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週末は駅前広場へ! 多治見駅前の水と広場の深い関係

多治見市といえば、夏の気温の高さから毎年のようにニュースで報道され、今年も40.7度を2度記録するなど「日本一暑い」都市のひとつとして知られています。人口は約11万人、岐阜県南部に位置しています。

夏場は非常に暑い多治見ですが、JR中央本線の多治見駅前には水と緑があふれ、市民が愛する「虎渓(こけい)用水広場」という駅前広場があります。まちなか広場賞の大賞を受賞したことでも注目の、この広場の魅力を探っていきましょう。

川の流れを感じる広場

2016年に完成した虎渓用水広場は、面積約3700m2。JR多治見駅周辺の土地区画整理事業に併せて、利用されていなかった旧国鉄用地を集約し、広場として整備しました。

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駅前の一等地を堂々と広場として利用しています

設計を担当したのはオンサイト計画設計事務所。駅前広場の構想段階では、市民と商工会議所が「多治見駅北地区における虎渓用水を活用した水と緑の委員会」を立ち上げ、一緒に広場の機能やデザイン、そして駅前広場の在り方を検討してきました。 

そして、交通処理の目的ではなく、市民の滞留を目的とした全国的にも珍しい駅前広場が誕生しました。

広場の特徴は、なんといっても水の豊かさです。虎渓用水の取水源である虎渓山から流れる土岐川の一片を感じることができます。

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一級河川土岐川の流れは雄大!


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広場でも、小川の流れを楽しむことができます

広場内には高低差があり、勢いよく流れる水が目を引きます。また水面をよく見ると、土岐川から流れ込んだのか、小魚を見つけることができます。

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駅前であっても、自然の中にいるような印象を与えます

一方、広場をぐるりと歩いてみると、緑に囲まれた景色を楽しむことができます。至るところに木陰があり、暑さや日差しを気にせず滞在することができます。また、広場内には大きなイベント広場と3つのテラスが設置されており、「こけい」のロゴが入ったイスを好きなところに置いて、思い思いの場所で休むことができます。

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可愛らしいムーバブルチェアで広場内を自分の空間に


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くつろいだり、おしゃべりしたり、勉強をしたり……広場の使い方は人それぞれ

かつてのライフラインを憩いの風景に

実は駅前広場に流れているこの水は、明治35(1902)年に掘削され、長年にわたり多治見の農業発展を支えた農業用水です。

多治見の市街地が形成される以前、この地域は深刻な水不足に陥っていました。そこで農民たちは、乏しいながらも資金を出し合い、難工事を経て低地に水を引くことに成功しました。その用水は田畑を潤し、住宅地においては防火用水としても使われました。虎渓用水は、人々の生活にとって重要な役割を担ってきたのです。

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取水源の虎渓山から見下ろす多治見市街


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虎渓用水を取水するポンプは今も町中に残っています

しかし、特に1960年代以降の高度経済成長期に市街化が進行し農地の転用が進むと、用水路の多くの部分は暗渠になっていきました。その存在は、人々の記憶から徐々に薄れていったのです。

それでも、多治見の人々が虎渓用水の存在を忘れていたわけではありませんでした。土地区画整理事業に併せて虎渓用水を復活させようという意見が集まり、実現に結び付いたのです。かつて使われていた用水路の途中に専用の導水管を取り付け、動力を使わず、自然勾配のみで多治見駅前まで引き込むことに成功。かつての農業用水は、環境維持や保全を目的とした環境用水として登録され、多治見駅前に憩いの風景をもたらしました。

日常に溶け込むサンデーマーケット

虎渓用水広場では、特に週末になると様々なイベントを楽しむことができます。そのひとつが、市民の身近なイベントとして定着しているタジミサンデーマーケットです。毎月第一日曜日に開催されており、フード、ドリンクに加え、アートワークショップなどが出店。ライブパフォーマンスを観ることもできます。

「サンマー」の愛称で呼ばれており、コンセプトの「歩く・眺める・買う・遊ぶ・観る・食べる・楽しむ」という通り、居心地の良い虎渓用水広場で自由な時間を過ごすことができます。

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イベント広場。隅々に作家さんたちの作品が並びます


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6月にはロシアンバレエが披露されました!

サンデーマーケットの他にも、夏場には毎週金・土曜日にビアガーデンを開催しています。地元の人にとって休日はもちろんのこと、JR多治見―名古屋駅間の通勤客も一定層いることから、金曜日には駅前広場で一杯飲んで家に帰るという、新しい駅前広場の活用もできるかもしれません。

多治見の遺産を次世代に受け継ぐ「広場」

2016年に広場が完成して以来、この場所が多くの人に愛される理由は何でしょうか?

水と緑に囲まれた居心地のいい空間構成もさることながら、多治見の人々が共通認識として抱いていた「大切な用水路」を「歴史的遺産」として位置付け、現代において誰もが利用できる形で復活させたことではないかと思います。

駅前広場の整備と利用面から見れば、交通処理の目的ではなく、駅前の広場を憩いの広場として活用する珍しい例として捉えることができるでしょう。

広場の管理運営は指定管理者制度により、現在は「多治見まちづくり株式会社」が役割を担っています。この記事では主に週末の様子を紹介しましたが、市民が気軽に活用できる日常のイベントにも力を入れています。今後、虎渓用水広場がどのように地域の人々に利用され、変化していくのか、ますます目が離せません!

Cover photo by Aohiro Okabe(多治見まちづくり会社)
Other photos by Kunika KONAKA

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