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レポート
2カ月にわたる「タクティカル・アーバニズムの作法」が終了! アクションの成果と講義を振り返り

ソトノバと日本都市計画家協会(JSURP)が共催して、5月に開講した講座「タクティカル・アーバニズムの作法」も、丸の内でのアクションを終えてついにフィナーレです。最終回ではアクションの振り返りだけでなく、長期的な実践に向けて課題や提案を出すなど、未来に向けた言葉が多かったのが印象的でした。今回のアクションでは各グループにアクティビティ調査も実践してもらいました。その成果にも注目です。
Contents
短期的なアクションを長期的なプランに反映させていく戦術
タクティカルアーバニズムのサイクルは6段階。
まずは「学習」して基本の仕組みや戦術をインプット。「アイデア」を出して具体的に「構築」し、「プロジェクト」として立ち上げます。長期的な計画につなげていくために、プロジェクト実行中に欠かせないのが「計測」です。ここで得られた「データ」から、アイデアの有効性や実現可能性を実証することで、短期的なアクションを長期的な計画に反映させていくプロセス、これこそが「タクティカル・アーバニズム」です。講義はこのサイクルに従って進められてきました。
最終回では、アクションの振り返りと展望を各班が発表。NPO法人大丸有エリアマネジメント協会事務局長の藤井宏章さんをゲストに迎えて、講評をいただきました。4班それぞれの発表、長期的な計画に向けた知見が得られたかどうかがポイントです。

アクションと位置付ける「丸の内仲通り利活用アイデア実験祭 Marunouchi Naka-dori PROTOTYPING FESTIVAL」は、7月23日に丸の内の仲通りで実施しました Photo by Nozomu ISHIKAWA
既存の設えに、遊び心を誘うひと細工
まずはD班の「こども 『も』楽しめる丸の内」。
メンバーは最初のフィールドワークで、子供が退屈そうにしているのを見かけたり、小学生から高校生の世代が少ないことに気付きます。D班が設定した長期展望は、「あらゆる世代にとって居心地のよい場所にすること」。「今」通りに来ている子供たちをターゲットに、通りに遊びを散りばめるアイデアを出してきました。
講義の中で、あくまで子供「も」楽しめる、ということが大切、というフィードバックを得てからは、大人が巻き込まれて子供と共に通りに遊びを見出していくビジョンを描きながら、プランを構築。持続性のある取り組みのファーストステップだということを意識し、通りの設えで遊べるようなツールを開発しました。
ウィンドウチャイムを付けたり、ハンモックをつくったり。
子供の活動の調査から、音が鳴ったり揺れたりするものに引きつけられる傾向にあると分かり、通りに動きの要素を入れてみては、と提案を投げかけました。
他にも、痛い思いをすると続かないこと、安全対策の大切さへの気付きから、安心感があればもっと長時間、親の目を離れても滞在してくれるかも、といった意見も。アクティビティが待ち合わせ場所になるという発見もありました。
「ツーリストは歩き疲れてるし、ぶらぶらしたがる。ツーリストと住民の交流の場が生まれる可能性を感じた」、「ボラードを使うのは新鮮。長いスパンでやっていけたらすごいな」(藤井さん)
「浮き輪はもう少し、デザインも考えてみたらよかったかも」(ソトノバの泉山塁威さん)
「密度感や大きさって大事だな、と感じたのがオセロ。集まってくる人数も注目度も変わってくる。現場に行って実際に見ながら設置しないとわからないもの」(ソトノバの荒井詩穂那さん)
道沿いに3つの仕掛けで新体験
続いてC班の発表です。
「丸の内の魅力ってなんだろう? あの洗練されたよそ行きの都市的な空気の中で、身体感覚を拡張してみたらどんな風景が見えるんだろうか?」。そんな発想から、都市の風景がいつもと違って見える体験をもたらす3つのしかけ──「トリックアートワークショップ」、「はだしベンチ」、「ハーブテーブル」を考えました。
ハーブテーブルの様子はタイムラプス(コマ落とし撮影)で記録。触ったり、匂いを嗅いだり、座ってみたり、写真を撮ったり。15分に1回、どんな人が来てどんなことをやっていたか調査しました。こんな香りがするんだ、といったシンプルな驚きや発見があり、好奇心をかき立てるハーブテーブルは、近寄りやすさもあってか、終始人だかりができていました。
「はだしベンチ」でも統計を取りました。裸足になるのはいつでもどこでもできるけど、街の中では考えもしない体験に、人々は興味を示していきます。大人が子供に体験させようと誘う様子が印象的だったそう。
トリックアートのだまし絵写真は、誰もが前の人の写真を見せると、それを超えたい、と思うよう。場所を介して、知らない人のアイデアが空間に蓄積していく様子に、都市の中で育てる遊びとしての可能性を感じました。場所によって異なる蓄積の様相が見られるかもしれません。
D班は長期的な取り組みに向けて、トリック写真が撮れるパブリックアートの設置がまちの個性を創造するのでは?と提案します。「都会ではパブリックアートは高いところにあって、近寄りがたい。地面まで降りてきてくれれば親しみも湧きやすくなる」という意見も。
「人々の関わり合いと蓄積は、都市の役割」、「緑の力を見せられた。安心感がある」(藤井さん)
「遊び方を紹介するのが大変そうだった。絵1枚でパネルとかになっていたらいいかも」(泉山さん)
都心に上質な休息の場を
B班が提案したのは「なかやすみ家」。都会の疲れを癒す足休めの場として、ハンモックや「足(あし)水」を提供しました。
単発で終わらせないために、誰でも利用可能で、再現性を意識した設えを考え、水盤と人工芝を試作し改善したものをマニュアル化。外国人にとっても珍しいようで、写真を撮っていく人も見られたそう。丸の内に合わせた高級感のあるデザインを目指した方がいいかもしれない、タオルの貸し出しなど、水を使うハードルの高さを低くする工夫が必要、といった気付きがあったといいます。
それぞれのアクティビティの滞在時間も調査し、ハンモックの滞在時間は10分未満が8割以上、まれに本格的に休息を取る人がいたそうです。ある程度の時間、滞在してもらうツールとして使えることが分かりました。
「水というものが興味を引きつけたのではないか」(藤井さん)
「保健所的なハードルがある中で見せ方もデザインもきれいにまとまっていた」、「コの字の大きさがちょうどよかった。他人とでも大丈夫な距離感」、「看板を見て、戻ってくる人が多かった。サインって大事なんだな」、「ハードルをガイドラインに残しているのがよかった」(ソトノバ)
日本の居心地のいい空間を考える
最後の発表です。A班は「忙しい生活をエンジョイする」ための仕掛けの考案からはじまり、通常寝ることのできない場所で寝ることができること、それは贅沢なのでは、というアイデアを、日本らしさをアップデートした表現で仕掛けをつくることに。人工芝と畳を市松模様に並べ、縁側的な曖昧な空間を提案しました。
アンケート調査から、座れたりリラックスできたりする場所としてだけでなく、好奇心をそそられる空間として求められていることが分かりました。改善提案として、溜まる場所や溜まる行動を人々が欲していること、丸の内ブランディングに合わせたかっこよさが必要であること、道路に座るなどといった行為は、体験してみれば楽しさが分かるけれど、まだネガティブなイメージや消極的な捉え方があることなどが挙げられました。
「道路で寝っころがる、というある種の背徳感からの快感のようなものもあったのでは」(藤井さん)
「風鈴がとてもよかった」、「エリア全体にすごくいい雰囲気が流れた」、「畳と人工芝の組み合わせははじめてみた。道路に人工芝って抵抗感あるけど、畳がそれを緩和してくれた」、「緻密な計算で人の動きは変わる。他のチームに比べて、まちを眺める時間が長くなったんじゃないかな」、「普段ある座り方は店にも近くて車道に背を向けている。目線や距離を新しく考え直すきっかけになったんじゃないか」(ソトノバ)
最後は修了証書授与式!
JSURPまちづくりカレッジ2017前期課程プログラム
タクティカル・アーバニズムの作法 〜パブリックスペース活用における戦術とアプローチ〜最終講
日時 | 2017年7月25日(火)19:00−23:00 |
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場所 | 日本都市計画家協会 |