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2冊著者の白熱議論!クロストーク ストリートデザインから都市をプランニングする

先日、出版記念クロストークに参加してきました。2冊の著者が計6名集まり、それぞれの著書のプレゼンを聞いた上で、質問や議論を行う、クロストーク。内容も非常に面白い内容でしたので、主催の学芸出版社さんのレポートを転載して、紹介いたします。


7.29にタイルギャラリー京都で、出版記念クロストーク「ストリートデザインから都市をプランニングするーストリートデザイン・マネジメント × 小さな空間から都市をプランニングするー」。2冊合同の出版記念トークという珍しい形式のイベント、豪華6名のゲストということもあり、会場は満員御礼。

ストリートデザイン・マネジメント』からは、横浜国立大学助教・三浦詩乃さん、山口大学准教授・宋俊煥さん、東京大学助教/ソトノバ・泉山塁威さんに、『小さな空間から都市をプランニングする』からは、大阪府立大学准教授・武田重昭さん、和歌山大学准教授・佐久間康富さん、法政大学教授・杉崎和久さんにお集まりいただきました。それぞれ書籍のテーマカラーが赤/黒なので、「赤と黒の対話」です。

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(左から)三浦詩乃さん、宋俊煥さん、泉山塁威さん
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(左から)武田重昭さん、杉崎和久さん、佐久間康富さん

前半は、それぞれの登壇者によるミニプレゼンでスタート。

三浦詩乃さん×宋俊煥さん×泉山塁威さんの『ストリートデザイン・マネジメント』チーム(赤)からは「みち」という都市空間に見出す可能性、地域特性や適性に応じたテクニカルな活用法について、ボリューム満点な書籍の一部をコンパクトに紹介してくださいました。

武田重昭さん×佐久間康富さん×杉崎和久さんの『小さな空間から都市をプランニングする』チーム(黒)からは、魅力的な個々の都市空間の成り立ちを「帰納的」に解釈し、これからの都市に求められる「漸進的プランニング」へのバトンとした「10の手法」を、後半の議論へと続く話題提供に。

続く後半のディスカッションは執筆者チームそれぞれの書籍について質問を投げかける形式で進行。都市を捉えるアプローチや実践のプロセスの差異、共通するビジョンや着眼点について、さまざま議論しました。ダイジェストでご紹介します(以下、敬称略)。

質問/小さな空間(黒)→ ストリート(赤)

Q. ストリートが大事なのはなぜか?(武田)

小さな空間のひとつにストリートがあるが、他の空間と違うストリートならではの目標はあるか。人が来ればいい、儲かればいいという賑わい至上主義を超えていくことが必要ではないか。都市の中の“ストリート”の可能性はどこにあるのか。

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「ストリートデザイン・マネジメント」著者に質問をする武田さん

→ 私的領域と密接にかかわっているのがストリート。まちのツボを押さえることができ、自分たちのまちを「取り戻す」という感覚があり波及効果が大きい。身近な空間で変化を見せることに意義がある(三浦)

→ エリアのイメージをつくれる。ケビン・リンチの『都市のイメージ』にあるように、ストリートは都市の顔。例えば丸の内のまちのイメージは、ストリートと密接に関係する。働きながら楽しめる空間や、公園のにぎわい軸として、ガイドラインにちゃんと位置づける意義は大きい(宋)

→ ストリートの魅力について語るとき、賑わい以外の意味を考えたい。賑わいという「貝へん」の漢字(貯金・賄賂・賭博)はお金に絡む。日本がバブルを引きずっている象徴。賑わいだけではなくつながる場所をつくりたい。賑わい以外にも、福祉や子育てや格差、地域経済(例えば、メルボルン:ポイントクックのショッピングセンターとの連携)など向き合いたいテーマや可能性も多様にしていかなければ(泉山)

Q. 戦略的に仕掛けていく立場として、その「外側(対象エリアの周辺)」との関係をどう意識しているのか?(杉崎)

例えば五条界隈の事例でいうと、行政は何もしていない。民だけで生まれる新しい動きであり、いわゆる「計画の外側」にアクティビティの魅力の話。一方、戦略的に仕掛ける対象であるストリートデザインにも「計画の外側」への波及効果を狙ったような動きがあるならお伺いしたい。

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「ストリートデザイン・マネジメント」著者に質問をする杉崎さん

→ 今までの都市計画は、専門家目線でつくられていて、誰の目線からの「外側」かを考える必要があるように思う(泉山)

→ やはり外側でも、市民に任せるだけでないプロセスデザインに可能性があるのではないか。五条もそうはいっても車が多すぎる。ストリートを取り戻すと言う意味では、グリーンインフラなどをそれこそ行政主導プランだがボトムアッププロセスで取り入れれば、幹線道路が担う役割やイメージが変わるはず。(三浦)

Q. 「都市経営」や「全体」と、ストリートをどうつないでいけるのか?(佐久間)

小さな動き(ストリート)<地域(界隈)<都市、というスケールのなかで一番大きな「都市=三層目」をどうつなぐかを議論したい。そこが見えてくれば、一歩先に行けるビジョンを描けるように思うが、そのあたりをどう考えているのか。

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「ストリートデザイン・マネジメント」著者に質問をする佐久間さん

→ 市民の目線のボトムアップなアプローチを含めて動的なビジョンをもつべき。今は市民のニーズと行政の施策の距離感が離れてしまっている。公と民が共有したビジョンであるべきで、3~5年で変えていけるような短期のビジョンが必要に思う(泉山)

質問/ストリート(赤)→ 小さな空間(黒)

Q. 民の役割をどう考えているか?(宋)

行政がやってきた都市計画も成熟社会で都市が充足するなか、どう変わればいいか。行政ができないことを民がやる小さな空間の活用事例のうち、神戸市の大和船舶土地など志のある不動産業者の動きなどに興味があるが、そうした民の活動がもっと行政の計画とつながればいい。小さな空間と行政がつながる事例を教えてほしい。

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「小さな空間から都市をプランニングする」著者に質問をする宋さん

→ 姉小路の事例は、「民」がものすごくがんばっている。いい塩梅で行政がサポートしている状況が面白い。五条は幹線道路だが、回りにヒューマンスケールは山程ある。だからむしろ「なにもしない」がゆえの居場所、という新しさがある。専門家としてまったく関与すべきでないことで生まれる価値だから、本音をいうと悔しさもある。(杉崎)

Q. 10の手法ができるとどう変わり、なにを目指しているのか。(泉山)

東京にいると知ることのない関西の事例が詳細に書かれていて、現地を訪れてみたくなった。とはいえ書籍構成の、事例編(過去)と理論編(現在・未来)両者の接続が難しい。執筆プロセスが積み上げだったからか、共著者の主張や考えが微妙に違うように読めたが、どうなのか。

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「小さな空間から都市をプランニングする」著者に質問をする泉山さん

→ 先にフレームが決まっていたわけではなく、小さな空間を見て、議論をしていくことからメンバーそれぞれの視点で手法を掘り下げてきた。全員が全員同じ方向を向くというよりは、多様性を大事にしたい。10の手法については、行政にも民にも役に立つことを目指している。行政にはあたらしいプランニングマインドをもってもらいたいし、民には自分たちの手の届く範囲外(=外側)への波及効果にも関心を持ってほしい。(武田)

→ ここ最近相次いで公共空間系の書籍が出版され、都市空間のプランニングへとつながる次の時代の萌芽が見え始めている。それが知りたい・見たいという自身の興味がある。小さな空間から「帰納的」に導かれるロジックにならざる得ないが、小さな実践の後追いで枠組みをつくるような新しい計画の役割があるように思う。(佐久間)

Q. そのうえで、行政の役割とは?(三浦)

小さく積み上げてジェントリフィケーションが起きない塩梅の各事例を通じて、余白というキーワードが見えてきた。その余白を「民」が埋める可能性について語られている本だが、そのうえで行政は何をすべきなのか。シビルミニマム、セーフガードとしての行政の役割の大切さを訴えるには、現行の指標の置き方などに問題があるのかもしれないが、どう考えているか。

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「小さな空間から都市をプランニングする」著者に質問をする三浦さん

→ 行政の役割は今後ますます重要になると思う。だからこそ、行政の挑戦事例を本書ではしっかり紹介した。行政には特に、場当たり的で閉じた空間ではなく、空間の魅力を都市へつなぐプランニングが必要だと思っている。(武田)

→ 田舎の研究では、移住という私的な行為に行政が関わる意味について議論になる。移住を強制はできないが、移住する人のための「環境」を整える、プレイヤーのアクションを支援することはできる、というのが当面の結論。二つ三つの小さな実践をつないだり、みんなの気持ち・方向性を揃えて、後から枠組みをつくる、という役割は、やはり必要では。(佐久間)

質問/会場から(一部)

都市計画家、専門家がいなくてもまちがつくれるのでは?

→ 例えば五条は、四条があるから五条があって、オモテがあるからウラがある。一定程度行政のプランニングが機能しているからこそ、五条も面白い。(杉崎)

→ まちには時間軸のフェーズがある。市民だけで一番良い状態をつくれたとしても、かならず悪くなるときがくる(ジェントリフィケーション、仲違い)。その予防医療として専門家がいる。悪くならないようにどうするかを考える。(泉山)

→ 自分たちのことは自分たちでやるという姿勢は必要だが、自分たちができることしかやらないというのは閉塞感がある。身の回りのやれることだけやるのではなく、それを都市全体につなげていく行政や専門家との連携があることが健全なのでは。(武田)

もともと歴史がないまちの沿道店舗に、小さいドンキホーテみたいなお店が並んでしまうことを行政は防げる?韓国はどうアプローチしている?

→ 韓国はトップダウンが多い。商店街の合意形成を、第三セクターの若手(20~30代)主体が調整する仕組みがうまく機能して合意形成できた。人が歩いている繁華街などは、露天商が課題だが、彼らはうまく調整しながら魅力的な屋台店舗を配置した。(宋)

→ しかし行政が良くなかったのは、完成後に第三セクターを解散させたこと。行政の担当課が担当するようになると、地域とのつながりが途絶えてしまった。また、人が増えてジェントリフィケーションが起きてしまい、チェーン店が増えてきてしまうという課題も露呈している。(宋)

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会場の議論の様子

ひとまず以上、6名分の話題提供はまだまだ聞き足りないほどのあっという間の二時間でした。とはいえそれぞれの立場で書籍としてまとめられたステートメントを介した対話はとても刺激的でした。パブリックスペースへの多様な視点を持ちより、立場は違えど、たくさんの共通点とビジョンの重なる部分を再確認する場として有意義だったのではないかと思います。

話足りない・聞き足りない部分もありましたが、その分は次回につないで今後もまだまだ議論を深める契機としましょうということに。ご登壇くださった先生方、参加者の皆様、ありがとうございました。

レポートで物足りなさを感じられた部分は、2冊の書籍にしっかりとまとめられております。「黒」と「赤」の読み合わせ、ぜひ楽しんでみてください!

All Photo by 岩切江津子

Text:岩切江津子(学芸出版社)

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