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ストリート|道路空間

レポート

道路予定区域の開放でまちはどう変わるのか?都市計画道路・暫定地活用社会実験「おおみやストリートテラス」#レポート

道路や空地の活用が増えてゆく一方で、道路事業のために行政が買い取ったままの空地「道路予定区域」があります。その多くは、事業上の都合から、すべての土地を買い取るまで数年間、時には数十年も、使われることなく空地のまま。

今回ご紹介する「おおみやストリートテラス」は、そのような未利用の道路予定区域を大胆にも開放するという斬新な社会実験です。街路などの公共空間をより豊かにしていくことを目指す「ストリートインキュベーション」の一環として企画されました。道路予定地の開放が、まちをどのように変えてゆけるのか。期間中の様子と運営へのインタビューをレポートします。

道路予定地は社会実験にもってこい?

そもそもこの取り組み、どのような目的で誰が提案したものなのか。

対象地の大宮駅周辺地域では、行政・市民・専門家が連携したまちづくりを行っています。その基盤となっているのが、今回の運営組織「アーバンデザインセンター大宮(UDCO)」。UDCOは2017年3月に設立されました。

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大宮のまちづくりの方針(出典:さいたま市HP 公共施設再編による連鎖型まちづくり)

区役所の移転計画や駅前の再開発事業など、公共施設の再編と連動し、街路などの公共空間をつかった大宮らしい文化の発掘を目指す「ストリートインキュベーション」の一環として、社会実験を考案。その実践の場として、行政が管轄する場所でありながら、暫定的に空地になっており、しかも交通が発生しておらず使いやすい「道路予定区域」が選ばれました。

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大宮区役所前の道路拡張事業の様子。

道路予定区域の利活用は、事業の進行を妨げることを懸念する意見が行政側に多いことから、実現に至る事はほとんどありません。まれに、行政から使用許可を得て利活用されている事例もありますが、それらはすべて住民からの要請に端を発するものであり、行政から使用許可を得る代わりに、町会・商店会などの地元住民団体が実際の管理・運営業務を託されています。あくまで公共の場であるため、用途は地域に還元する目的のみに限られており、主に期間限定で、地域の祭事や、ゴミ拾いなどボランティア活動の拠点となっているほか、駅前や商店街の中など、地理的な背景によっては、広場や休憩所など常設されている事例も見られます。そのような中で、出店者を募るなど収益事業を行い、前例のない取り組みを行政と連携したことは新しい動きだと感じました。

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ペイントや、ボルトを打ったりできるのは、直後に道路工事を控えているからこそ出来たこと。警察協議も簡単なもので済んだそう。

ストリートインキュベーション:道路ができたあと、どう使うか

「おおみやストリートテラス」は、「道路ができたあと、そこをどのように使うことができるのか」を視野に入れた計画である事がポイント。暫定利用の方法のみに限らず、その先に、そもそも根底にあるパブリックスペースの使い方についてまで、しっかりと見据えている点が見事です。道路予定区域の有効な活用法の理想的なモデルになっているのではないでしょうか。具体的には、道路空間活用の既往事例から6つの「道路断面プレビュー」を考案し、それぞれの空間構成に合わせて使い方を提案しています。ふと、短期的な社会実験を長期的なプランに反映させていく「タクティカルアーバニズム」の手法が脳裏をよぎりました。

5 道路断面プレビューダイアグラム

6つの「道路断面プレビューダイアグラム」(UDCO作成)から街路空間のあり方を考察。

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4.5m幅の歩道と1.5mの自転車道、あわせて6m幅の敷地を通行・滞留・商業など機能ごとにゾーニング。

割りふられたゾーンごとに、カフェ、読書ラウンジ、カウンター、ソファー、ショップ、駐輪所、こどもが遊べるスペースなどを設置。社会実験として、様々な参加者が入っていけるような仕掛けをつくっています。それぞれの空間に、ストリートファーニチャーのデザインや工夫が散りばめられていました。

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道路の仮設ガードレールを使いこなし、カウンターを設計。

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道行く人々とまちの様子を眺めながらアイスを食べる。今の時期ならではの一興でしょう。

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元気な売り子さんがアクセサリーショップをお手伝い。

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音楽イベントもやっていました。

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夕方からはビールも提供!

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くつだって脱いじゃう。

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自転車をとめたらテーブルになっちゃう、なんて遊び心も。

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区役所に寄ったついでに、ふらっと。

どこから使い手に委ねるのか

このように、運営をするUDCOは、空間デザインまで提案し、場づくりに貢献しているようでした。そこで気になったのは、つくる側はどこまで関わっていけばいいのか?という問題。ハード・ソフト両面の整備を、どこまで計画的に実現し、どこから使い手の介入による場の形成が期待できるのか。UDCOのデザインリサーチャー・新津瞬さんにお話を伺いました。

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屋根のデザインについて、確認申請の必要が無い工作物の範囲で、フレームに簡単な日除け幕を張る構成の屋根をデザインした、というお話でしたが…

筆者:私個人としては、誰でもつくれそうな感じが、すごく良いなと。

新津さん:それがすごく大事です。今回はUDCOが計画・運営していますが、今後は僕らが全部の計画をするわけではなく、例えば沿道のお店の人がちょっと前にベンチ出したいだとか、そういうことが可能となる仕組みを僕らがつくっていきたい。僕らはイベント屋さんではなくて、そういう使いたいって人が使える仕組みを考える人であり、ガードレールが目の前にあれば、こうすれば簡単にこんなカウンターができるよ、といった提案をしていくことが、目指しているところの一つではありますね。

筆者:そうやって、どんどん住民に場をつくっていってほしい、と。

新津さん:そうですね、こういうのを見て頂いて、いいなーと思ってもらって、声があがってくれば、行政としても動きやすくなるかもしれない。国交省の方などにも視察に来て頂いています。

アーバンデザインの今後

夕方、トークイベント「アーバンデザイントーク#003」開催にあわせて、会場のレイアウトをがらりと変更。若手建築家やデザイナー5名を招き、これからのアーバンデザインのあり方についての議論がなんと夜の路上で交わされました。

「建築家じゃなくても建築をつくれる仕組みを提供するサポーター的アーキテクト」
「1/1施工を容易に実現可能にしつつあるデジタル技術」
「小さな経済圏をつくること」
「ちょっとした再投資でリソースになるものをどう経営するか」
「地方に生産拠点をつくることは、全体的な社会システムの再構築になる」
「選択の自由と細分化」
「ストーリーを見える化すること」
「結局プレーヤーが出ない限り場は変えられない」
「稼ぐ公共をつくるための小さな再投資」
「地域間でもリソースの交換ができる繋がり」

およそ2時間に及ぶレクチャーとディスカッションからは、このようテーマが挙がりました。

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アーバンデザイントークの講師陣。左から、岩瀬諒子(岩瀬諒子設計事務所)、藤村龍至(パネリスト/UDCO副センター長)、刈谷悠三(neucitora)、辻琢磨(403architecture[dajiba])、連勇太朗(モクチン企画代表理事)

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夜風が気持ちよく、路上だからか、ラフな雰囲気がありました。

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話している後ろを、部活帰りの女学生たちが歌いながら帰っていく。そんな微笑ましい場面も「ソトノバ」らしさ。

all photos by Ayano Kumazawa

社会実験情報
社会実験名: おおみやストリートテラス
期間: 9/15(金)-24(日) 11:00-20:00
場所: 大宮区役所前道路予定地
主催: アーバンデザインセンター大宮(UDCO)
協力: さいたま市大宮駅東口まちづくり事務所

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