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ローカルプロジェクトを生み出すには?「サーキュレーションさいたま」キックオフ

2020年3月から埼玉県さいたま市を中心に開催される「さいたま国際芸術祭2020」の先行プロジェクト「さいたまスタディーズⅡ」として、今年9月から “ローカルプロジェクト”をつくるワークショップ「CIRCULATION SAITAMA(サーキュレーションさいたま)」が開催されます。このプロジェクトは、さいたまの歴史や長年培われてきた慣習、風習などの目に見えない「地域らしさ」=文化的遺伝子を掘り起こし、それを未来へと引き継ぐプロジェクトや事業をプランニングすることで、地域に新たな価値を創造するというものです。

現在、参加者募集中(8/23〆切)。詳しくは、「サーキュレーションさいたま」公式サイトをご覧ください。

https://circulation-saitama.com/

今年 9 月からのワークショップに先立ち、プロジェクトの説明会を兼ねて開催されたキックオフトークイベ ント「さいたま発・ローカルプロジェクトを生み出すには?」の様子を、早稲田大学大学院建築学専攻・アキチテクチャの江尻悠介が紹介します。


登壇者は、「サーキュレーションさいたま」のプロジェクトディレクターである千十一編集室の影山裕樹さん、「さいたま国際芸術祭2020」ディレクターである映画監督の遠山昇司さん、アーバンデザインセンター大宮[UDCO]デザインリサーチャーの新津瞬さん、MotionGallery 代表の大高健志さん、舞台芸術プロデューサーの武田知也さんです。

0_会場全体
当日の会場の様子

異なるコミュニティをつなぐ

まず、「サーキュレーションさいたま」プロジェクトディレクターの影山裕樹さんより、ローカルメディアについての説明がありました。一般的にメディアの仕事は東京が中心ですが、地方にも面白いメディアを作っている人たちがいます。例えば、北九州市が2006年から発行しているフリーペーパー『雲のうえ』には、創刊号で「角打ち(酒場)」の特集をするなど、地方の自治体が発行しているとは思えないような斬新さがあります。これは東京からの視点を通して改めて見出された地方の魅力が反映されています。このように、ローカルメディアとは「送り手と受け手が情報を双方向的に発信していくメディア」であり、メディアを作ることで地元の人たちの間のコミュニケーションを活性化し、地域の様々な課題を解決することにつながります。

1_影山
プロジェクトディレクターを務められる、編集者/千十一編集室の影山裕樹さん

次に、影山さん自身が関わったローカルメディアと路上イベントについての紹介がありました。

2017年に開催された「CIRCULATION KYOTO(サーキュレーションキョウト)」では、京都市の周辺部=「洛外」に位置する5つの地域を舞台にそれぞれの土地に根ざしたローカルメディアを作るというワークショップをおこないました。参加者は、従来のフリーペーパーやウェブマガジンのような一方通行のメディアではなく、地域の人と人とが交流するためのメディアを作りました。

また、2015年から、100円ショップに売っているマグネット付きのカゴをひっくり返して街中のシャッターや電柱にくっつけることで立ち飲み用の台を作る「裏輪呑み」という活動をゲリラ的におこなっています。これは、路上飲みのスタイルとして流行り、全国に広まりました。このように、カゴを持って街を歩くことで、「ここで飲めそう」といったように普段とは違った目線で街を見ることができるようになったと言います。

以上、ローカルメディアと路上イベントには、「異なるコミュニティをつなぐ」ためのプロジェクトであるという共通点があります。今の日本社会では、自分と趣味の合う人や同じ世代で固まってしまうことが多く、自分と合わない人に対する不信感が募ってしまいます。しかし、都会と違って地方では、そこに住む人たちと顔を突き合わせずに生活していくことはできません。そんな中で、ローカルメディアにはあらゆる属性の人たちをつなぐ可能性があり、また路上にはあらゆる属性の人たちが飲み会や花見のような共通の関心ごとのもとに集まる場所になる可能性があります。

プロジェクトを地域に根付かせる

次に、「さいたま国際芸術祭2020」ディレクターである遠山昇司さんが、芸術祭の一環として「サーキュレーションさいたま」のようなワークショップをおこなうことになった経緯について語られました。遠山さんは、映画監督の立場から場所的体験や時間的体験を打ち出していくような芸術祭にしたいと思い、そのためただの一過性のイベントではなく会期終了後も継続し街に良い影響を与えるような、プロジェクト提案型のワークショップをおこなうことになりました。前回の「さいたまトリエンナーレ2016」でおこなわれた「さいたまスタディーズⅠ」では土地の歴史などの潜在的なものを読み解くリサーチが中心でしたが、今回は目に見える街の風景をテーマに、「さいたまに暮らしている人がどうやって住みこなすか?」という視点でプログラムを提案していくワークショップをおこないます。アートに関する専門的なチームの中で完結することなく、さいたまという生活都市に根付いていくビジョンを持つことが求められているのです。これは、参加者が「(プロジェクトが)社会の中で必要とされている」という感覚を持ってプロジェクトを継続させることで可能になると考えられます。

このような観点で芸術祭の価値を問うことによって、ローカルプロジェクトが社会のインフラとして役立ち、セーフティーネットのような役割を果たすことが可能になると遠山さんは言います。

2_遠山
「さいたま国際芸術祭2020」ディレクターを務められる、映画監督の遠山昇司さん

公共空間を活用して居場所をつくる

アーバンデザインセンター大宮[UDCO]デザインリサーチャーの新津瞬さんは、ワークショップのテーマの1つでもある「公共空間の活用」に関するUDCOの実践を語られました。現在UDCOは駅前の更新や新旧区役所の利活用など色々なプロジェクトをされていますが、その中でも特に2017年から始まった「おおみやストリートテラス」は公共空間を活用したプロジェクトです。これは、都市計画道路の開発工事までの一定期間に、道路拡幅を待つ空いた土地が生じてしまうことに着目し、エリアの価値や暮らしの質の向上を目指して、街路のみならず沿道まで含めて一体的に利活用するという取り組みです。具体的には、大宮を中心とする16社の店舗と専門学校の学生たちによって、街路と沿道にそって店舗・休憩飲食スペースが作られました。もともと大宮駅周辺には気軽に滞在できる屋外スペースがほとんどなかったため、多くの人に利用され、3日間で約65万円の売り上げが出ました。

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アーバンデザインセンター大宮[UDCO]デザインリサーチャーの新津瞬さん

新津さんはUDCOの他に、「cocojoco」という個人的な取り組みもされています。このプロジェクトでは、「DIYP」という改装可能な賃貸物件サイトで見つけたさいたま市内の築70年の家に住みながら、自身の居住ゾーン以外の和室、キッチン、トイレ、庭を1時間500円で貸し出すという、「住み開き」をおこなっています。また、地元の人たちと一緒にリノベーションして作ってきたため、今では自然と近隣住民の居場所になっています。

以上のように、UDCOとして大きな開発を前提とした社会実験をおこないながら、個人的にcocojocoとして街の居場所をつくるような活動をされており、それぞれの実践からノウハウを蓄積して相互に活かしていくことで、より豊かなパブリックライフを実現していきたいと言います。

ローカルプロジェクトを実装する

「サーキュレーションさいたま」では、事業プランを考えて発表するだけにとどまらず、街に対する実装も目標として掲げられています。そこで、どのようにキャンペーンを打てばお金を集めて実装することができるのかということについて、クラウドファウンディングサイト「MotionGallery」代表の大高健志さんが語られました。

映画、アート、出版、音楽などの表現活動は、単純に売れるためだけではなく、何か価値を表明したいというモチベーションが伴っていることが多いですが、儲からないプロジェクトにはお金が集まりにくいというのが現実です。そこで、MotionGalleryではアートや音楽などの表現活動や、地域のコミュニティに関する活動に対して、ビジネスマネーとしてではなく応援するというマインドでお金を集めています。

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MotionGallery 代表の大高健志さん

最近は、地域の場所と人との接点を作るようなローカルプロジェクトのクラウドファウンディングが増えています。例えば、京都府・出町柳にあるパチンコ屋のビルを改修して映画館と本屋とカフェの複合施設をつくるというプロジェクトに対して、940万円以上のお金が集まりました。このプロジェクトに出資した人は大きく3つに分かれ、1つは現在の地域住民で、もう1つはミニシアターを残したいと思っている映画好きの人たちです。そして最後の1つは、昔出町柳に住んでいて、その当時「街に映画館があればよかった」と思っていた人たちが、「自分たちの思いを受け継いでくれるだろうから応援します」という思いで出資をしてくれました。このように、地域の歴史に関わっている人たちにも届くようなプロジェクトをつくることによって、1つ違う次元で商圏を拡大することができると言います。

生活都市でおこなわれる芸術祭

舞台芸術プロデューサーの武田知也さんは「CIRCULATION KYOTO」での実践について語られました。以前から、劇場がお客さんに作品を提供するという一方通行な関係に疑問を感じ、地域と双方向的に関係性を持つような劇場をつくることは可能なのかと考えていたため、「CIRCULATION KYOTO」でも「劇場はどのようなメディアとしてありえるか」という問題意識で活動していたと言います。そして、演劇作品を制作していく前段階で、ローカルメディアをつくり地域と関わっていくための場を提供するという意味で、アートや劇場が重要な役割を果たしました。

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舞台芸術プロデューサーの武田知也さん(左)

「サーキュレーションさいたま」でも、ワークショップの成果物を「さいたま国際芸術祭2020」の中で観客に対して見せるということを考えると、ワークショップのプロセスをどう見せていくかが重要です。このプロジェクトと芸術祭に展示される作品とが拮抗していくような状況を作ることができれば、アーティストではない一般の人たちが芸術祭に向き合うことが可能になります。そして、観光の要素としての芸術祭ではなく、「生活都市でおこなわれる芸術祭」という他の芸術祭にはない特徴を持つことになります。

8/23〆切!参加者募集中!

「サーキュレーションさいたま」では、今回登壇した6名の他にも、建築史家の松田法子さん、UDCO副センター長の内田奈芳美さん、「はっぴーの家ろっけん」の首藤義敬さんをゲスト講師として迎えたレクチャーやグループワークが予定されており、「モビリティ」、「公共空間の活用」、「ソーシャル・インクルージョン」という3つのテーマに分かれて、地域に根ざしたローカルプロジェクトを参加者が主体的に構想していきます。

申し込み締め切りは2019年8月23日です。興味のある方は、ぜひご応募ください。

詳しくは、「サーキュレーションさいたま」公式サイトをご覧ください。

https://circulation-saitama.com/

text: 江尻悠介(早稲田大学大学院建築学専攻・アキチテクチャ共同主宰)

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