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建築学生が選ぶ、パリで訪れておきたいパブリックスペース6選+α
夏休みを利用してヨーロッパ観光を予定している方も多いのではないでしょうか。
筆者は7月にパリ・ベルギー・ポルトガル・オランダの4カ国を旅行してきました。
今回はパリで訪れたパブリックスペースから、個人的に印象に残った6つを紹介します。
1. エッフェル塔
住所:Champ de Mars, 5 Avenue Anatole France, 75007 Paris, フランス
「パリの観光地」と言って真っ先に思いつくのは、おそらくこの「エッフェル塔」ではないでしょうか。
美しい鉄骨トラス構造の塔は、1889年にパリ万博の記念として建てられました。
正直はじめは、「有名だし、一応抑えておこうかな」くらいの気持ちで行ってみたのですが驚きました。
エッフェル塔の足下は、オープンスペースになっており、そこで観光客が地べたに座ったり、子どもたちが走り回ったりしているのです。
東京タワーやスカイツリーのように、なにか商業施設が埋めこまれ、立ち入れないのだろうと勝手に思い込んでいました。
塔の下が、こんなに開放的だったとは!
この足下のオープンスペースは、塔を登る入口です。エレベーターと階段の順番を待つ長蛇の列が。
筆者は、階段で登ることに。(安かったので!!)
昼すぎ、おそらく最も混雑した時間帯であったため30分ほど待ちましたが、塔を観察したり、人を眺めていたりしているうちに、あっという間に列は進んでいきました。
てっぺんまで3ヶ所の展望台があります。
パリの見晴しは絶景です!
2.シャイヨ宮
住所:1 Place du Trocadéro et du 11 Novembre, 75016 Paris, フランス
そして、エッフェル塔の目の前には「シャイヨ宮」があります。
シャイヨ宮は、16世紀後半に建てられた離宮で、現在は大型展示会場として使われています。その前には「トロカデロ庭園」が広がり、エッフェル塔へと続いています。
ここからエッフェル塔を眺めると、「パリに来た…!」という実感が湧いてきます。
たくさんの人がエッフェル塔の全景を眺めながら、写真を撮ったり、ごはんを食べたり、ゆったりとした時間を過ごしに来ていました。
特に庭園の芝生周辺は、ゆったりとした空気が流れていました。木陰に自然と人が集まり、本を読んだり、会話を楽しんだり、エッフェル塔を眺めたり。一人一人のゆっくりとした時間の過ごし方が、平和な雰囲気をつくり出しています。
この空気感に誘われて、思わず筆者も小一時間ほど木陰で昼寝をしてしまいました。なんとなく、エッフェル塔に見守られているような安心感もあったのかもしれません。
3. ポンピドゥー・センター
住所:Place Georges-Pompidou, 75004 Paris, フランス
「ポンピドゥー・センター」は、1977年に開館した総合文化施設です。設計は、レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャース。
ファッションやサブカルチャーで賑わい、アートギャラリーも多く存在するマレ地区の近くに位置します。中には、ギャラリーやカフェ、ショップ、ライブラリーなどが内蔵されており、電気・水道・空調などの設備がむき出しになったデザインが印象的です。
施設の前にある広場には大きな特徴があります。
それは、平らではなく緩やかな傾斜であること。
傾斜に沿ってあちこちで、皆が同じ向きに座っている様子は、まるで劇場のような空間とも言えます。
1人で、2人で、複数人で…。ある程度の距離を互いに保ちながら、広場にぽつり、ぽつりと、点のように人が座っては立ち去り、その間をまた人が通っていきます。
ひとつの広場に様々な人が集まり、同じ方を向きながらも、それぞれが好きなことをして過ごしている様子は、まさに豊かなパブリックシーン。
その中のひとりになり、周りの人たちや行き交う人たちを眺めているだけで、あっという間に時間がすぎていきます。
4. パレ・ド・トーキョー / 現代創造サイト
住所:13 Avenue du Président Wilson, 75116 Paris, フランス
「パレ・ド・トーキョー/現代創造サイト」は、先ほどご紹介したエッフェル塔から歩いて10分ほどの距離にある美術館です。
筆者が個人的にどうしても紹介したかったこの場所。
ここで見られる多様なパブリックシーンは、建築によってつくられた空間がもたらしているように感じました。
正面の階段を登っていくと、ちらほらと人の姿が。
彼らが何をしていたかというと…
スケートボードです。
真っ平らで広々としたこの空間は、スケートボードの練習にはうってつけなのでしょうか。
道具を持ち込んで、自由に滑走していました。
建築空間のポテンシャルを殺さずに、これが禁止されていないことが、とてもうらやましい!と思った筆者でした。
この日は次の企画展に向けて準備をしているようでした。そのすぐ横で、スケートボードで遊ぶお兄さんたち。スタッフさんたちも特に気にしていない様子です。
そしてさらに上へと上がっていくと、カフェ&バーが設定されていました。
座席も用意されているのですが、欄干に座っている人の姿も。訪れたのは夕方5時頃だったのですが、どうやらこの日は夜にDJイベントも控えているようで、DJブースで準備を進めるお兄さんたちも。
そしてその傍らでは、隅っこでガラス壁を使い、ダンスの練習をするお兄さんたち。がんがんに音楽をかけています。
ちょうどこの角の空間は柱と壁に挟まれて、小さな個別のスペースのようになっています。
通りすがりの人の邪魔にもならず、鏡のようなガラス張りの壁もある。
練習するのにはうってつけの場所だったのかもしれません。
まだまだ続きます。
別の場所にもスケートボードの練習に励む少年たちが。
少年たちと青年たち。世代によって練習場所が異なるようです。
階段をうまく使って練習をしたり、時折その階段に座って、持ってきたお菓子をつまみながら休憩したり。
ここで1つ、ポイントが。この建物は2本の道の間に位置しています。
ちょっと近道にと、ここを通り抜ける人も多いようでした。それが、この建築が魅力あるパブリックスペースとなっている理由の一つかもしれません。
建物を挟む2本のストリートは、かなりの高低差があり、それをこの建物がリズミカルな階段の動線で導いています。
「ただ通りすぎるだけの人同士が居合わせる」ということが、豊かなパブリックスペースを構成する重要な要素ではないかと筆者は考えています。
アクティビティが増えていく過程には、その場の魅力を発見するきっかけが必要です。ここは、ただ通りすぎる人も多くのアクティビティに触れられるのが、こんなにも多様なアクティビティが生まれた理由と言えるのではないでしょうか。
5. ラ・ヴィレット公園
住所:211 Avenue Jean Jaurès, 75019 Paris, フランス
真っ赤なオブジェが印象的な「ラ・ヴィレット公園」。中心部から少し離れた19区にあります。
ベルナール・チュミによる設計で、公園の中を川が横断しているのが特徴です。
赤いオブジェは「フォリー」と呼ばれる西洋庭園に見られる装飾用の建物で、公園のあちこちに点在しています。
ひとつひとつ異なる形や機能を持ってしているので、見比べながら歩いていくのも楽しいかもしれません。
まるで美術館のような公園です。
公園内のメインストリートには屋根がずっとのびており、日陰を歩くことができます。
「美術館のようだ」と言いましたが、オブジェをアートとして見ていくうちに、オブジェだけでなく、様々なアクティビティを繰り広げるひとりひとりに視線が向いてしまうことも、そのように感じた理由のひとつです。
とても広い公園であるため、様々な人とアクティビティが見られます。ランニングやサイクリングを楽しむ人たち、ピクニックをする親子、木陰で涼むカップルなどなど…。それらをゆっくりと眺めながら歩き進めるのがおすすめです。
たくさん人が集まって、何をしているのだろう?と興味を引かれ近づいてみると、大屋根の下に木の板が敷かれ、ダンスフロアが作られていました。
大人も子どもも、自由に踊ったり駆け回ったりして遊んでいます。それを囲むように並んだ椅子に座って眺める人たちも含めて、全体に優しい空気が流れているように感じました。
6. フランス国立図書館
住所:Quai François Mauriac, 75706 Paris, フランス
ドミニク・ペロー設計の「フランス国立図書館」は、本を開いて建てたような4つのL字の棟が向かい合った建築です。
橋を渡り4つの棟の間に入ると、広々としたデッキにたどり着きます。
デッキの上では、子どもたちが自転車で遊んだり、棟のガラス壁をミラーにダンスの練習をしたりしていました。
さらにデッキの中央に向かうと、地下にぽっかりと空間が空いています。
中をのぞき込むと、木々が生い茂る中庭と、それを囲む図書室の様子が見えます。
木々に沈むような図書スペースは、涼やかな雰囲気が漂う不思議な空間になっていました。
建築でソトノバはつくれる?
パリのあと、ベルギー、ポルトガル、オランダと巡った筆者ですが、旅を終えて総じて思ったことがあります。
それは、「建築なしにソトは生まれないのではないか」ということです。
ここで言う「建築」という言葉が指す範囲は、人によって様々かと思います。
筆者の個人的な見解としては、自然物でないものは全て、建築という操作により人によってつくられたものだと考えています。
今回紹介した6つのパブリックスペースも、どれも天然そのままの状態と言えるものではありません。
そういえば、ほとんどの都市空間は建築という操作で埋め尽くされているように感じます。特に東京は、小さな街にぎゅっとたくさんの人や機能が集まっています。
そんな環境のなかで居心地の良いソトの空間をつくるとき、1つ1つの建築においても、何もないけれど何かをしたくなるような場をつくりだしていくことが求められているように思えます。
パリのパブリックスペースを訪れて、「建築にだってソトはつくれる!」と勇気付けられたような…?
ソトをつくることも、人の手によって空間をつくることの1つであることを教わった気がします。