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駅前に眠る、空間と活動のポテンシャルを発見! 見附市「みつけるプロジェクト」 後編
新潟県見附市では、駅周辺の公共空間の老朽化やピーク時の交通渋滞などのまちの課題に対応するため、駅周辺の再整備について検討しています。
前編では、見附駅周辺の再整備を巡る「戦略」と「戦術」の全体像とプロセスについて紹介しました。後編では、その一環として実施した社会実験「見附駅周辺ミライ実験 みつけるプロジェクト」についてご紹介します。
(本記事は、ソトノバ・アワード2018応募に伴う応募書類を記事化したものです。)
Contents
社会実験「見附駅周辺ミライ実験 みつけるプロジェクト」の実施
3か月間の短くも濃密な議論を経て実施することとなった社会実験。
社会実験は、コピーライターをしている「みつけ駅周辺つかう会議(以下、「つかう会議」)のメンバーのアイデアや、長岡造形大学の学生らのデザインによるロゴデザインが決まり、「見附駅周辺ミライ実験 みつけるプロジェクト」という名称に決定しました。(以下、「みつけるプロジェクト」)
「みつけるプロジェクト」の目的と仮説は、つかう会議で議論をして以下のように設定しました。
①今はただの送迎待ちの場でしかない見附駅周辺でやってみたいことを、まずは有志で実際にやってみる②「普段づかい」と「イベントづかい」の両面から空間と運営のあり方を検証し、整備事業やマネジメント体制づくりへと反映する
③実験を通じて、市民の駅周辺再整備への関心を高める
①駐輪場の2階は見晴らしもよく電車も見えることから、心地よく滞在できる場所になり得るのではないか?(特に駅利用者の7割を占める高校生の居場所が必要)②駅は見附市の玄関口であることから、駅前で情報発信することで市全体の活性化に貢献できるのではないか?(駅前は見附市全体の「ショーケース」を担うという考え方)
③飲食やアルコールを出すお店は今は駅前にほとんど無いが、ニーズはかなり高いのではないか?
見附駅には現在東口のみに改札があり、西口からは暗い地下道でアクセスするしかなく、「見附駅周辺整備基本計画(以下、「整備計画」)」では東西自由通路(跨線橋)と橋上改札を設けることとしています。
しかし、近接する2階建ての駐輪場は、2階のレベルがこの東西自由通路とほぼ同じ高さに位置しますが、現状は2階まで自転車を上げることが面倒で、ほとんど使われていません。
そこで、「自由通路と駐輪場の2階をデッキでつないで、駐輪場の2階を快適に電車待ちや待ち合わせができる空間にしてみたらどうだろう」と、仮説①が立てられ、実験することとなりました。
仮説②は、見附市の都市構造に関係します。
前編でも紹介した通り、見附市は複眼都市で、現状の駅周辺はあまり発達していません。駅周辺が発達すると、ともすれば旧来の商店街から人を奪うとみられ、反対される懸念もあります。
そのため駅周辺の発展が旧来の商店街とwin-winの関係になり得ることを示す必要があったのです。
「普段づかいの実験」と「イベントづかいの実験」
このような目的・仮説のもと、「みつけるプロジェクト」は2018年9月7日(金)~9日(日)の3日間(vol.1)と、2018年10月12日(金)~14日(日)の3日間(vol.2)の2回に分けて実施しました。
「つかう会議」ではもともと「普段づかい」のあり方を考えるチームと、「イベントづかい」のあり方を考えるチームに分かれて議論をしてきました。そのため社会実験もvol.1では「普段づかいの実験」を、vol.2では「普段づかいの実験」に加えて「イベントづかいの実験」を行うこととしました。
まずvol.1では、仮説①を受けて駐輪場の2階(下図①)で行うこととしました。vol.2では、本来は駅前広場内で実行したかったもののが、管理者との協議を進めていくなかで「管理協定を逸脱するため許可できない」との結論となったことから、今回はひとまず道路を挟んで向かい側にある民間の駅前駐車場(下図②)を借り、整備計画で想定している交流広場と同程度の大きさを設定して会場としました。
いずれの実験とも、地元の飲食業者を招き、駐輪場2階やその周囲でブースを設置しました。
つかう会議メンバー手づくりの「みつけるプロジェクト」スタート!
それでは、社会実験「みつけるプロジェクト」の様子をご紹介します!
まずは設営の準備から。設営の準備にもつかう会議メンバーが多数駆けつけてくれました。
Vol.1:普段づかいの実験(9月)
Vol.1は、金曜日の午後15時から開催しました。
ちょうど近くにある見附高校の下校時刻を狙ったのですが、狙いは見事に的中し、多くの高校生らが「何をやっているんだろう?」という興味でのぞきに来てくれました。
この赤い色が映える素敵なイスとテーブル、それから奥に設置したテントは、見附市内の産業団地にあるアウトドアメーカー「スノーピーク」の協力によるもの。
ほかにも、長岡造形大学の学生が過去に製作し、大学に放置されていた「おかしなイス」も多数運び込んで活用しました。
そのうちに保育園や幼稚園が終わった子どもたちも集まり始めました。みんな、今まで見たことがない角度からの電車の往来に大歓声!
実験中は、アンケートを取るとともに「あなたなら、見附駅前で何がしたい?何がほしい?」というインタビューも実施。参加者の率直なご意見をたくさんいただきました。
金曜日ということもあり、子ども連れの家族も少し気が緩んでいるのか、20時を過ぎても多くの子どもたちが遊んでいます。突然現れた駐輪場2階の交流空間に、早くも存分に使いこなす見附市民の方々でした。
Vol.2:イベントづかいの実験(10月)
続いては、Vol.2「イベントづかいの実験」の様子。
まずは、長岡造形大学の学生さんたちによるバンド演奏から始まります。かなり本格的で、普段は静かすぎるほどの駅周辺に青春の叫び声がこだまします!
この日は、見附地区(旧来の商店街)でハロウィンイベントをやっているとのことで、商店街でのイベントの様子を「ライブカンバス」というソフトを使って駅前で中継し、商店街の活動を駅前で紹介する、まさに駅が市の情報発信拠点を担うという役割を担うための実験も行いました。
日も暮れ、いよいよ「みつけニットファッションショー」のスタートです!
単なる賑やかしのイベントではなく、市の産業である「みつけニット」を地元の高校生らが自らコーディネイトしてランウェイを闊歩する、地元の若者と地元の産業を新しいかたちで結びつけるというコンセプトです。
このイベントは、長岡造形大学4年生の末松くんや、市のニット会社で働く加藤さんらが中心となって、ゼロから企画し、準備し、関係者と交渉をし、リハーサルまで行って成功させたものです。
降客2,000人程度の見附駅に3日間で1,600人~1,800人が来場した「みつけるプロジェクト」は、大盛況で幕を閉じました。
みつけるプロジェクトの成果と課題
「みつけるプロジェクト」の成果と課題、そして今後の展望を整理します。
(この社会実験における仮説は、前編で紹介しています。)
【成果1】駐輪場2階という、隠れたサードプレイスを発見できたこと(仮説❶に対応)
「お試し」として駐輪場の2階を使ってみたところ、想像以上に居心地のよい、電車を眺めながら子どもから大人まで(もちろん高校生も)多世代が滞在できる普段使いの空間になり得ることがわかりました。
実験を受けて、駐輪場2階は大きく役割を転換することとしました。今後はアクティビティ調査やアンケートの結果を設計に反映していきます。
なおサンプル調査では平均滞在時間が人工芝上では43分、テーブル席では58分となり、「2時間以上いられるカフェ」という当初の冗談のようなアイデアに恥じない結果となりました。
【成果2】「ニット」や「健幸」と連携した情報発信実験ができたこと(仮説❷に対応)
「イベント使いの実験」は、単なる賑やかしではなく、市の産業「ニット」や、将来像「健幸」と連携したコンテンツを、つかう会議メンバーが発案し、企画・実行しました。
特に市で生産されたニットを地元の高校生らがコーディネイトしてランウェイを闊歩する「みつけニットファッションショー」は、市のワカモノと産業を結ぶ成果を得ました。
また、同日に遠隔地である商店街のイベントを駅前で中継するなど、駅が市の情報発信拠点を担う実験ができたことで、駅周辺と既存市街地との新たな関係性も見出すことができました。
【成果3】飲食などの集客ポテンシャルが確認できたこと(仮説❸に対応)
今回出店した店舗は、市内や近隣でも有名なお店ですが、これらのお店の多くが「通常の店舗営業より繁盛した」と報告してくれました。
今回は初回の試みということで出店料などは徴収しませんでしたが、今後この取組を継続していくために出店料などの目処がついたことは大きな収穫です。
【成果4】社会実験を行う過程で、整備計画への理解が促進されたこと(目的❸に対応)
協議会では交流広場を設けることに懐疑的だった委員らも、「つかう会議」や「みつけるプロジェクト」での機運の高まりによって交流広場の必要性を理解してくれました。
また、社会実験会場で整備計画の内容についてオープンハウス方式の説明を行い、参加した一般市民にも広く整備計画の内容を理解してもらうことができました。
【成果5】「つかう会議」に参加したい人がどんどん増えていること(予想外の成果!)
社会実験来場者に配布したアンケートをみると、「つかう会議」に参加したいという声が大変多く(アンケート母数の約7%、約40名弱)寄せられています。
通常、このような設問に対しては一人、二人が反応してくれれば御の字、ということが多いと思われるなか、これだけ多くの方が「つかう会議」に参加したいという意思表示をしてくれたことは異例とも言えます。
これを受けて、来年以降の「つかう会議」では順次メンバーを増やしていくことを検討しています。
【課題1】持続可能な財源の確保
たくさんの成果が得られた一方で課題もあり、そのひとつが持続的な財源確保です。
今回は初回ということ、企画の開始から実験まで3ヶ月程度しかなかったこと(雪国の屋外では10月以降の実験は困難であり開催を急いだ)から、収益を得る取組についてはひとまず見送りました。
しかし来場者数の多さや【成果3】の結果などから十分に収益化の目処はついたため、次回以降は出店料や協賛金、広告収入などから持続可能な財源を確保する取組にもチャレンジします。
【課題2】次回は駅前広場内でも実験できるようにすること
前述のとおり「イベント使い実験」は、本来は駅前広場内で実行したかったのですが、管理者との協議を進めていくなかで「管理協定を逸脱するため許可できない」との結論となったことから、今回はひとまず道路を挟んで向かい側にある民間の駐車場を借りました。
次回以降は駅前広場でも実験ができるよう、既に管理者間の調整を進めているところです。
【今後の展望】実験の継続による事業への反映と将来のマネジメント体制の構築
2018年度現在、見附駅駅前広場などの基本設計を行っています。順調にいけば2019年度には詳細設計、2020年度以降には工事へと進んでいきます。
「つかう会議」と「みつけるプロジェクト」を今後も継続し、使い方の議論や実験結果を事業へと反映させていくとともに、整備後に公民が連携して駅周辺をマネジメントしていくための体制づくりを進めていきます。
見附市で公民連携による社会実験が短期間に実現できた要因
最後に、これら一連の取組を支援させていただいたコンサルタントの立場から、見附市で公民連携による社会実験が短期間で実現できた要因を考察します。
要因1:丁寧な対話による、信頼関係の構築
ひとつには、前述のとおり「見附市と市民との間に信頼関係が構築されている」ことが挙げられます。コンサルタントである筆者は、様々な都市の行政と市民の関係を見てきましたが、見附市のように信頼関係が成立している都市ばかりではありません。
見附市でなぜ信頼関係が構築されているかというと、その理由のひとつが見附市の自治組織「地域コミュニティ」の形成過程にあると考えます。
見附市では市内を小学校区程度の規模で自治組織を再編し、「地域コミュニティ」と呼ぶ地域運営組織を形成しています。この組織には地域運営に関する一定の権限と予算が付与されています。
地域コミュニティを形成するまで、1地区ごとに行政と地元が時には2年以上ほどかけて話し合い、じっくりと組織を形成していくそうです。
そして2018年には、市内最後の「地域コミュニティ」が形成されました。市全域でこのような取り組みが進んでおり、行政と市民との間の壁や市民同士の壁がなくなり、信頼関係が構築されるのではないでしょうか。
要因2:見附市民としての誇り(シビックプライド)
もうひとつの要因として、見附市民であることのシビックプライドの高さが感じられました。
2014年に見附市が全市児童生徒に行ったアンケートでは、小学生の96%、中学生の89%が「見附市が好き」と回答したそうです。今回の社会実験で実施した調査でも、「見附市の自慢は?」という問いに「自然の豊かさ」、「利便性」、「市政」、「市民の人柄」など様々なことが挙げられ、見附市への愛着が伺えました。
さらに、つかう会議メンバーとして貢献したいと思ったり、社会実験に面白がって来場するといった行動は、愛着を持つだけでなく、見附市民としてのシビックプライドの高さを表していると思います。
「我が町はキーパーソンがいなくて進まない」?そんなことはありません!
このような信頼関係とシビックプライドが要因となって、つかう会議メンバーは「みつけるプロジェクト」に自分ゴトとして取り組み、自ら進んで汗をかいたことで、結果としてわずか3か月で市民・民間の手づくりによる社会実験が実現できました。
「駅前カフェ」からはじめ、「つかう会議」へ移行する流れなど、できる限り丁寧なプロセスデザインには留意したものの、公民連携による社会実験が短期間で実現できた要因に特別なものはありません。
逆に言えば特別なキーパーソン、特別なタレント(技能)はなくともこれだけのことができるという証明になったわけで、整備計画のコンセプトに掲げた「これからの地方都市駅周辺空間のモデルとなる」という言葉のとおり、公と民がまちへの愛着を持ち、きちんと向き合えば、どこでもこのような取組はできることがおわかりいただけたかと思います。
社会実験後、2018年11月に行った「つかう会議」でメンバーに対し、「次年度以降もつかう会議に参加するか」というアンケートを取ったところ、「ぜひ参加したい」が8割、「興味はあるが改めて考える」、「その他」が1割でした。
一過性で終わらないことはこのアンケートだけで十分に伝わる状況であり、さらに発展する社会実験「みつけるプロジェクト」と「つかう会議」に引き続き『伴走』して行きたい、と強く思います。
Cover Photo by みつけ駅周辺つかう会議