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オープンスペース|空地

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高低差が魅力の源!? 西新宿高層ビル足元の公開空地「55HIROBA」

東京の西新宿と聞けば、都庁を筆頭に高層オフィスビルが多く立ち並ぶエリアとしてのイメージが思い起こされるでしょう。そんな西新宿にあって誰でも使えるパブリックスペースをご存じでしょうか。

西新宿で勤めている方や建築・都市分野の方にはよく知られているかもしれませんが、一般のガイドブックなどにはあまり紹介されていない隠れたスポット。それが今回紹介する「55HIROBA」です。

55HIROBAは、新宿三井ビルディングの足元に広がるサンクンガーデンです。同ビルは三井不動産が管理する高層オフィスビルで、1974年に竣工しました。

オフィスビルが林立する西新宿を代表する公開空地

55HIROBAは、新宿三井ビルディングの公開空地という位置付けです。公開空地というのは、建築基準法に基づく総合設計制度を適用することで、主にマンションやビルの敷地に確保を義務付けられた空地です。一般の人々も利用できるように、開放されていなければなりません。マンションやビルにとっては公開空地を設けることで、建物の容積率の割り増しや高さ制限の緩和が可能になるという利点があります。

西新宿には高層オフィスビルやホテルがたくさんあり、その各々が公開空地を持っています。そんな中でも、新宿三井ビルディングは約45年前に建てられた歴史ある高層オフィスビルであり、ビルとともに歩んできた55HIROBAも、歴史ある公開空地として知られています。

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新宿三井ビルディングの新宿駅からのアクセス 出典:新宿三井ビルディング

55HIROBAのようなオフィスビルの公開空地は、ビル利用者はもちろん、周囲の他のビルで働く人々や単に西新宿を訪れた人々でも利用可能なパブリックスペースなのです。筆者もよく訪れるのですが、平日・休日に関わらず、多くの人が集まっており、皆が思い思いの時間を過ごしている様子を目にします。

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思い思いの場所に座り、居心地良さそうに過ごしている

55HIROBAはその空間構成においてある特徴を持っています。それは、サンクンガーデンと呼ばれる形状になっていることです。どんなものだ!?と思う人もいるでしょうが、直訳すると「サンクン(沈んだ)ガーデン(庭)」です。

魅力を生み出す「55HIROBA」の空間構成

上述したように、55HIROBAの空間構成において最も注目すべきは、サンクンガーデンであるということでしょう。周囲の道路や歩道のレベルから数m下がった所に広場が位置しているのです。

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周囲の歩道から広場を見下ろす。数mのレベル差がある

このレベル差が、55HIROBAに降りた人に対して、道路空間から距離を置いた特別な空間という認識を与えます。まるで「都心のポケット」に入ったような感覚です。このことが、人々に落ち着きを覚えさせ、居心地の良さへとつながっているのではないでしょうか。

さらに、広場には歩行者用のブリッジがかかっていたり、葉の生い茂る武蔵野を象徴する立派なケヤキがそびえたりしています。これらは道路空間からの視線を遮ったり、直射日光を柔らかく遮ったりすることで、落ち着いた空間の演出に一役買っていると言えるかもしれません。雨でも座れる場所、木漏れ日が落ちる場所、直接日光が降り注ぐ場所など、エリアによって多様な空間を味わえるのです。

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広場中央から見た、歩行者用ブリッジと葉が生い茂る木々

55HIROBAを魅力的な空間にしている要素はまだまだあります。

1つは、広場の南端にある滝のように水を流す装置です。この水の落ちる音が、なんとも良い音環境をつくり出しています。広場の外を行き交う人々や車などの都会の喧騒を打ち消してくれるのです。広場に降り立って意識して聞いてみると、水の落ちる音がこんなにも空間の居心地の良さを演出するものかと感動してしまう程です。

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広場南端にある滝のような、水が流れ落ちる仕掛け

次に注目したいのは、ファニチャーです。1人で座れるもの、友人や同僚などと複数人で使えるものが設置されています。こういったファニチャーも広場の使い方を多様にし、様々なアクティビティを生むための工夫といえるでしょう。

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広場内には座ることができる数種類のファニチャーがある。1人用の可動椅子、テーブルとイスのセットやレンガブロックの生垣など

さらに、55HIROBAには面白い空間があります。そこは「舞台」のように、広場の中心部のレベルより少し高くなっています。普段は他の部分と同じようにテーブルとイスが置いてあるのですが、コンサートなどのイベントの時には実際に「舞台」として活躍する空間なのです。

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広場中央部よりも1mほどレベルの上がった空間。「舞台」のような場所

最後に重要だと考えられる要素が、55HIROBAを取り囲む飲食店です。現在は、スターバックスやドトールコーヒー、フレッシュネスバーガーなどの店舗が隣接しており、それらの商品をこのソトの空間で楽しむ様子も多くみられます。もちろん、自分で持ってきたお弁当などを食べている人もたくさんいるようです。

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広場の周りを囲む形で、カフェなどの飲食店が数店舗並ぶ

公開空地が生み出す様々なアクティビティ

55HIROBAでは一体、人々はどんなアクティビティを繰り広げているのでしょうか。

まずは平日の様子です。オフィスビル街ということもあって、朝の就業時間前には、コーヒーを飲みながら新聞を読むビジネスパーソンがちらほら座っている様子が伺えます。

最もにぎわうのは、お昼過ぎのランチタイムです。気候にもよりますが、ほぼ満席状態になります。スーツを着たオフィスワーカーが利用者の中心で、1人で手づくり弁当を楽しむ人や、同僚と複数人でにぎやかにランチを楽しむ人など色々なアクティビティが見られます。

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平日のお昼時、滝のような仕掛けの前で座る人々。この空間は1人で過ごす人が多く見られる

夕方になっても多くの人が利用していて、お昼時と異なるアクティビティが見受けられます。

パソコンを広げて1人作業する人や複数人で小さなミーティングをする人々、またランチ後のママ友の集いなどです。公開空地をサードプレイスや会議室、カフェ代わりに利用していると言えるでしょう。

夜にはまた違ったアクティビティが現れます。会社終わりに数人でお酒を嗜むサラリーマンや、カフェで買った飲み物を飲みながら歓談する若い人々がよく見られます。

このように、平日は時間帯によって多様なアクティビティが展開されています。

一方、土日はまた少し様子が変わります。オフィスワーカーが少ないため全体のアクティビティが減るかと思いきや、そんなことはありません。小さな子供を連れたファミリーや中高生・大学生などの若い人々、年配の方など、幅広い年齢層の人々が時間帯によらずたくさん集まっているのです。

休日におけるこの光景は、オフィスビルの公開空地としては珍しいでしょう。それだけの広場としてのポテンシャルが55HIROBAにはあるのです。

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5月のある休日、15時頃の様子

55HIROBAでは、イベントも頻繁に開催されます。例えば木曜日のお昼に時々開かれる「木曜コンサート」。これは新宿新都心開発協議会が主催しています。

土日には、全日本リサイクル協会が主催するフリーマーケットもあります

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2018年で42年目を迎える「木曜コンサート」 出典:新宿観光振興協会

なかでも注目のイベントは「新宿三井ビルディング対抗のど自慢大会」。入居企業が参加し、ビル竣工時から毎年欠かさず開催され続けています。この3日間、55HIROBAはすさまじい熱気に包まれます。オフィスビルの公開空地がこんなにも熱く活用されている事例を、筆者は他に知りません。

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新宿三井ビルに入居する企業が参加する「新宿三井ビルディング会社対抗のど自慢大会」。毎年、異様な盛り上がりを見せる 出典:2点ともCOMMONS PAGE

オフィスビル公開空地の可能性

ここまで55HIROBAの魅力について語ってきました。これほど豊かな空間で沢山のアクティビティも生み出す公開空地が他にあるでしょうか。

今回の紹介から、55HIROBAが多様で豊かな空間を持ち合わせていること、そして多様な人々の様々な使い方を受け入れる寛容さがあることで、他にはないアクティビティが生まれていることが伝えられたかと思います。

のんびりするため、勉強のため、仕事のためなど、このようなソトの公開空地にも様々な使い方があると思います。筆者は上京してきてからこの55HIROBAは東京で最も好きな場所で、新宿で時間ができたときはもちろん、勉強や息抜きなど様々な目的をもってここを訪れます。

単なるオフィスビルの公開空地でも、愛着を持って通えばその空間の良さに気づけるかもしれません。そして、自分なりの使い方を見つけられるかもしれません。利用者が愛着を持って使用することで、イベント・企画なども含めて新しい公開空地の使われ方の可能性は広がるでしょう。

オフィスビルの公開空地が楽しく豊かな空間になれば、働くことも街を歩くこともきっともっと楽しくなるはずです! まずは、自分の好きなソトの場所を見つけて、その場所を上手く活用することから始めてみてはいかがでしょうか。

Photos without credit by Daichi MATSUMOTO

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