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オープンカフェ天国! コペンハーゲンの街路空間のにぎわいの秘密を読み解く

デンマークの首都コペンハーゲンの中心市街地を散策していると、街路空間にたくさんのオープンカフェが露出している光景を目にすることができます。オープンカフェはコペンハーゲンでは人々の生活の一部として溶け込んでおり、街の魅力を引き立てる大事な要因のひとつとなっているようです。

一体なぜコペンハーゲンのオープンカフェは魅力的で、人々から愛されているのでしょうか。今回は、東京都市大学大学院の前芝優也が、デンマークへ3週間ほど短期留学したときに観察した、コペンハーゲンのオープンカフェによって生み出される公共空間のにぎわいについてレポートします!

20年間で4倍以上! 6万平米が歩行空間に

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ニューハウンのオープンカフェ

今のコペンハーゲンのにぎわいある街路空間は、長い時間をかけて少しずつ形成されてきました。

デンマークでは1950年代、都心部を中心に自動車文化が急速に発展し、まちなかが車で溢れた結果、歩行者のための空間は限られたものになっていきました。

この状況を改善するため、1962年にコペンハーゲンのメインストリートである「ストロイエ」を一時的に歩行者専用道路化する社会実験が行われました。この社会実験の効果が認められて、1965年には常設化され、1968年にはストロイエ全体の舗装が歩行車専用に改修されました。

その後も歩行者のための空間の魅力は見直され続け、1962年時点で1万5800m2であった都心部の歩行者専用空間は、1974年には4万9000m2にまで増加していました。現在ではコペンハーゲン1番の観光地となっているニューハウンは1980年に歩行者専用道路に切り替えられ、結果、合計で6万6000m2もの街路、広場が歩行者専用空間となったのです。

このような歩行者専用空間の広がりの過程で、オープンカフェの歴史は1970年ごろから始まりました。1986年時点で2970席だったオープンカフェは、1995年に4780席、2005年には7030席と2倍以上に増加しています。オープンカフェが設置できる期間についても改善され、2012年時点では4月から9月に限定されていましたが、2014年には通年で設置できるようになりました。

このように、今では世界で最も住みやすい都市のひとつと呼ばれるようになったコペンハーゲンの人々のための空間は、半世紀以上に渡って改善され続けてきた地道な努力の結晶なのです!

コペンハーゲンでオープンカフェを開くには

オープンカフェなど公共空間の商業目的での使用は、市などの基礎自治体が規制しています。具体的には、「公道に関する法律(Permissions on public roads)」、「公園などの市有施設に関する法律(Permissions on parks or other municipal property)」、「共有私道に関する法律(Permissions on private public roads)」の3つの法律に基づいて、各基礎自治体が条例を定めます。これを「屋外座席設置条件(Conditions for outdoor seating)」と呼びます。1つの条例にまとめられているおかげで、市民がオープンカフェを設置したい場合などは基礎自治体にワンストップで申請することができます。希望者が申請を出しやすいようにする努力が伺えますよね。

例えばコペンハーゲン市では、営業時間、効力、自動再申請、領域使用の取り決め、失効、電源、秩序と衛生、匂いと騒音、公告、使用可能家具の10項目に条例を整理しています。

8時から24時までオープンカフェでの営業が可能で、営業時間後30分以内にオープンカフェに使用しているすべてのファニチャーを撤去するか、使用できないように重ねるなどして片付ける必要があります。

椅子やテーブルなどの公共空間における使用料はかかりません。ただし、看板など主に宣伝に使用されるファニチャーを設置する場合に限っては、その種類やサイズに応じて設定された料金を自治体に払います。例えば、一番安い幅60cmの看板を設置する場合の料金は、中心市街地で年間2367DKK(デンマーク・クローネ、1DKKは約18円)、中心市街地以外の地域で年間717DKKに設定されています。

ファニチャーを配置できる領域には細かい規制は定められておらず、人が通れるスペースを最低でも150cm(混雑しやすい地域では200cm)設けることが市内一律のルールとなっています。実際には、市の職員に書類審査と現場検証をしてもらった後に許可が下ります。

ファニチャーごとにルールを課して適度な秩序を

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カバーの付いたヒーターを設置するオープンカフェ

コペンハーゲン市の屋外座席設置条件の最後の項目には、使用することができるファニチャーの種類とその使用規定が記されています。使用できるファニチャーを次に示します。全部でたったの8種類です。

(1) テーブルと椅子のセット
(2) ライト及び炎
(3) パビリオン
(4) バーカウンター
(5) プランター
(6) パラソル
(7) ヒーター
(8) 棚

同市がファニチャーに課しているルールをちょっと見てみましょう。

たとえばライト及び炎については、ビビッドカラーの光源や、キャンドルなどカバーがなく露出している炎は使用が禁止されています。キャンドルはカフェ店舗内のテーブルには必ずと言っていいほど置かれているのですが、オープンカフェでは使えないんですね。

またパラソルについては、全開時に申請した範囲をはみ出さないようにすること、最大で4m×4m以内にすることを定めています。さらに色に関しても決まりがあります。原則として白を使用し、周囲に馴染む場合に限り黒の使用も許可されるようです。また設置の際には、市から認可を受けた施工者が施工許可を申請して、パラソルホルダーの設置工事をしなければなりません。

好きなファニチャーが自由に置かれていると思っていたのですが、細かい決まりがあったのですね。書かれている文章だけを読むと、とても自由度が狭い印象を受けます。しかしながら、実際に街で見かけるオープンカフェ空間は、どれも実に多様性に富んでいてワクワクした気分にさせられます。ファニチャーの種類や大きさが限られている中でも、レイアウト次第で様々な雰囲気のオープンカフェが路面に生まれ、その連続によってにぎわいのある街路がつくり出されるわけですね。

観察を通して見出した、オープンカフェのさりげない法則性

ひとつとして同じものは存在しないオープンカフェ。店独自のファニチャーのレイアウト方法によって様々な空間がつくり出されています。しかしその一方で、注意深く観察してみると、ある程度の法則性が存在することに気づきました。

その法則性とは、ファニチャーのレイアウト方法と、道の幅や素材そして店舗の外観やアプローチといった既存の要素との関係性によって成り立っています。オープンカフェについてのルールはこれまでに説明したこと以外には特に設けられていませんが、店舗が各々でオープンカフェのレイアウトを考える際に、既存の要素に寄り添うようなレイアウトを自然につくってしまっているようです。イラストとともにいくつかその法則性を見てみましょう。

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オープンカフェのタイプ①〜④

まずはこの4つのタイプ。どれも街路の広さに依存してオープンカフェがつくられているように思います。

①のタイプは、オープンカフェスペースを最低限に抑え、歩行者のスペースを確保しています。②のタイプは、大きな通りに面しているため①よりもラフな配置となっています。③や④はさらに大胆に通りの中央の方へ空間が膨らんでいる様子がわかります。

そしてテーブルと椅子の配置の仕方は、この4パターンが見受けられました。①と②のタイプは、歩行者との距離がより近いように見え、気軽に腰掛けてサクッとコーヒーを飲めるような印象を受けます。反対に③と④のタイプは、よりオープンカフェとしての空間が保たれているように思います。ランチなんかも楽しめるような雰囲気ではないでしょうか。

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オープンカフェのタイプ⑤〜⑧

そして残りの4タイプがこちら。より道路の素材やアプローチなどの要素に依存して空間がつくられています。既存の要素を上手に活かして、そこにプランターやパラソル、時には建物に付属するオーニングを上手に使って歩行者空間との領域を分けています。より一層居心地の良い空間の演出に力を入れているように思えます。

レイアウトによって様々な雰囲気をつくり出すオープンカフェは、歴史ある建物のファサードと同様に街並みを形成する大切な要素となっていると言えるのではないでしょうか。

都市の魅力を増すトリガーとしてのオープンカフェ

これまでコペンハーゲンにおけるオープンカフェの歴史、オープンカフェに使用されているファニチャー、そしてファニチャーの配置と既存街路空間との関係を見てきました。

コペンハーゲンの街路空間を観察すると、とても多様であることがわかりました。各店舗は、街路空間ごとの特徴に合わせながらも、独自にレイアウト方法を工夫してファニチャーを配置しています。その街路空間に従う統一性と独自の経営スタイルで配置する多様性が、絶妙なバランスを保ちながら街路全体の豊かさを創出しているように思えます。

そしてそんな街路空間が幾重にも折り重なることで、統一性と多様性を担保しながらフラクタルに街全体を構成し、コペンハーゲンの居心地の良さをつくっているのかもしれません。

利用者は、街路空間という1つの統一された風景の一部となることを好んで、誘われているかのように自然にそっと座りたくなるのかもしれません。このようにつくられるオープンカフェだからこそ、同じオープンカフェは2つと存在せず、観光客だけでなく地元の人たちにも選ぶ楽しみを与えてくれています。お気に入りのオープンカフェを見つけた時には、世界に1つだけのその公共空間を私的空間であるかのように振る舞い、愛着を持って利用し続けることでしょう。

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植栽によって境界をつくっているオープンカフェ

私はデンマークを訪れて、様々な光景を目の当たりにしてきました。コペンハーゲンでのオープンカフェは、人々が生活をより豊かにするための大切な場所であると実感する事ができました。

ストロイエで実施された社会実験から、半世紀をかけてつくられてきたデンマークの豊かな街路空間。その空間をつくり出す主要素である、オープンカフェに関連する法律や制度は現在も見直され続けており、より「人のための街」の形成に重点が置かれるようになっています。オープンカフェは今や幸福度世界一と言われる国の街並みを形成するのに、必要不可欠な都市インフラとなっているのです。

 

テキスト・写真・画像:前芝 優也(東京都市大学大学院)
サポート:矢野 拓洋

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