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【book】近年注目あびるマーケット事例・実践ガイド「マーケットでまちを変える」
近年日本で増えているマーケットやマルシェ。野菜や果物、パンやジャム、手作り作品などなど・・・様々なものが並んだお店が並ぶマーケットは、とてもワクワクしますよね。
私がオーストラリア・メルボルンに留学していた頃は、毎週水曜日に大学内で開かれるファーマーズマーケットが一週間の楽しみのひとつでもありました。
そんな私が思わず「読みたい!」と手に取った1冊の本が、ソトノバコラムニストでもある鈴木美央さんによる『マーケットでまちを変える: 人が集まる公共空間のつくり方』。
東京とロンドンのマーケット100事例を調査分析するとともに、著者自らがマーケットを企画・実践する過程を通し、マーケットとは何であるのか、まちや人々に与える効果とは何かを説得力をもって提示してくれます。
Contents
マーケットとは何か
著者の鈴木美央さんは、英国の設計事務所Foreign Office Architects ltdでの勤務経験もある建築家。現在は建築設計、行政アドバイザー、公共空間の研究などを行う傍ら、実際にマーケットの企画・運営も行うなど、研究・実践の両面からマーケットを追求するスペシャリストです。
本書におけるマーケットの定義は、以下の4点を満たすものとされています。
①屋外空間で売買が行われていること
②入場に制限がないこと
③仮設であること
④伝統的な祭り・フリーマーケットを除く
その上で著者は、「マーケットはきっかけであり、手段である」ということを強調します。マーケットでの出会いや学び、喜びが、地域住民の生活の質を向上させ、地域経済を活性化し、まちの魅力をアップさせる。それによってまちへの愛着や誇りが育まれ、まちの担い手を増やすことにもつながる。
ゆえに、本書のタイトルの通り「マーケットでまちを変える」ことができるのです。
マーケットはイベントではない
本書は7章から構成されています。
第1章では、歴史的なマーケットの位置づけと、現在のマーケットの特徴について示されています。
興味深かったのは、「マーケットはイベントではない」という著者の指摘。日本におけるマーケットは、イベントとして捉えられることが多い一方、世界の多くの国ではマーケットは生活や文化の一部になっています。
マーケットをイベントとして位置付けると、マーケットを開催することが目的になりがちです。しかし、先に触れたように、マーケットはきっかけであり手段。マーケットが人々の日常を豊かにさせ、まちを変える可能性を秘めていることを知っている著者だからこそ、「マーケットはイベントではない」と言い切ることができるのです。
ロンドンと東京の100事例の分析から、マーケットの実態を描き出す
第2章では、ロンドンのマーケットについて詳細な調査をもとに、その運営実態や形態パターンとその事例が紹介されています。
事例紹介では、マーケット開催時と非開催時の様子が写真で対比されており、マーケットがまちなかの空間にもたらすインパクトが一目瞭然です。
ロンドン市が、マーケットを都市戦略として位置付け、マーケット専門の諮問機関を組織したのも分かる気がします。
第3章では、東京にある5つのマーケットを対象に、その運営実態を豊富な写真と図を使いながら紹介しています。
具体的な運営組織図や、運営形態(出店者の集め方や出店料徴収の仕組み等)は、これからマーケットを始めようと考えている人にとって参考になるのではないでしょうか。
さらに、第4章では、東京のマーケットの立地分析と、ロンドンと東京のマーケットにおける比較が行われています。
立地分析では、東京のマーケットが開かれる公共空間を7種類に分類し、その特徴を明らかにしています。そして、ロンドンと東京のマーケットの公共空間の活かし方について比較分析され、5つのポイントが示されています。
中でも「道路利用のハードル」というポイントでは、東京(日本)における道路利用に対する厳しい制限が指摘されています。対するロンドンは、道路及び周辺環境が柔軟に利用されていますが、これはマーケットが文化の一部になっていること(第1章)、マーケットの運営が法律によって定められていること(第2章)、都市戦略として積極的に推進されていること(第2章)が背景にあると考えられます。
さあ、マーケットをDIYしよう!
第5章では、著者による調査及び様々な参考資料・データを用いながら、マーケットが生み出す15の効果と、その効果を引き出すための具体的なアクションについて書かれています。マーケット運営者にとっては、今すぐに実行したくなるアイデアが満載です!
第6章では、著者がDIYした「Yanasegawa Market(柳瀬川マーケット)」について、その企画から当日の運営、将来的なマーケットの育成まで、45ページにわたって詳細に綴られています。
これを参照すればマーケットがつくれると確信できるほど充実した内容は、本書が優秀なマーケット実践ガイドでもあることを示しています。
最終章の第7章では、マーケットとシビックプライド(人々が街に対して持つ自負と愛着)の関係性が構造的に説明されています。なぜ「マーケットでまちを変える」ことができるのかに対する答えもここでまとめられています。
日本のマーケット文化形成を後押ししてくれる一冊
東京とロンドンの事例比較が一つの軸となっている本書。マーケットが文化として根付くロンドンの事例は、一見すると東京の事例より優れているようにみえますが、著者は東京のマーケットを否定することはありません。
著者は東京の事例から「未成熟なマーケットならではの自由さ」を見いだし、ロンドンとは異なる新たなマーケット文化創造の可能性を示してくれるのです。
また、マーケットをDIYすることは、まちをDIYすることなのだということを本書は教えてくれます。マーケット開催時・非開催時の写真の対比は、マーケットがまちの空間に与える物理的な影響力が大きいことを如実に示しています。
マーケットでの人や商品との出会いやその喜びが、マーケット開催場所を「ただの場所」から「自分の楽しい記憶が織り込まれた、自分の場所」へと変化させるという影響力もあります。それらが、自分のまちをDIYすることへと、人々を導いてくれるのです。
マーケットを開くにはクリアしなければならないこともたくさんありますが、本書で紹介される著者の経験・アドバイスが背中を押してくれます。公共空間を、ひいてはまちをDIYするボトムアップの力強い息吹と可能性をひしひしと感じられる一冊です。
著者の鈴木さんは、ソトノバでマーケットに関する記事を執筆されています。こちらもぜひお読みください!
●「マーケットが日常を変える! ロンドンのストリートマーケットのストーリーから見えてくるもの」
●「公園活用には魅力がいっぱい!Yanasegawa Marketから見る公園でマーケットを開催する理由」
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