ソト事例

Example

ストリート|道路空間

公共空間と商業街区の間を伝統芸能が練り歩き! 復興途上の大船渡、再整備後初の道路占用

岩手県大船渡市において、官民連携のリーディングプロジェクトとして、中心市街地の再興が進められる「キャッセン大船渡エリア」。同エリアで2017年11月23日、エリア内の商業者から構成される実行委員会が主催する「キャッセン秋のマルシェ」を開催しました。筆者は同エリアにおけるエリアマネジメントの推進主体である「株式会社キャッセン大船渡」のタウンマネージャーとして、企画と運営で関わっています。

6年前の東日本大震災後、中心市街地が再整備されて初めてとなる、道路を占用したイベントです。エリアを目一杯使って実施した当日の様子をレポートし、これからの大船渡での「公私空間」(道路などの公共空間と商業街区)の一体的な使い方の可能性について考えます。

当たり前のように道路上がにぎわう

県内各地から生産者やクラフト作家などが集まり、キャッセンの商業者を含めて29店が出店しました。目玉企画は午前と午後2回のお振る舞い、そして、ミスさんさ踊りと岩手大学学生さんさ同好会による「さんさ踊り」の練り歩きです。

DSC_0029

スタッフ手づくりの「歩・行・者・天・国」サイン Photo by Toru HIJI

あいにくの天気で集客に不安が残る中、道路占用の開始時間を迎えました。“歩・行・者・天・国”と書かれたサインは、キャッセンのスタッフによる手づくりです。見た目に少し難がありますが、この辺りは今後の社会実験の機会を通じて、徐々に改善していければと思います。

事前の心配をよそに、午後には雨も上がり、多くのお客さんでにぎわいました。

DSC_0090

Photo by Toru HIJI


DSC_0113

Photo by Toru HIJI

車道を占用しているにもかかわらず、行き交う人からは、「普段使わない場所を使っている」という緊張感を感じません。何故なのか、お客さんに聞いてみました。

──道路を使ってやっているイベントなのですが、印象はどうですか?
「ここは車さの通るとこなのす?」(ここは自動車の通るところなのですか?)
「おら知らねがった。車に乗んねぇもんでがすと」(私は知りませんでした。自動車に乗らないもので)
「まぢがにぎわうのはいいもんだっけぇ」(まちが人でにぎわうのは本当にいいことですよね)

いたって自然に、買い物やイベントを楽しんでいました。

この点は、整備計画の段階から、商業施設のある事業用定期借地と道路空間と河川空間を一体的に整備し、来街者がストレスを感じないよう、設えと動線に配慮したことが奏功しているように思えます。

その証拠に、「ミスさんさ踊り」と「岩手大学学生さんさ同好会」のメンバーによる、「さんさ踊りの練り歩き」の様子を並べます。

DSC_0156
DSC_0176
DSC_0188
DSC_0203
DSC_0215

DSC_0225

Photo by Toru HIJI

商業施設と公共用地との境目を滞りなく、練り歩くことができました。まるでさんさ踊りを踊るために空間があるかのようでした。

盛岡さんさ踊りは東北を代表するお祭りです。通常のパレードでは大きな通りを大行列で練り歩きます。建物敷地内を縦断することはありません。

そのため今回のように、もともと直線的な演舞と、曲線・直線が織りなす変化に富んだ空間との組み合わせは新鮮であり、一種の「異空間」が生まれたと言えるのではないでしょうか。

「利用のしやすさ」と「日常・非日常」の組み合わせで効果が異なる?

さて、一連の観察を通じて、1つの仮説に行き当たりました。

それは、(1)公共空間の性質がにぎわい利用に向いているかどうかということと、(2)利用目的の種別(日常的・非日常的)とを2軸でみた場合、創出される効果にも違いが出るのではないか、ということです。

Print

公共空間と仕掛けの2軸により分類される創出効果の仮説 Illustration by Toru HIJI

例えば、「にぎわい利用のしやすい公共空間」と「日常利用」の組み合わせである(2)は、今回のマルシェのようなケース。「非日常利用」との組み合わせとなる(4)は、今回のさんさ踊りのようなケースを想定しています。

一方、「にぎわい利用のしにくい公共空間」を「日常利用」する(1)は、天王洲アイルのT.Y. HARBOR River Loungeのようなケースが考えられます。「非日常利用」となる(3)は、三陸・大船渡夏まつりの海上七夕のような、大掛かりなケースがあるでしょう。

(4)に関して、道路空間以外を活用した当エリアの既存の取り組みとして、今年の8月に開催した三陸国際芸術祭 2017 大船渡を例示します。

商業施設の間に流れている河川(須崎川)の親水護岸を、子供達によるダンスパフォーマンスや海外から招聘した伝統芸能団体の演舞の場として使いました。

0173

Photo by Yuki IDA (C)2017

親水護岸の下部にある平場を舞台に見立て、階段部分を客席として活用したところ、神事の価値を増幅させる「異空間」の創出効果が観察できました。

この親水護岸は、河川管理者である岩手県と道路管理者である大船渡市、事業用定期借地の借地人兼エリアマネジメントの推進主体であるキャッセン大船渡とで協議・調整し、にぎわい用途を想定した設えにしています。河川管理者である岩手県においては、安全性や美観を保持することを前提とし、利用許諾に関して柔軟に対応しています。

Print

管理主体の空間区分 Illustration by Toru HIJI

今後はさらなる社会実験を通じて、住民が普段抱いている各公共空間に対する印象と実際の利用に関し、「利用目的が公共空間の潜在的なポテンシャルを引き出す」要因になるのか、反対に「公共空間の性質の違いが利用目的の価値を高める」要因になるのかを整理します。そしてそれらが集客に対してどのような効果を与えるか、という視点から、仮説を検証していければと思います。

キャッセン 秋のマルシェ

期間 2017/11/23(木・祝) 9:00〜14:00
場所 キャッセン・フードヴィレッジ、キャッセン・モール&パティオ、須崎川沿い市道
主催 キャッセン秋のマルシェ実行委員会
共催 株式会社キャッセン大船渡、岩手大学三陸復興・地域創生推進機構
後援 大船渡市、JAおおふなと、さかなグルメのまち大船渡実行委員会
協力 盛岡商工会議所、岩手大学学生さんさ同好会

キャッセン大船渡エリアについて
キャッセン大船渡エリアとは、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた大船渡市大船渡地区において、官民が一体となって協議会を組織し、商業・業務を中心としたまちづくりが進められている地区です。

Print

キャッセン大船渡エリア8つの街区配置図 Illustration by Toru HIJI

当エリアでは、まちの運営方針として、下記の3つを掲げています。

(1) プレイスメイキング
上図の②⑤街区は株式会社キャッセン大船渡が開発主体であり、周囲の景観などに配慮した景観指針を作成し、整備を行いました。この独自の景観指針をベースに、市が地区計画を策定し、周辺の民地を含めた地域全体の景観誘導を図ろうとしています。

一方で、できたばかりのまちは味気ないため、「空間は関わる人たちが育てていくもの」という観点から、住民(特に子どもたち)を巻き込み、街の風景に色をつけていくイベントや勉強会などを実施しています。

(2) タウンプロモーション
商業・業務が中心のエリアであるため、取り組む施策は「売上に直結すること」が重要で、売上につながらないにぎやかしなどは疲へいを生むのみだと考えます。また、商業者の魅力を伝え、「共感」をきっかけとして、ファンの獲得へとつながることも重要です。

来街者と商業者の接点を増やし、商勢圏が縮退する中でも、商圏人口が増加するような仕掛けとして、商品磨きや商店主が「アクター」となるイベントなどを仕掛けています。

(3) エリアマネジメント
日常的に来街者を獲得する仕掛けを考案しながらも、公共と民間、商業と居住、隣接街区間などの「すき間」を埋めて、より高質なエリアを形成しながら、それを維持するための関係性と体制を構築し、比類のない独自の都市経営を行うために、官民連携の協議会において、将来計画を描いています。

今回のマルシェは、大きくは上記の(1)か(3)のすべてに関わる社会実験として実施しました。

Twitter

Facebook

note