ソト事例
ワールド・トレンド|海外
NYのパブリックスペースのデザイン審査機関 「パブリックデザインコミッション」とは?
ニューヨークには魅力的なパブリックスペースが至るところにありますが、これらすべては「ニューヨークパブリックデザインコミッション」(以下、「パブリックデザインコミッション」)と呼ばれる委員会によって、デザインに関する決定が行われています。
たとえ市長が認めても、彼らが「NO」といえばデザインは白紙になるほどの権力を持っている、ニューヨークのパブリックスペースにおいて最大権威を有する委員会です。
※2017年度の年間レポートはこちらから
ニューヨークにおける数々の素晴らしいパブリックスペースの実現において重要な役割を担っている本組織の仕組みは、日本におけるパブリックスペースのデザインに関する決断を下す際に参考にすることができる点が多くあると思います。
そこで今回は、ニューヨークのパブリックスペースのデザインを審査するパブリックデザインコミッションについて紹介します。
筆者の通うコロンビア大学でも教鞭をとりつつ、パブリックデザインコミッションでエグゼクティブディレクターとして活躍している、ジャスティン・ムーア先生にもお話を聞いてきました。
Contents
「ニューヨークパブリックデザインコミッション」とは?
パブリックデザインコミッションは、パブリックアートやモニュメントの監督を目的に1898年に設立されました。
設立後、彼らの権力はすぐさま公共建築物やオープンスペースにも及ぶようになりました。パブリックデザインコミッションは、市有地における建築、ランドスケープ、アート作品のデザインを行います。
委員会は、市長が選ぶ11人のボランティアメンバーで構成されており、建築家、ランドスケープアーキテクト、画家、彫刻家、3人のデベロッパー、グラフィックデザイナー、ゲール研究所のエグゼクティブディレクター、ブルックリン美術館、メトロポリタン美術館、ニューヨーク公立図書館の代表など、幅広い分野の有識者で構成されています。
委員会の代表とその他役員は、委員会のメンバーによって決められます。メンバーは月例ミーティングで、標識からインフラ関連まで、幅広い種類・規模のプロジェクトプロポーザルの審査を行っています。
コミッションによるデザイン審査について
パブリックデザインコミッションによる審査対象となるのは、市有地で、市の機関によるプロジェクトプロポーザルに関するもの。
プロジェクトは、美術館や図書館といった公共建築物に公園、広場、さらにはストリートスケープを構成する街灯や歩行者道にアートインスタレーションの建設や修復まで多岐に渡ります。
各々のプロジェクトには、それぞれ異なる特定の規則があります。例えば、「公園、オープンスペース、ストリートスケープ部門」では、コンセプト段階、プロジェクトの中間・最終段階において審査が必要であるとされています。
さらに、パブリックデザインコミッションはプロジェクトの認可をスムーズにするために、デザインガイドラインの作成も行っています。
プロポーザルの審査に際しては、必要な資料と関係機関の署名の提出が以下のスケジュールで課されています。
デザイン審査の手順
ここで、市の機関の責任や必要な手続きについてみていきましょう。抜かりのない手続きを踏んだ後、パブリックデザインコミッションによるデザイン審査が行われます。
1.市の機関の責任
まず、プロジェクトの対象となる土地を所有する市の機関は、パブリックデザインコミッションに対して必要資料を提出しなければなりません。
例えば、市の公園にアーティストが作品を展示したい場合は、公園局が申請書類の提出をしなければなりません。同様に、コミュニティが歩道に追悼や記念の銅像を設置したいときは、交通局が申請書類の提出をしなければなりません。
2.コミッションの渉外係の役割
市の各機関は、自分たちの代わりに必要書類の手続きを行う渉外係を有しています。
彼らは、過去に提出したプロジェクトを含め、審査対象となるすべてのプロジェクトに関する書面を提出することによって、パブリックデザインコミッションによる会議の議題にあげるよう要求をする責任があります。
加えて、すべての提出資料に不備がないか、締め切りまでに提出が行なわれているかを確認する責任があります。
3.関係機関内のコーディネーション
パブリックデザインコミッションへのプロポーザルの提出に先立ち、申請者は内部機関からの承認を得て、ランドマーク保存委員など、他の機関による規則を満たしているかを確認する必要があります。
加えて、プロポーザルの管轄権が複数の機関にまたがっている場合、スポンサー機関が関係する他の機関とプロジェクトについてのコーディネートを行い、必要な承認を獲得しなければなりません。
4.パブリックデザインコミッションによる審査
プロポーザルが提出され、パブリックデザインコミッションやパブリックミーティングでプロジェクトの審査が行われる前に、パブリックデザインコミッションのスタッフは提出物に不備がないか、資料は十分明瞭であるか確認をします。
そしてパブリックデザインコミッションによる審査では、各機関がデザインに関するフィードバックを得ることができます。
この審査は一般市民に公開されていますが、一般市民に対してプロジェクトの投票や市民の意見を聞くわけではありません。パブリックデザインコミッションによる会議は録音・撮影され、会議から3日以内にオンライン上にアップロードされます。
5. パブリックミーティング
パブリックミーティングは、一般市民に公開されていて以下の2つのセクションに分けられています。
同意された議題 (Concent Agenda) |
すでに委員会から承認の勧告を受けているプロジェクトに対するグループ投票。 プレゼンテーション不要 |
公聴会 (Public Hearing) |
一般市民の意見を聞き委員が投票を行う、正式なプレゼンテーションが行われる公聴会。 |
パブリックミーティングの意見で委員会が採用したアクションは議事録に記録されています。これらの議事録は会議から1週間以内にアップロードされます。
興味のある方はこちらからご覧になることができます。
6.一般市民による意見
一般市民が公聴会で意見を述べることは歓迎されています。しかし、意見はパブリックデザインコミッションの範疇である、デザインや美的価値に関する問題に限られています。
市民による意見は既に同意された議題には考慮されません。しかし、既に同意された議題のプロジェクトの美的問題に関する意見があれば、パブリックデザインコミッションのスタッフにいち早く伝えることが推奨されています。
委員会によって要求された意見以上の変更がなく、プロジェクトが仮承認されてから1年以内に最終承認へ向けて必要書類が提出された場合、第2回の公聴会が必要とされない場合があります。
このような場合には、一般市民のコメントを追加で求めずに、パブリックデザインコミッションのメンバーは最終承認の投票をすることができます。市民は書面、口語の2つの方法で意見を述べることができます。
ジャスティン先生へのインタビュー
パブリックデザインコミッションでエグゼクティブディレクターとして活躍している、ジャスティン・ムーア先生に実際の意思決定のプロセスや、これまで審査にあたったプロジェクト事例についてインタビューをしてきました。
デザイン審査をするうえで最も気をつけていることは何ですか?
デザイン審査で最も気をつけていることは、多くの場合、コンテクストです。しかし、コンテクストはさまざまな方法で定義することができるため、本当に多様なコンテクストがあります。
例えば、建築環境におけるコンテクスト、プログラム的または社会的なコンテクスト、環境的または経済的なコンテクストなどがあります。
より大きな環境と公共領域に対するデザインの関係を評価することは、多くの異なるコンテクストを理解することを意味しています。我々のケースでは、プロジェクトが都市やその場所にどのように適合し、貢献することができるのかを理解することを意味します。
Our biggest consideration in design review is most often context. But context can be defined many different ways, so it is really multiple contexts.
There are built environment contexts, programmatic or social contexts, and environmental or economic contexts.
Evaluating a design’s relationship to the larger environment and the public realm then are about reading many different layers of context, and in our case, over time to understand how a project fits within and contributes to the city or the place.
最も困難であったプロジェクトについて教えてください。
最も挑戦的なプロジェクトは、文化的または社会的考察など、 デザインにおける無形または定性的な側面に対し、直接的に取り組まなければならないようなプロジェクトです。
デザインは機能的な一面を持ちます。またデザインは、特定のデザインに関するアイデア、プロジェクト、ディテールがそのコンテクストにおいて成功するかどうか測るためにケーススタディとして利用することもできます。
しかし公共のプロジェクトにおいて、より定性的、文化的、又は人の好みに左右されるような問題は、決断を下すのが難しい場合がよくあります。ニューヨークは地球上で最も多様な場所の1つであるため、パブリックスペースや公共建築物の審査を行う際は、何が適切で良いデザインであるか、という多様で時には相反するさまざまな考えを交渉しなければなりません。
The most challenging projects are those that have to address directly some of the intangible or qualitative aspects of design such as cultural or social considerations.
There are many aspects of design that are functional, or that you can rely on best practices or case studies to know whether a particular design idea, project, or detail will be successful relative to its context.
But issues affecting decisions around projects that are more qualitative or cultural or related to preferences are sometimes difficult to decide for public projects. New York is one the most diverse place on the planet, and so our public and shared spaces and buildings have to negotiate different and sometimes conflicting ideas about what is appropriate or good design.
1回のミーティングあたりいくつのプロジェクトについて話し合いますか?月例ミーティングのプロセスはどのような流れで行われているのですか?
毎月50~100件のプロジェクト、1年に最大1,000件のプロジェクトのレビューをします。これらのプロジェクトは、シンプルな建築物改修から大規模なマスタープランまで、種類、焦点、規模が大きく異なります。
私たちは小規模でプロフェッショナルなスタッフと共に内部でプロジェクトを審査し、プロジェクトを提出した様々な機関に最初の質問とフィードバックを提供します。
それから、委員会とともにプロジェクトの審査を行います。ほとんどの場合、この最初の審査は大きな懸案事項に対処しており、委員会への詳細なプレゼンなしにプロジェクトを承認することができます。
しかし、時々、1ヵ月の審査手順の中で解決できないプロジェクトや、詳細な議論や公聴会を必要とするプロジェクトがあります。これらのプロジェクトに関しては、月例会議で、各機関とデザインコンサルタントが詳細なプレゼンを行います。
委員会がプロジェクトについて話し合った後は、次回の会議に向け、さらなる改定に関するコメントが委員会によってなされます。プロジェクトに問題がなければ、これらのプロジェクトはその会議で承認されます。
We review anywhere from 50 to 100 projects each month, and up to 1,000 projects per year. These projects vary significantly in type, scope, and scale, from simple building renovations to large-scale master plans.
We review projects internally with our small professional staff and provide initial questions and feedback to the various agencies submitting projects.
From there, we review the projects with the commissioners or their questions ad feedback. Most of the time this initial review addresses major concerns, and we can move to approve those projects without full presentation to the commission. But sometime projects are not able to be resolved within the one-month review cycle, or they are projects that require detailed discussion, or public hearings.
These projects we have presented fully by the agency and their design consultants at each monthly meeting. Once the commissioners discuss the projects there are comments for further revision to be brought back at a following meeting, or if the projects are ok, they can be approved at that meeting.
どのようにして決断が下されますか?誰がより権力を有するのですか?どのようにして、建築家や他のステークホルダーと交渉するのですか?
プロジェクトの投票権を有する委員は11人いて、多数決によって決断が下されます。
パブリックデザインコミッションのスタッフは事前に勧告を行い、一般的にパブリックデザインコミッションはこれを重視して検討しますが、彼らによるレビューと投票が意思決定に大きな影響を与えます。
パブリックデザインコミッションは非常に強力であり、市の所有する土地に建設を行うプロジェクトは彼らの承認なしに建設することができません。各機関とデザインコンサルタントはプロジェクトについてのプレゼンを行い、様々なデザインに関する決断を考慮し、プロジェクトを進めていきます。
コンセプトデザインから最終審査まで行きつ戻りつ、デザインを発展させ、より複雑な問題を解決するためにミーティングが開催されることもしばしばあります。
There are eleven commissioners who vote on the projects, and it is a majority rule vote. The PDC staff make recommendations and generally the commission weighs this heavily in their deliberation, but their review and vote is where the decision making power lies.
But they are quite powerful, projects constructed permanently on city property generally cannot be built without the Design Commission’s approval.
Agencies and their design consultants present their projects and make their case around various design decisions and there can be back and forth how the design develops over conceptual through final reviews, and sometimes with meetings in between to help resolve more complex issues.
意思決定のプロセスについて教えてください。どのような基準や方法に従っているのですか?
各プロジェクトは毎月、パブリックデザインコミッションのスタッフと委員会によって全面的に審査が行われます。私たちのプロジェクトは非常に多様であるため、審査の方法は具体的な状況とプログラムに応じて決めます。
したがって、私たちの審査の方法を決定する単一の基準は存在しません。私たちは、審査に際し、内部と外部のさまざまなガイドラインと実践プロジェクトを参照しています。ニューヨークは複雑すぎるため、単一のルールやガイドラインでは対応しきれません。
Each project is reviewed in full by the PDC staff and Commission each month. Our projects vary a great deal and so the review is taken in its specific context and program.
So there is no single standard that governs our review, we refer to many different guidelines and best practices both internal and external. NYC is too complicated for single rules or guidelines.
パブリックデザインコミッションの利点と欠点を教えてください。
最大の利点は、市の所有する土地に建設されるすべてのプロジェクトの審査をすることができるグループが1つあることです。どのようなプロジェクトが進行中であるのかという大まかな理解があることは、異なる場所におけるプロジェクトに対して一貫性、公平性を保つことに役立ちます。
そして成功した公共投資は促進され、失敗したデザインは避けるように事前に確認することができます。
欠点としては、非常に多くのプロジェクトがあるため、1ヶ月のうちに、多様な問題、ディテールのすべてに優先順位をつけることが不可能であるということです。
The biggest advantage is that there is one group that gets to see all of the projects being built on the city’s property. Having a broad overview of what is going on helps to have greater consistency and fairness for projects across different locations and to make sure that public investments that have been successful are promoted, and that designs that have not been successful are avoided.
The disadvantage is that there are a lot of projects and it can be difficult to prioritize everything given the number of very diverse issues and details that arise in a given month.
どのプロジェクトがコミッションの介入により最も成功したと思いますか?
私の見解では、クイーンズ・ウォーターフロントのハンターズ・ポイント・サウスでの開発は、近年最も成功したプロジェクトです。
このプロジェクトは、複数機関の共同で開発が行われ、プロジェクト開始当初から持続可能でアフォーダブルな近隣街区をつくるという目標を持っていたため成功しました。
このハンターズ・ポイント・サウスにおける、新しい公園、道路システム、ミクストユース開発は、高密度に対応するという目標達成に向かって、良いデザインがどのように多様な住民のいる都市において生活の向上に貢献するのか、未利用地の再活性化の方法を示しています。
In my view, the Hunter’s Point South development on the Queens waterfront is the most successful project in recent years.
This is because the project was a collaboration of multiple agencies and had, from the beginning, the goal to create a sustainable and affordable neighborhood.
The new parks, street system, and mixed-use development in the site demonstrate how good design can contribute to a quality of life for our city’s diverse residents, and toward accomplishing large goals like accommodating greater density and how to revitalize underutilized areas of the city.
以上、ジャスティン・ムーア先生に答えていただきました。ありがとうございました。
エグゼクティブディレクターとして、コミッションのスタッフと委員会の調停もされ、双方をよく知る先生ならではのご回答でした。
ニューヨークにおける多様なパブリックスペースを審査する機関
いかがでしたでしょうか?
様々なプロジェクトが至るところで起きているニューヨークにおいてパブリックスペースのデザイン審査を行うパブリックデザインコミッションはとてもワクワクする機関ですね!
多様な分野からの有識者によって審査が行われ、一般市民の意見も積極的に受け入れていて、ゲール研究所が推奨している、”包括的なプロセス”を通じてパブリックスペースのデザインが検討されており、その審査の仕組みや手順などは参考すべき点が多いの機関です。
多様な民族の人達が生活しているニューヨークならではの複雑な考慮点にも対処しており、今後、オリンピックを控え、外国人が増えてくるだろう日本でも応用できる点が多くあると思います。デザイン審査で議論された内容は全てウェブ上で公開されているため、わたしたちも気軽にアクセスすることができます。ニューヨークと日本は異なる点が多いと言えど、デザインに関する決断を下す際に、多様な分野の有識者を巻き込む点や、一般市民への公開を積極的に行なっている点は参考にすることができ、今後も目が離せません。
Coverphoto by Shiori Osakata:おなじみのブライアントパークの光景