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レポート
学生が提案するソトづくりとは?「学生と地域との連携によるシャレットワークショップ in 杵築2016」体験レポート
2016年8月17日から8月21日の5日間、北は北海道から南は大分県と全国から30人の学生が集まり、今回は大分県・杵築市にて、「学生と地域との連携によるシャレットワークショップ─杵築のまちづくりデザインを考える─」(以下、シャレットWS)が行われました。筆者自身もこのシャレットWSに参加し、改めて学生が提案するソトの可能性を感じたのでレポートいたします。
シャレットWSとは、都市デザインやまちづくり、建築などの専門家が集まり、課題に対し、短期間に集中して具体的な解決策までを提案するものです。アメリカでは、1980年代からニューアーバニズムの運動でも、このワークショップ形式が多く使われており、新しいアーバンデザインの検討案が探られてきました。
今回のシャレットWSは、2005年から12回目の開催となり、日本の建築・都市系学生の実践教育プログラムとして応用したもので、日本建築学会(住まい・まちづくり支援建築会議)とNPOまちづくりデザインサポートが主体となって進められています。将来まちづくりを担う人材を育てるためにも、まちづくりデザインや建築に長けた専門家の指導を受けながら、学生がグループに分かれて提案の検討を行います。毎年、全国各地の様々な地域で繰り広げられています。
城下町の残る杵築
今回の対象地は、大分県・杵築市。大分県東部の大分市と別府湾を挟んだ国東半島の南端部に位置し、江戸時代からの城下町の地形や街並みが残っていました。
WS初日に、参加者は、杵築のまちづくり協議会や市役所職員の方々に案内していただきました。
杵築城からのびる道を挟み、南北2つに分かれた高台には土塀の連なる武家屋敷。その谷の部分には谷のまちとして商町家が今でも立ち並び、それら双方の高台から谷のまちをつなぐ坂道など今の当時の面影が残っていました。その特徴的な景観や都市構造は、「サンドイッチ型城下町」と称されています。
杵築のきづき
このような町並みに引き付けられた観光客はいるものの、この杵築は九州地方の小都市でもあるため、人口減少・高齢化社会、住環境と観光の共存、人口減少にともなう空き家・空き地の増加など、それらを含めたこれから豊かな暮らしを送るための都市像は何かということが大きな議題でした。
学生が調査を終え気づいたことは、「杵築らしさ」はまちに散らばっているのだけど、時代の流れで薄まってしまい、現在と過去のつなぐ空間がないという意見が多くあげられました。
学生の提案するソトづくり
学生から出た意見からツナギとなるであろうフィールドを、杵築全体・高台・谷のまち・空き地、さらに今まで杵築の市民も近くにあるはずなのにあまり注目されていなかった水辺が取り上げられ、大きく5つのテーマに分かれ、杵築のつなぐ空間を考えました。
それぞれの班がつくったつなぐ空間の部分は、ストリート(接道含め)や空き地、コモン、水辺空間といったソトの部分を共通項とすることから始まっていました。その先に、人が出てきて、建物が出てきて、まちをつなぎます。
例えば、「谷のまち」(商町家が立ち並ぶ道)・ストリートのチーム。(提案者:饗庭恵(山口大学)・木下香奈子(弘前大学)・高橋歩(金沢工業大学)・山田葵(広島大学)・横尾拓実(横浜国立大学))
「谷のまち」(商町家が並ぶ道)の広いストリートは、歩道と車道がとても広い空間を生み出しており、その距離感が歩行者を阻んでいました。
そこで、こどもも大人も縦横無尽に歩き回れるように、現在は、歩道は石畳、車道はアスファルトが敷かれ、レベルさのあるものを車道も石畳にしたり、歩道と車道のレベルを同じにすることで解決したり。
例えば、高台(武家屋敷)のチーム。(提案者:江口春花(明治大学)・小松崎陵太(横浜国立大学)・島田泰仁(工学院大学)・舟橋菜々子(大阪大学)・三栗野鈴菜(千葉大学))
現在、高台には武家屋敷の町並みは残っていましたが、町並みが残っているゾーンから離れるにつれ、空き地・空き家が増え、そこに新興住宅ができ、違った町並みが生まれて初めていました。また、住宅が立ち並ぶだけで、住民がたまり場が少なくもありました。
そこで、武家屋敷の町並みを残しつつ、新しく住宅ができるとき、新たなコミュニティを形成するために、接道部分に自分の庭をはみ出てコモンし、住民がたまれる場を住宅地内に作ることで解決を。
例えば、「谷のまち」(商町家が並ぶ道)・空き地のチーム。(提案者:青田興明(有明工業高等専門学校)・熊崎悠紀(関西大学)・乃美安紀穂(京都府立大学)・森定稜太(山口大学)・山名雄介(大阪芸術大学))
谷のまち(商町家が並ぶ道)にも空き家が増え、さらに空き地になり、空き地もぽつぽつと増えていき、以前のような商町家の立ち並ぶ姿が失われていました。
そこで、模様替えのできるフレームをそれらの空き地に置き、日常からお祭りなどの晴れ舞台まで空き地がたまり場として活躍できる提案をしました。空き地にフレームを置き、人があふれることで道に立ち並ぶという新しい連続性が生まれるのです。
例えば、水辺のチーム。 (提案者:牛木伸行(横浜国立大学)・甲田晃(山口大学)・田中翔太(札幌市立大学)・成清大地(大分大学)・吉岡宏晃(神戸芸術工科大学))
杵築の町は、八坂川と高山川から続く守江湾に囲まれる水にも恵まれたまちです。その水辺は、以前は船宿も立ち並んでいましたが、現在ではあまり活用されていませんでした。
そこで、水辺の活用を促すためにも、道路・民家・川と続く断面に連続性を持たせることで、よりまちの人たちに利用してもらえるようにと提案しました。その具体例の一つとして、以前は旅館として使われていた旧野上邸が空き家となっていたため、そこに残っていた日本庭園というソトの空間を使い、道と川をつなぎました。
学生もたどり着く、ソトでつなぐ大切さ
紹介したもの以外にも、様々なソトを使ったデザインがとても多くありました。全国各地から集まった学生の提案の中に、これほど多くのソトの空間にみんな注目し、ソトをつなぐ空間としていたことにとても驚きです。
学生の私たちですが、提案進めていくうえでどうやったらこの杵築に住む人、杵築を訪れる人が愛着を持ってまちを使いこなしてくれるのだろうと何度も何度も議論していきました。
面白いと感じたことは、30人の学生はみんな違う場所で生まれ、違う場所で育ってきました。それぞれの地域性や感性が合わさり、自分の地域ではこんな風だ、こんな経験が使えるんじゃないか、という部分が提案に盛り込まれてもいました。
そんな中、数多く出てきたソトの提案。ソトはつくり替えやすく、共有しやすい場所です。
シャレットWSは、ソトから来た学生の気づきからまちづくりが繰り広げられ、そのまちの人たちの一歩の手助けではないかと思います。実施できそうで、にぎわう空間の提案。学生自身も楽しそうな空間は、ヒトとヒトがにぎわう空間だと感じています。だからこそ、ソトをつなぐ空間として捉えることが多かったんではないでしょうか。
このシャレットWSを通して、杵築のきづきを学生自身一生懸命考え、それが地域に受け入れられた部分は多かったのではないかと思います。杵築のみなさんの人柄はとても暖かく、学生一同とても杵築を満喫しつつ、杵築のみなさんの顔を思い浮かべながら提案させていただきました。ふつつかな学生の意見を真意に受けとめてくださった杵築の皆様に感謝申し上げます。