オープンスペース|空地
レポート
空地をもっと使っていこう! 建築学会・空地デザイン小委員会が初の公開研究会で議論
都市で空地を見かけたとき、「このまま使えたら面白そうなのに」、「都市と人間をつなげる場になるかも」などと、空いている状態そのものにポテンシャルを感じることがありませんか? 私はあります。
実際は、所有者によって立ち入りが制限され、気付けば新しい建築計画の看板が立ち、空地としてのポテンシャルを生かしきれずに終えることがほとんど。この現状に対して、「もったいない」、「どうにかしたい」と問題意識や関心をもつ人は増えてきていると思います。
12月2日、日本建築学会の空地デザイン小委員会が、初となる公開研究会を開催しました。題して「人口減少時代における空地デザインの展望」。会場の東京大学本郷キャンパスには、北は北海道から南は熊本県まで、全国各地からおよそ100人の学生や研究者が集まりました。空地のあり方やその可能性について繰り広げられた討論を、「所有のあり方」、「長期的な計画への位置付け」、「空地の意味や価値」という3つの切り口からレポートします。
所有者の無関心をどう解消?
まず委員会が掲示したのは、空地デザイン研究における3つの着眼点。最初の視点は「所有」に関わるものです。
空地への対応方法は、その所有態度によって下の3パターンのどれかになると整理できます。
- マネジメント:空地を利活用するため積極的に投資、ルーティン作業を行う。
- ケア:空地の維持を目的として、ルーティン作業を行う。積極的な投資は行わない。
- ネグレクト:空地に関心を持たず、空地の周囲に対して一切の資金負担をしない。
「空地デザイン」や「空地アーバニズム」を進めていくためには、この3パターンのうち「ネグレクト」ではない所有意識が前提であると委員会は提言します。
「長期的な空地」を実現するために
次の視点は、時間軸上での空地の扱い。建物が建つまでの使われていない状態=空地という考え方から、空地それ自体を長期計画に盛り込むことができないか、という議論です。
空地の常態化といっても開発は生じるため、必要な空地が減って必要でない空地が増える可能性があります。人口減少時代において、空地・空き地を都市におけるひとつの計画対象として位置付けるためには、空き地を「…→建築→空地→建築→…」という過渡的なものと捉えずに、「…→建築→空地→空地の利用→空地の利用→…」という時間的存在として捉えなおすことが必要と整理します。
この際、空いている状態が長く続けば続くほど、「空き」という形状が安定し、それを活かした利用の自由度は高まります。いかに「安定した空地」にできるか、計画に盛り込むことが重要になってくるのです。
現在における空地の価値とは
そのためにも、空地自体の価値を改めて問い直さなければなりません。これが第3の視点です。
空地が常態化する都市において、空いたスペースであることに、新たな価値を見出す必要があります。そもそも空地が有する意味を、この時代の文脈の中で改めて考えることが求められています。
例えば、都市生活の中で営む屋外活動のためであったり、新しいものごとの発生のためにあったり、今そこにない他の何ものかのために留保する空間であったり。空地の存在意義は、まだ探る余地があると言えます。
こうした課題整理に続いて、4人の専門家による話題提供がありました。
最初の講演者は、千葉大学大学院園芸学研究科、緑地環境学コース准教授の秋田典子さん。タイトルは「空地を地域の資源にする」です。秋田さんは東日本大震災以降、被災各地で住民との協働によるコミュニティガーデンづくりに取り組んできました。
その過程で、あらゆる空き地をマネジメントすることに対する難しさに直面します。同じようにトライしても、うまくいく場所とそうでない場所が出てくる。そこで、空き地のポテンシャルを見極めるために、「空間」と「場」という概念を示します。
空地が持つ前提条件を見極める
「空間」とは管理が必要な対象。その管理者は、個人やひとつの団体だけでも成立します。マイナスを底上げしていくための管理です。一方の「場」は、多様な主体が関わり、運営する対象です。空き地という管理対象の「空間」を、運営を施すことで地域の資源となる「場」に転換できるのか。そこを判断できる、目利きの必要性に直面したと振り返ります。
同じメンバー構成でコミュニティガーデンをつくっても、場所によって継続性や効果に差が出るのは、その場所が持つ本来のポテンシャルが大きく影響するのではないか。例えば、人の目が普段からある場所は参加者を維持しやすく、出入りに開放性が高い場所の方が参加の垣根が低く感じるなど──。なるほど、この指摘は印象的でした。
確かに場所そのものが持つ物理的・地理的な条件は、空地としての利用価値評価に関係してくると言えるでしょう。「空間」と「場」を分けるポテンシャルがどこにあるのか、そのさらなる研究と評価軸の提示が、今後の課題として挙がりました。
注目集める「タクティカル・アーバニズム」
2人目の講演者は、ソトノバ編集長でもある明治大学理工学部助教の泉山塁威さん。長期的な空地をひとつのカテゴリーとして確立する手法として、パブリックスペースにおける活用実験による仮説と検証のプロセス「タクティカル・アーバニズム」を紹介します。
日本では行政による、トップダウンで大局的・長期的な戦略的都市計画が主流です。しかしこのプロセスでは、変革をもたらすことは難しい。この欠点を補完するものとして、ボトムアップで具体的かつ実践的、小規模な戦術的アーバニズム(タクティカル・アーバニズム)は有効であるといえます。
今後は日本でも、タクティカル・アーバニズムに誰もが取り組めるように、マニュアルの整備や活動をサポートする支援システムの構築などが必要となってきます。また、問題意識があって初めて芽生える活動であるがゆえに、意識のない場や人にどう広めていくのかも重要な課題と、泉山さんは指摘しました。
空地の経緯を追い、土地の復元力を引き出す
3人目の講演者は、東京大学大学院工学系研究科特任教授の窪田亜矢さんです。講演タイトルは「都市のレジリエンスを高める文化的空地」。東日本大震災以降の被災地の復興に携わった経験から、都市のなりわいを支える空間構造としての「文化的空地」に可能性を見出しています。
レジリエンスとは、強靭性や復元力のこと。極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を目指して戻ろうとする力です。
現在、生業と生活が一体化した市街地はほとんど見られず、平均的な宅地化によってどこにでもあるような風景に見えてしまいます。空き地が増え続ける現状に対しても、維持管理が追いつかず、地域に悪影響を及ぼす懸念もあります。
これらの解決案としての空地の利用方法が「文化的空地」です。歴史的文脈から、まちの固有の空間構造を生かして生業を支えるまちにするために、空き地を利用することができるのではないか、という提案です。
はじめに市街地が形成された頃から空き地が生じるに至るまで、歴史的背景や経緯・実態を調査することで、まちの空間構造が浮かび上がってくると窪田さんは言います。今後、文化的空地からの地域振興をスムーズに進めるためには、経済的な支援機構や、土地の所有と利用を断ち切るための法的環境あるいはシステムを整備する必要があると提起しました。
熊本地震による自然発生的空地のアクションの兆し
最後の講演者は、熊本大学大学院自然科学研究科准教授の星野裕司さん。窪田さんに引き続き、自然災害に関するものでした。
熊本地震の復興のなかで、空き地が、自然発生的→必然的→駆動的・発生的→多層的・多義的、といくつかのレイヤーが重なった多層的な使われ方をしていたことに注目。「今そこにない他の何ものかのために留保された空間」として、空地が機能できる可能性を感じさせる事例を紹介しました。
しかし復興完了後まで空地活用が続くことはほとんどなく、次第に建物で埋まっていってしまう。短期的な利用を長期的な利用に常態化する難しさを物語っています。いかにして自然発生的な短期間の利用をきっかけに変えて、長期的な利用に結びつけるかが今後の課題と締めくくりました。
空地の利用はまだまだこれから
全体を通した論点を、自分なりに整理してみました。
視点 | → | 手法の提案 | → | 今後の課題 |
---|---|---|---|---|
ネグレクトな所有をなくす | → | 場と空間に分けて対応する | → | デザインの研究、評価基準としてのポテンシャルがどこにあるのか |
「長期的な空地」というカテゴリーの確立 | → | タクティカル・アーバニズム | → | マニュアル整備、実験から知見を得る、短期的なきっかけを長期的にする方法 |
空地の価値を見直す | → | (研究の余地あり) | → | 実現を支えるシステムの構築 |
最後に、この空地デザイン小委員会では、
2017年度の建築学会大会で、オーガナイズドセッションを計画中です。大会梗概を募集予定。積極的な投稿、お待ちしています!
とのことでした〜!