーでアルコール類も含めた様々なメニューが楽しめます。(Photo by Yuta YAMANAKA)

各飲食店でアルバイトをしている学生たちが中心にデリバリーを行いましたが、予想をはるかに上回る大盛況で大忙し!

デリバリーには自転車が大活躍で、学生たちは「パブリックバル」エリアと各店舗の間を行ったり来たり。

「忙しすぎて死にそうです・・・!」との嬉しい悲鳴もありつつ、オペレーションなどは次回以降に向けた課題も見つかりました。

IMG_3240

学生たちが大活躍!とても頼もしい力です。(Photo by Mayuko MITANI)

13

好評だった「パブリックバル」エリア。終了時間ギリギリまで宴は続きました。(Photo by Yuta YAMANAKA)

 

こちらは地元クリエイターの方が製作してくれた、OPEN STREET FUKUYAMAのプロモーションビデオです。

普段は人が滞留していない駅周辺エリアに、くつろぐ人の気配がじんわりと広がる様子がよくわかります。

2種類のご当地リヤカーが初のコラボレーション!

今回「パブリックバル」エリアや「Book&Cafe」エリアで使用したリヤカー。

実は、「BANYORI(バンヨリ)」と「reacargo(リヤカーゴ)」の2種類があります。

「reacargo」は福山市のお隣の尾道市で生まれたマーケットやマルシェ用に開発されたもの。「BANYORI」は「reacargo」の姉妹版として、量産型の屋外イベント用リヤカーとして製作されたものです。

どちらも個人オーナーからレンタルをするシステムができているため、周辺エリアのイベントには引っ張りだこ。ソト使いに必須のアイテムとして定着しています。

 

IMG_2828

reacargoをアレンジしたBANYORI。(Photo by Mayuko MITANI)

IMG_2806

人気のリヤカー、reacargoとBANYORIが競演したのは今回が初めて。(Photo by Mayuko MITANI)

後半2日間は、残念ながら秋の台風のため中止を余儀なくされました。

もしかしたら午前中は小雨で実施できるのではないか・・・という声もありましたが、通行人、利用者、関係者の怪我や事故があったら取り返しがつきません。様々な検討の結果、今回は中止の決断をしました。

ソトで開催する場合には、これら雨天の場合の判断やリスク管理も必要となります。これもプロジェクトにとっては大きな学びとなりました。

 

番外編として、日曜日に開催したOPEN STREET FUKUYAMAのエリアに面した商業施設内広場での音楽ライブの様子。

本来は、社会実験と同時開催の予定でした。雨にもかかわらず、道ゆく人が思わず足を止め、立ち見も出るほど。お客さんも体を揺らし、ノリノリに。音楽の力を感じる一場面でした。

社会実験実施中も、ライブがあるといいなぁという声がとても多かったので、チャレンジしたいことがまた増えましたね!

IMG_25682

道を歩く人たちが商業施設の広場に吸い寄せられるように集まってきた!(Photo by Mayuko MITANI)

初めての社会実験から見えてきた課題と展望。ナイトタイムが鍵?!

今回のOPEN STREET FUKUYAMAは、様々な時間帯の様子を観察するために、午前中から夜間(11:00~20:30)にわたって実施しました。しかし、これは警察からの要請で配置する警備員の費用負担が大きく、コスト削減の仕組みづくりが必要です。

また、継続に向けた資金づくり、5箇所にわたる広大な社会実験エリアの再検討や、最も効果のある(最も多く人の目に触れ、実験空間を体験する人が多い)時間帯に限定した開催などの検討も必要かもしれません。

福山駅周辺は出勤、帰宅時間帯の通行量が非常に多いことも、この社会実験を通じて見えてきました。

夕方以降の「パブリックバル」エリアは大盛況。アフター5のまちなかでの過ごし方を変えていくことが、失われたにぎわいを取り戻していく方策のひとつであるように感じました。

15

こだわった光の演出。高校生や大学生がこぞって自撮りする姿も。(Photo by Eiji KIKUCHI)

社会実験からエリアマネジメントへのストーリーを描く

今回の社会実験は、まちの居心地を向上させ、にぎわいを生み出す公共空間の常設化を見据えたものです。このような空間を福山駅前にアメーバのように広げ、面的に広げていくことで、エリアの価値向上につながることを目指しています。

福山駅周辺では、このようなパブリックスペース活用のみならず、リノベーションまちづくりも始まろうとしています。空き店舗や空きビルのリノベーションによる複数の拠点が、このような公共空間によってつながり、シナジーを発揮することで更なるにぎわいを誘発していくことが期待されます。

福山で始まったばかりの取組みはまだよちよち歩きですが、これからどんどん加速していく予感でいっぱいです。

OPEN STREET FUKUYAMAは次の取り組みに向けて、すでに動き出しています。まだまだ仲間は募集中です。

この記事を読んでいるあなたと、福山でお会いできる日を楽しみにしています!

16

帰宅時間をむかえた福山駅周辺。ココが変わればマチが変わる!(Photo by Eiji KIKUCHI)

Written in collaboration with Mayuko MITANI

【概要】

OPEN STREET FUKUYAMA 2017  -ミチを楽しむ マチが変わる-
実施期間 2017年10月26日(木)、27日(金)、28日(土)、29日(日)

※28日(土)、29日(日)は台風の為、中止。

実施場所 福山駅南口周辺(5箇所)
出店者 飲食(デリバリー出店含む)・物販など
実施主体 福山駅前等歩道空間活用社会実験実行委員会
WEBページ
Facebookページ

 

Twitter

Facebook

note