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団地再生のカギはソトにあり? 場の力を引き出しコミュニティを結ぶコツ【ソトノバTABLE#19レポート】
団地再生のカギはソトにあり? 場の力を引き出しコミュニティを結ぶコツ【ソトノバTABLE#19レポート】
ウェブメディアであるソトノバが企画するリアルイベント「ソトノバTABLE」。毎回、ソトに関するテーマを掲げ、その道の研究者や実践者をゲストに招いてお話を伺います。今回のテーマは「ソト使いから考える団地の未来!」。
高度経済成長期に建てられ、各地で更新の時期を迎えている団地には、豊かな屋外空間があります。こうしたソトを生かして横浜市旭区の左近山団地の再生に取り組む、都市環境研究所の高鍋剛さん、スタジオゲンクマガイの熊谷玄さん。そして、東京都西東京市と東久留米市にまたがるひばりが丘団地でエリアマネジメントに取り組む、HITOTOWAの田中宏明さんの3人をお迎えしました。
管理組合が団地再生に乗り出す
ソトノバの説明などを経て、最初のゲストトークは高鍋さんから。今年6月に団地内にある広場の改修が完了し、お披露目イベント「左近山団地パークフェスティバル」を開催したばかり。ホットな話題提供に、参加者も興味津々です。
横浜市の西部に位置する左近山団地は、1968年に入居を開始した約4800戸のマンモス団地です。半世紀を経て施設の老朽化が目立ち、高齢化の加速や空室率の増加が課題になっていました。
高鍋さんは2014年度から足掛け4年の間、左近山団地中央地区の分譲エリアの団地再生事業にコーディネーターとして関わっています。同地区の管理組合が自ら立ち上がり、横浜市の支援を受けた事業です。「建て替えない団地再生」が前提でした。
初年度は住民が参加するまち歩きなどを企画、委員会を重ねて何が必要かを絞り込んでいきます。その結果を、「外部空間の整備」、「空き家を活用」の2本柱のアクションプランにまとめました。
翌15年度には、アクションプランに従って、オープンスペースの改善や空き家活用方策の提案を募るアイデアコンペを実施しました。「団地の管理組合が主催する設計コンペは全国初ではないか」と高鍋さん。
コンペの与条件を決めるに当たり、子育て世代の意見を引き出したいと、ママさんたちが近所で開催したバーベキュー大会に乗り込んでヒヤリング。「団地で育った人は、できれば帰ってきたり、近所に住んだりしたいという気持ちがあることが分かりました。そのために具体的な環境としてどうすればよいか、ということを聞き込みながら、コンペの条件に落とし込んでいきました」(高鍋さん)
コンペには学生からプロまで、全国から24作品が集まりました。一次審査を通過した9作から、公開審査を経て選ばれたのが、「団地全体を公園にする」というコンセプトのスタジオゲンクマガイ案でした。
住民巻き込み「丸ごと公園化」
ここからトークは熊谷さんにバトンタッチ。実は熊谷さん、左近山団地の近所で生まれ育ち、今もお子さん2人が団地内の小学校に通っているそうです。
熊谷さんのトークは、6月28日に開催した「左近山パークフェスティバル」のドローン動画からスタート! 新しくなった広場で、囲碁や野点(のだて)、コーラス、クラフトワークショップなど、近隣の43団体が一斉にそれぞれのアクティビティを展開するという光景が広がりました。「子供のころのにぎやかな風景を思い出せた」と振り返ります。
コンペ時の提案では、(1) 均質から個性へ、(2) 団地全体を回遊、(3) 集まる場所をつくる、という3つのポイントを掲げました。
これまで広い団地では、どこの地区でも均質なサービスが享受できることを前提に、同じような遊具がある公園が配置されていました。それを例えば、この公園はブランコだけ、こちらの公園は滑り台だけ、という具合に個性を持たせた“専門公園”とすることで、団地内の回遊も促せます。
広場の目的は、やりたいことができる場所。ワークショップで「何をやりたいか」、「どうやって使うか」など、段階を踏んで住民の意見をまとめながら進めていきました。
工期は約5カ月。その間、小学生には9000枚の芝生を張ってもらう、若い世代にはピザ窯をつくってもらう、老人会にはテーブルをつくってもらうなど、できることは手伝ってもらいました。
「シンプルな仕掛けを重ねていくことで、広場がそこに住む人のものになる」と熊谷さん。ちょっとでも手を加えることで、所有感が向上し、愛着を持ってくれると言います。いきなり大きなプロジェクトを投げ掛けるのではなく、「それくらいなら、まぁいいか」と受け入れてもらえる小さな提案を重ね、巻き込んでいくことで、長く愛され使われるソトができ上がりました。
新旧住民をつなぐエリアマネジメント
3人目のゲストは、分譲マンションのコミュニティ形成などを手掛けるHITOTOWAの田中宏明さん。田中さんはひばりが丘団地内のコミュニティセンターに常駐して、建て替えが進む団地の新旧住民や周辺地域を交えたエリアマネジメントを請け負っています。
ひばりが丘団地は1959年に入居を開始した、2714戸の大規模団地。建物の老朽化や居住者ニーズの多様化を背景に、UR都市機構が1999年から建て替え事業に着手しました。同機構が、建て替えを担当する民間デベロッパー4社と設立した一般社団法人「まちにわ ひばりが丘」が中心となって、エリアマネジメントを推進しています。
「まちにわ ひばりが丘」の拠点は、敷地の西側に残した2階建てのテラスハウス。団地マニアには堪らないこの建物を、カフェやコミュニティスペース、広場、共同菜園などの機能を盛り込んだ施設にリノベーションしました。
まちにわでは、住民によるエリアマネジメントへの移行を目標に掲げ、活動の担い手を育てています。「まちにわ師」と呼ぶボランティアチームを、養成講座を経て認定。現在、3期約30人が活動しています。団地の中はもちろん、もともと団地出身で、現在は近く住んでいる方も参加。一帯にはもともと文化的な活動を求める素地があったといい、「人に恵まれてラッキーだった」と田中さんは話します。
オープン1周年の記念イベントでは、マルシェや書道パフォーマンス、野外シネマ、ハロウィンパレード、団地内の公園で100人が同じテーブルを囲む「まちにわ食堂」など、ソトを使ったアクティビティをてんこ盛り! こうした活動を通して、新しい担い手の発掘につなげています。
「団地あるある」も飛び出るクロストーク
それぞれのゲストトークの後には、コーディネーターにソトノバ副編集長の三谷繭子さんも交えてのクロストークです。
住民をどうやって巻き込んでいくか、という問い掛けに対して、高鍋さんは「Facebookページを介して、団地出身で今は外に住んでいる人や、近隣地域の団体が参加するようになった」と効果を実感。一方、左近山団地を遊び場にしていた熊谷さんは、「子供のころは恵まれているという実感がなかった。豊かな外部空間を意識したのは、大人になって何年もしてから」と話し、だからこそ団地外の人にも加わってもらう必要があると言います。
賃貸住戸を取り壊し、高層分譲マンションに立て替えているひばりが丘団地。小さいころに住んでいた人が子育て世代になり、分譲マンションを購入して戻ってくる例が多いと、田中さん。「こうした人々が、自治会に入って中と外をつなぐきっかけになる」と説明します。
この話題から、団地の管理組合と自治会は大抵仲が悪い、という流れに。「資産管理などハードを見る管理組合と、お祭りなどソフトに関わる自治会では風土が違う。今まで関わってきたなかでは、9割ぐらいが犬猿の仲(笑)」と高鍋さんが明かします。
左近山団地の再生も管理組合が発注する事業なので、自治会との関係構築はこれからの課題とのこと。熊谷さんは、「これからはゲリラ戦。この9月から団地内の小学校のPTA会長になります。団地に移り住んでいる所員もいるので」と、半ば当事者として関わり続ける意欲を見せていました。「デザインが団地にできることの可能性を感じています」(熊谷さん)。
半数以上が初参加!
2時間に及ぶソトノバTABLEも終盤を迎え、飲みながらの交流会が始まります。
50名を超える参加者が集まった今回。フェイスブックで見かけて興味を持って来てみたなど、初参加の方が多かったのが印象的でした。業種についても、不動産や造園設計といったある程度関連がありそうな方から、飲食業やコーチングなどまったく畑違いの方まで幅広く、団地というテーマの間口の広さを実感しました。
参加者同士や参加者とゲストの交流も深まり、新たなつながりが生まれた夜でした。
All photos without credit by Nozomu ISHIKAWA
「ソト使いから考える団地の未来!」ソトノバTABLE#19
日時 | 2017年8月22日(火)19:00-22:00 |
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会場 | DIAGONAL RUN TOKYO – ダイアゴナルラン東京(東京都中央区八重洲2-8-7 福岡ビル4F) |
ゲスト | 高鍋剛氏(都市環境研究所)、熊谷玄氏(スタジオゲンクマガイ)、田中宏明氏(HITOTOWA) |
タイムライン | 18:45- 開場 19:00- チェックイン 19:10- イントロ 19:15- ゲストトーク その1「左近山団地パークプロジェクト」高鍋剛 氏、熊谷玄 氏 その2「まちにわ ひばりが丘」田中宏明 氏 20:30- クロストーク(コーディネーター:三谷繭子/ソトノバ副編集長) 21:00- クロージングフォト&ソトノバドリンクス 22:00 終了 |
主催 | ソトノバ |