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住民主体のパブリックスペースを考えよう!ポートランドのCity Repairなど海外事例を一挙紹介~北沢PR戦略会議レポート~

コミュニティの希薄化がささやかれる中、各地で話題になっている”住民主体”のパブリックスペース。

小田急線の地下化工事に伴う開発事業に対し、住民たちが次々と声を挙げだした下北沢でもホットワードになっています。日本のまちづくりにも、もっと住民の声を届けたい。日本でだって、挑戦しつづければ不可能を可能にしていけるはず。

そんな希望が感じられる北沢PR戦略会議、今回はなんと、シェアリングシティ先端都市・ポートランド(過去記事)のまちづくりを率いるNPO団体「City Repair」に12年にわたり関わる、マット・ビボウさんをはじめとする3人の海外事例パネリストをお招きして、海外の先進的な取り組みの数々をインプット。

想像力と楽しさあふれる住民のアイデアが、まちづくりを「わくわくするもの」に変えてゆく。まちでの暮らしをより面白く楽しくできるのは、他の誰でもない住んでいる私たち自身でした。

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City Repair HPより画像引用

想像力次第で「どう暮らすか」は変えられる。

1人目のパネリストはポートランドでプレイスメイキングを先導するNPO法人「City Repair」 で12年間ご活躍されていたMatthew Bibeau さん。道でなりわいが生まれなくなってしまった都市に住んでいても、創造力次第でわたしたちの「暮らし方」は変えられる。これは世界中どんな都市でも共通の素質だと熱く語ります。

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City Repair HPより画像引用

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Photo by Ayano Kumazawa

交差点のにぎわいを失った都市

本来、共同体としてのまちは、道沿いに家が建てられていき、それが広がっていったのがはじまり。かつてその交差点は、お店を開いたり、結婚式をしたり、住民たちが夜な夜な語り合ったりする場でした。いまや都市の道はグリッド状に配置され、交差点にそのような場が生まれることはなくなってしまいました。

住民の思い切ったアクションが行政を動かした

ポートランドでも、直線的な都市構造のなかで、住民同士が深い関わりを感じることが少なくなっていました。

そんななか、ふいにある家で持ちよりご飯をはじめたことをきっかけに徐々にコミュニティが育ち始めます。住民たちは互いに深いつながりを持つあたたかさや楽しさを知っていき、だんだんと自分たちの暮らしやまちをどのようにしたいか、内に宿していた夢を語り合うような場ができます。その結果、ゲリラで行動に移したのがこの交差点ペインティングのはじまりです。

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City Repair HPより画像引用

最初、市はこのアクションに対して快くは思っていませんでしたが、研究者による調査の結果、このペイントが車のスピードを落したり、犯罪率を下げたり、住民の関係性を向上させていたりなど、社会的にも経済的にも数々の効果をもたらしていることが明らかになり、この取り組みに対する許可のシステムといくつかのルールをつくるようになりました。まちづくりが行政主導のトップダウンから住民主導のボトムアップにシフトした瞬間でした。

プロセスに参加する場をつくると、そこにコミュニティができる

交差点ペイントをきっかけに住民たちのアイデアは次々とふくらみ、新たなプロジェクトを生み出していきます。4つ角に人々が集まる仕掛けとして野菜交換ステーションや24時間いつでもお茶が飲めるティーステーションをつくったり、簡単な手続きで1日歩行者天国にしてしまったり。

City Repair は、スキル・ノウハウの伝授をしながら、たくさんの住民を巻き込んでプロジェクトを支えます。やってあげる、というスタンスではなく、あくまで主導するのは住民たち自身。ものをつくるときは必ず、なるべく廃材やリユース品、自然のものをつかい、デザインから製作までを住民たち自らの手でやりとげるようにしています。こうしてコミュニティをつくるためのプロセスに住民をとりこんでしまえば、もうそこでコミュニティはつくりあげられてしまうのです。

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City Repair HPより画像引用

ペイントのデザインはまちによってどれも個性あふれるアーティスティックなもの。まちのアイコン的なモチーフからつくったり、子供たちのアイデアやスケッチをふんだんに取り入れながら、City Repair指導のもと、地域コミュニティ主催の数日間のワークショップの中で完成していきます。

まずは集まってアイデアを出し合う場づくりを

Matthewさん

「”コミュニティー”の中には”ティー(お茶)”が入っていますよね。どのプロジェクトでも、一番大事だったのは座ってお茶を飲みながら話をする時間をつくることでした。一緒に音楽をきいたり、ご飯を食べたりすること自体が、よりよい生活そのものです。その時間は、住民たちがどんどんアイデアを出し合いビジョンを共有する、非常に意味があるものです。」

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City Repair HPより画像引用

まち全体が生態系になる-食へのアクセスが高いまちづくり

2人目のパネリストは、「都市を耕す:エディブルシティ」の翻訳者、鈴木栄里さん。カリフォルニア州バークレーでエディブルシティを目の当たりにし、「まち全体が生態系になっているよう」と感銘を受けたそうです。シモキタ緑部会では1/11に鈴木さんを招いての映画上映会を行い、下北沢を拠点に畑を中心としたコミュニティづくりにチャレンジする「シモキタエディブル部」の活動も始まっているそうです。

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Edible Media HPより画像引用

鈴木さん

「キッチンやガーデン、教育、マーケットなど、まちのなかに食に関連する取り組みがたくさんあって、そのなかで、学生や市民、活動家、農家、行政、NPO、大学、ビジネス、いろんな人がいろんな形で関わりあっていて。まるで町全体が生態系になっているようでした。」

地域経済の結節点として「食」をつかう

低所得者むけのコミュニティガーデン兼苗屋さん「スパイラルガーデン」やリサイクル廃油ステーション「バイオフューエルスタンド」、自由に実験できる年会費制ラボ「カウンターカルチャーラボ」などの事例を例に挙げ、このような食へのアクセスが高い場所や団体があることで、巨大な食のシステムから独立し、ローカルな食のインフラが生まれる効果は大きいと鈴木さんは主張します。

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Photo by Ayano Kumazawa

鈴木さん

「なにかをつくる過程でコミュニティは育ちます。住民同士のやり取りがより深くなりますし、地域経済の結節点としても食べものは使えると思います。つくりかたを知っている人が増えて食の安全を担保する層が増えることで、フードセキュリティも高まります。このローカルな食のインフラを実現するシステムが、まちの生態系をより豊かにもしているのです。」

空間をつくりだすのは行動と想像力

3人目のパネリストはシモキタ緑地会のメンバーでもある佐藤有美さん。ハンブルクの「Park Fiction」と「Plan Bude」の事例から、「空間をつくりだすのは建築家のプランではなく、人々の行動と想像力だ」という彼らのポリシーを紹介。

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Park Fiction HPより引用

「Park Fiction」はもともとはビル建設に反対する座り込みデモをしていた住民たちに対し、こんなことをしても先がない、もっと実践的なアクションを起こした方がいいだろう、とアーティストが先導し、代わりに公園をつくる計画に参加したもの。そこには住民の願いをボーダレスに引き出す「仕掛け」がありました。

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Photo by Ayano Kumazawa

アートでひとりひとりの願いを引き出す仕掛け

たとえば、それまでデモには参加できなかったお年寄りやこどもたちを巻き込んで、どうなったら嬉しいかビジョンを絵に描いていくワークショップをやったり、みんなで計画をディスカッション場としてコンテナハウスをつくったり、そこで音楽フェスをやったり、とにかく市民が一緒に体感する経験をつくっていきました。たくさんの市民がこれらのアート活動に参加したことで、市はこの活動を無視できなくなり、結果ビル計画はなくなり、公園計画が実現しました。

願いは家を出て通りへと向かう

佐藤さんが彼らにインタビューしたなかで、

「意見を交換し、新しい視点やものの考え方をみつけることがアート。つまり交換する場があることが大事です。プライベートにしておかずにお互いに交換することが社会全体の風向きを変えていく。みんな興味が全然ないことはないから、何かが生まれるはずです。」

という言葉があったそうです。ポートランドの交差点ペイントをはじめ、今回お話を伺った実戦的なまちづくりの実例のいくつかにも結びつく言葉だなと思いました。

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Park Fiction HPより引用

Park Fictionについて詳しくは、佐藤さんが記事を書かれているのでそちらもぜひご覧ください!

東京を、下北沢を、わたしたちが変えていける?

いまだ道路や公園の利用に対する規制が固い東京、でもそれはまだ私たちがなにも行動を起こしていないからかもしれない、そうも思わせるような想像力とパッションに溢れる海外の事例の数々でした。

学生からお年寄りまで約100人もの人が参加した今回のイベント。事例紹介のあとには、会場全体で「わたしたちのまちで何ができるか?」「わたしたちは何をしたいか?」などをディスカッションする場があり、明るい表情で夢を語り合う様子からまちづくりへの関心の高さが伺えました。
シモキタ緑部会では緑や畑を活用したコミュニティづくりを実践していくとともに、こうした勉強会なども定期的に行っていくそうです。

ただ、いわゆる東京育ちの筆者的には、すこし厳しく現実的なことを言いますが、単に「地域コミュニティ」に属する煩わしさがあるのもまた事実。ただ、アートとパブリックスペースの融合、という視点では今回のお話はとても興味深く刺激的でした。

そこでコミュニティらしきものが生まれたかどうかはまだわかりません。もしかしたら、なにかそれとは違った、その時その場限り一瞬の共有意識のような、なにか東京らしい形で新たら風景が顔をだすかもしれない、そんな期待が持てた気がします。

【イベント概要】
期 間: 2017年4月1日 [土]
会 場: 北沢タウンホール
主 催: 北沢PR戦略会議シモキタ緑部会
ウェブサイト: FACEBOOK

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