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地域を巻き込む球団施設で、産官学が公共空間の未来を語らう 「パブリックデザイン ─横浜から考える、これからの公共空間─」レポート

近年、行政と民間事業者が共に住民サービスを向上させることで、地域活性化や事業効率を向上する取り組みとして、PPP(Public Private Partnership:公民連携)が注目を集めています。

公民連携に加えて、大学などの研究機関が行政と民間事業者の中に入り、産業や地域の活性化を目指す産学官連携もあります。

今の時代、公共空間を新しい形にしていく際に、なくてはならない取り組みですよね。ソトノバ読者のみなさまは、この話題について関心が高い方が多いのではないでしょうか?

そんなタイムリーな話題について、産学官のそれぞれの分野で活躍している3人のゲストを迎えたトークセッションが7月10日、開催されました。今回は、この講演会の様子やトークセッションから筆者が読み取った、これからあるべき公共空間像や実現のノウハウをレポートしていきたいと思います。

主催は横浜DeNAベイスターズ

このトークセッションのテーマは、「横浜から考える、これからの公共空間」。神奈川県横浜市に新しくできた複合施設「THE BAYS(ザ・ベイス)」が会場です。

このTHE BAYS、横浜市指定有形文化財である旧関東財務局横浜財務事務所を、民間企業の株式会社横浜DeNAベイスターズが借り受け、横浜の新たなライフスタイルや産業を生み出す拠点としてリノベーションしたもの。今年3月にオープンしたばかりの施設です。正に公民連携を語り合うのに最適の場所ですね。

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横浜市指定有形文化財をリノベーションし、生まれ変わった「THE BAYS」 Photo by Suzuna MIKURINO

そのTHE BAYSの2階部分に、「CREATIVE SPORTS LAB(クリエイティブ スポーツ ラボ)」という「次のスポーツ産業を生み出す共創基地」をコンセプトにした会員制シェアオフィス&コワーキングスペースがあります。この空間に、総勢60人弱が集まりました。産学官のテーマにふさわしく、スーツを身にまとった市役所職員や、民間企業のサラリーマンが目立ちます。総勢60名弱の方が参加して会場は大盛況!

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THE BAYSの2階部分のイベントスペース。ところどころ、人工芝が室内に。アウトドアブランドのスノーピークのキャンプグッズがインテリアとして使われていました! Photo by Suzuna MIKURINO

トークセッションは、建築設計事務所オンデザインパートナーズ代表の西田司さんの司会・進行で始まりました。西田さんはTHE BAYSの立ち上げ当初から、ベイスターズと連携して企画・設計に携わっています。産官学それぞれの分野で活動を実践している3人のゲストを囲み、公共空間をテーマとした話を繰り広げていきます。

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トークセッションの様子。左から西田司さん、馬場正尊さん、一言太郎さん、保井美樹さん Photo by YDB

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司会を務めたオンデザインの西田司さん Photo by YDB

行政と民間とのつなぎ役が必要

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馬場正尊さん 株式会社オープン・エー/東北芸術工科大学教授/株式会社nest
1968年佐賀県生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂で博覧会やショールームの企画などに従事。その後、早稲田大学大学院博士課程に復学。雑誌『A』の編集長を経て、2003年にOpenAを設立し、建築設計、都市計画、執筆などを手掛ける。同時期に「東京R不動産」を始める(Photo by YDB)

建築設計事務所の代表や、新しい切り口で居住者をマッチングする不動産ウェブサイト「東京R不動産」を立ち上げるなど、ハード面からソフト面まで幅広く手掛けてきた馬場さん。民間の立場で新たに取り組んでいるのが「南池袋公園の運営」です。

南池袋公園は、豊島区が土地を所有・管理する区立公園。PPPによってカフェや芝生広場を持つ公園としてリニューアルを果たし2年目を迎える、注目の公共空間です。

馬場さんは公園を運営するにあたって、「PPPエージェント」という新たな職能の存在が大事だということを強調していました。PPPエージェントとは、行政と民間企業の間に立って、両者の思いを翻訳する職能を持つ人のことです。

あるとき、行政側の人は公共空間をよく使うための責任があり、一方、民間企業側は利益を出さなければいけない、と両者の思いがぶつかり合う場面がありました。そこでは馬場さん自身がPPPエージェントのような立場を担い、そういった存在に大変有効性を感じたそうです。そして、こういった存在が増えるべきだとも話します。

パブリックとプライベートの境界の中間領域をデザインすることが大事。そのために、行政・民間企業の間に立って三位一体となりながら、市民の代表者としてつなぐ機能も果たすPPPエージェントこそが、これからの日本の公共空間に新しい系譜を迎え入れるのではないか。

身体に働きかける公共空間が選ばれる

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一言太郎さん 国土交通省 都市局 都市計画課 課長補佐/元スポーツ庁参事官(地域復興担当)補佐
横浜市出身。2006年東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、国土交通省入省(造園職)。都市局公園緑地・景観課・まちづくり推進課等で都市公園、都市緑化、緑地保全、復興等に関する業務を担当。2015年、スポーツ庁に出向、新設されたスポーツ施設に関する総合的な政策部局の担当者として、スポーツ基本計画、スタジアム・アリーナ改革指針、スポーツ施設のストック適正化ガイドライン(案)の策定等に従事(Photo by YDB)

現在、国土交通省の職員として13年目を迎える一言(ひとこと)さん。学生時代などに、目黒区の公園でスタッフやボランティア活動を行っていた経歴の持ち主です。国土交通省スポーツ庁に在籍時の大きな仕事は、スタジアム・アリーナ指針とスポーツ施設のストック適正化でした。

スタジアム・アリーナ指針を作る際に、今までのような単純なスポーツ産業化の推進だけでは、公共空間のあり方を変えられないこと。そして現代の日本経済において、すべてを税金で賄っていくことはできない、と感じていたという一言さん。

だから、

新しい公共施設のあり方として、民間企業の力を入れつつ、自治体にも受け入れられる指針を示していくべき。

という思いで公民連携の指針をつくっていたそうです。

また一言さんは、都市計画の流れとして地方分権が進んだことや、IT技術の進化によって、情報や物資の供給、働き方という利便性の面で、地域差が縮小していると認識しています。そうすると、その土地にいることによりどれだけ快適に暮らせるか、どれだけ幸せを感じることができるか、という点が、これからの都市間競争の判断基準になってくると述べます。

これからの公共空間において、

そこにいる人の身体性に働きかけるコンテンツになれるかどうか、が重要なポイント

だと話していました。

規制緩和から市民からのボトムアップ活動に

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保井美樹さん 法政大学教授/全国エリアマネジメントネットワーク副会長
早稲田大政治学士、NY大都市計画修士、工学博士(東京大学)。米Institute of Public Administration、世界銀行、東京市政調査会、東京大学などを経て、2004年より法政大。エリアマネジメント、官民連携まちづくりを専門とし、研究の傍ら、各地での実践を支援する(Photo by YDB)

自営業の家庭に生まれ、大人になるにつれ、“まちの運営”について興味を持ったという保井さん。現在はアメリカのBID(Business Improvement District)について研究しています。

BIDとは、不動産所有者や事業者といった、商業地区内の地域のステークホルダーに共同負担金(行政が税徴収と同様に徴収する)を課し、それを元手に地域内の不動産価値を高めるためのサービスを提供する制度です。

保井さんは、今年4月に全国エリアマネジメントネットワークでニューヨークを視察したときの最新のBID事情を中心に、話題を提供しました。調査の結果、BIDの対象となる空間機能としては公園を主体とした公共空間が多くを占め、様々な手法が存在していることが分かったそうです。

最後にはBIDの現状から考察し、日本での適用可能性について触れました。

現状の日本においては、BIDのような市民と行政・民間企業で地域を支えていく仕組みは整っていません。いろいろな規制緩和を組み合わせて、公共空間の活用が始まった段階です。また、民間企業にとって、十分な収益を上げることも難しい状況です。しかし、特に河川や道路などの分野で、毎年のように新しい規制緩和が生まれているのは良い傾向でしょう。

次のステップは、市民の声から生まれる活動が開かれた存在でありつつ、行政・民間企業からも支えられる存在になることだそうです。

その地域がやりたいことを提案すればいい。市民自身が考えを持ちうまく使えば、自立するための収益も上がり、新しい運営の形が生まれる可能性が高い。それを官と民がバックアップしていくことが大切です。

行政と民間で責任を分け合う

3人のゲストがからの話題提供が終わると、司会の西田さんを加えてディスカッションがスタート。馬場さんへの、南池袋公園を2年間運営してきた中での経験に対する質問から始まりました。

馬場さんは、「公共という概念の難しさを改めて感じることになった。公平を担保しすぎると、誰のためにもならない。かといって、民間企業に委ねすぎると、公園ではなくなる。そのチューニングがとても難しい」と回答。ここから、行政と民間企業がうまく寄り添っていくための話に展開します

行政と民間企業がいかに対話することがやはり重要で、PPPエージェントの存在が大切であることを語った馬場さん。次に、馬場さんから一言さんに対して、行政としての立場を質問されました。

一言さんは行政と民間が寄り添うためには、(1)専門的知識を持つ人、(2)法的知識を持つ国の役人、という2者が鍵を握ると言います。両者はともに、住民や行政だけでは判断しにくいグレーゾーンの部分を紐解いてくれる存在です。その人たちをもとにジャッジしてもらうと、みんなが納得した方向に進むと話しました。

さらに話が進むと、責任問題の折り合いについて進みます。

馬場さんは、現在は行政の責任負担が大きすぎると指摘。しかし、公共空間をつくり変えていくことは、みんなにとってメリットなのだから、行政だけでなく、責任の一端を民間企業も一緒に受ける姿勢が重要と語りました。

「その土地らしさ」がこれからの公共空間を導く

最後に論点は、横浜のこれからの公共空間のあり方に至ります。横浜を盛り上げていく可能性のあることは何か、という話からスタートしました。

馬場さんいわく、

公園や横浜スタジアム、民間企業の横浜DeNAベイスターズにしろ、とてもいいなと思うことは、はじめから「みんなのもの感」がある。だから、横浜のルールは構築しやすい気もする。そういう球団やパブリックスペースの方がおそらく強くなるし、収益性も上がる。みんなが自分のものだって思ったら、そこにみんなお金をかけて楽しむから。

例え話として、ヨーロッパのサッカーチーム。“俺のチーム”だという感覚がありますよね。そういう感覚を市民が持っている横浜は、それをどう事業化するか、そのための仕組みづくりに取り組みやすい場所性を持っていると思います。それが横浜の面白いところであり、日本における模範解になってほしい。

また、保井さんも「横浜の公共空間」という共通感覚を持っていることが強さだと賛同。他の場所ではなかなか見られないこと、と指摘します。これからの日本の公共空間を盛り上げるためには、人や空間を含めた“その土地らしさ”を形成していくべきだと総括しました。

みんなのものだということにするためには、みんなのものにはならなくていいけど、誰かのものになるべきという空間はつくること。誰かのための利益をできるだけ多く積み重ねれば、公共の利益につながっていくでしょう。

このまとめには、会場の参加者も納得。2時間に及ぶトークセッションの締めとなりました。

産学官のプレーヤーをゲストに迎えたトークセッションレポート。いかがでしたでしょうか? 筆者にとっても学ぶべきキーワードが多すぎて、まとめることも一苦労。とても濃密な時間でした!

筆者が初めて横浜を訪れたとき、そこで働いているスーツ姿の方たちや散歩中のご婦人、あるいはランニング中のスポーツマンまで、それぞれが胸を張って過ごしているように見えました。講演会を聞いて、その理由が腑に落ちた気がします。「このまちを愛している」という意識。人に愛されるものを形成すること、それがエリアを変えていくヒントになるということが分かりました。

現在の日本には、ソトノバで紹介する事例以外にも、まちの人に愛される場所や空間が次々に生まれています。日本全体がパブリックスペースから盛り上がる時代です! これからも様々な事例や知見のある情報をお伝えしていきたいと思います。

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Photo by YDB

【CREATIVE SPORTS LAB EVENT 003「パブリックデザイン ─横浜から考える、これからの公共空間─」】

日時 2017年7月10日(月)19:00開始(18:30開場)
会場 CREATIVE SPORTS LAB(神奈川県横浜市中区日本大通り34 THE BAYS 2F)
参加費 2000円(税込み)※1ドリンク+懇親会費
司会 西田司(オンデザインパートナーズ)
ゲスト 馬場 正尊(株式会社オープン・エー/東北芸術工科大学教授/株式会社nest)
一言 太郎(元スポーツ庁参事官(地域復興担当)補佐)
保井 美樹(法政大学教授/全国エリアマネジメントネットワーク副会長)
主催 横浜DeNAベイスターズ CREATIVE SPORTS LAB事務局

【タイムスケジュール】

18:30 開場
18:40 THE BAYS施設内ツアー(※希望者のみ)
19:00 トークセッション
20:45 懇親会
21:30 閉会

【CREATIVE SPORTS LABについて】
CREATIVE SPORTS LABは、Sports×Creativeをテーマに横浜DeNAベイスターズが運営する会員制シェアオフィス&コワーキングスペース。企業やクリエイター、エンジニア、行政、大学など、様々な人・組織・情報が集まり、場所を共有するだけでなく、交流・コラボレーションすることで、次のスポーツ産業を共創していく拠点となることを目指します。

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