マーケットは都市のインフラ!エリマネと日常を支える戦略|ソトノバTABLE#56レポート
「都市戦略の視点から考えるマーケットとエリアマネジメントの可能性」をテーマに、2025年7月16日に開催されたソトノバTABLE#56。
本イベントのタイトルや議論で使われる「マーケット」とは、金融や経済圏のことではなく、地域に根ざした「青空市場」や「マルシェ」といった日常の暮らしを支える商業空間を指しています。
2025年6月にアメリカ・ミルウォーキーで開催された、世界各地のパブリックマーケットの運営者や研究者が集う国際カンファレンス「International Public Markets Conference」に参加した泉山塁威さん(日本大学理工学部准教授/ソトノバ共同代表理事)と細矢瑞稀さん(日本大学大学院 泉山ゼミ)の視察報告を出発点に、過去に同カンファレンスへ参加した経験を持つ鈴木美央さん(O+Architecture代表/龍谷大学准教授)も交えて議論が展開されました。
本記事では、鈴木さん、細矢さん、泉山さんの3名によるマーケットやエリアマネジメントに関する研究・調査の共有と、その後のクロストークの内容について紹介します。
Cover Photo by Tamaki Hosoya
Contents
都市戦略としてのマーケット|ロンドンと日本の決定的な違い
最初に登壇した鈴木さんは、2018年に出版した『マーケットでまちを変える』の著者であり、2019年にはロンドンで開催されたInternational Public Markets Conferenceにも参加しています。にぎわい創出という曖昧な目的ではなく、都市戦略としてマーケットを捉えるべきだという明快な立場から発表が行われました。
マーケットはイベントではない。都市の日常のために必要な商業空間であり、暮らしの場であり、コミュニティの場である。
その象徴として紹介されたのが、ロンドンの事例です。
鈴木さんが参加したロンドンでのInternational Public Markets Conference の様子(発表スライドから)
ロンドンでは、市長名義で発行される都市空間戦略の指針「ロンドンプラン」にマーケットの役割が明確に位置づけられている。
移民の食生活を支える場、低所得者が新鮮な野菜にありつける場、国内外から人を集める観光資源、タウンセンターに活気をもたらすもの——マーケットがなぜ必要なのかが、政党を超えて歴代の市長によって書き続けられてきた。
といいます。
さらに、マーケットの専門家を招集した諮問機関「ロンドン・マーケット・ボード」の設置や、100ページに及ぶ調査報告書の発行、選定されたマーケットへの集中投資など、都市のインフラストラクチャーとしてマーケットを位置づける姿勢が徹底されています。
一方、鈴木さんが2022年に全国1,741市町村を対象に実施したアンケート調査(回答613自治体)では、日本の現状が浮き彫りになりました。
54%の自治体がマーケット関連事業を行っていると回答した一方で、総合計画や実施計画にマーケットの記載があるのはわずか18%にとどまっていたのです。
事業を担う部署も商業系、産業振興系、農林水産系、都市計画系と多岐にわたり、実態が掴みにくい状況。
開催頻度はほとんどが年数回の「イベント」にとどまっており、ロンドンのように日常化したマーケットとは大きな隔たりがある。
と解説しました。
鈴木さんが実施した自治体へのアンケートの集計結果について(発表スライドから)
鈴木さんは、日本の小さなマーケットの可能性にも光を当てました。参加者数100〜200人、出店数20店舗以下という小規模なマーケットが最も多いという調査結果に対し、
むしろこのスケールだからこそ日常に根ざした地域のマーケットとして価値があるのではないか。
と指摘しています。
その実例として紹介されたのが、愛知県豊田市と埼玉県狭山市(新狭山)の事例です。
豊田市では「地域経済付加価値分析」を実施し、地域の出店者が集まるマーケットでの買い物は、郊外の大型ショッピングセンターでの買い物に比べて地域に残るお金が4倍(周辺都市を含めると7倍)になるというデータが得られた。
新狭山では、月1回のマーケットを5年間継続した結果、通り沿いの空き店舗がほぼすべて埋まり、近隣のマンション販売サイトにマーケットが街の魅力として紹介されるまでになった。
といいます。
鈴木さんがマーケットを利用した商店街の活性化事例として紹介した埼玉県狭山市のシンサヤママーケットの様子(発表スライドから)
マーケットの空間とアクティビティ|ミルウォーキー視察報告
細矢さんからは、ミルウォーキーで開催された12th International Public Markets Conferenceと3つのマーケットの視察報告がありました。
カンファレンスのテーマは「Public Markets for Every City」。都市の規模や人口に関係なく、すべての都市でマーケットが繁栄する未来を想像するという趣旨で開催されました。
細矢さんが参加したInternational Public Markets Conferenceのプログラム内容について報告する様子(発表スライドから)
続いて細矢さんが注目したのは、視察したマーケットの空間デザインです。
South Shore Farmers Market、Oak Creek Farmers Market、Kenosha Harbor Marketという3つのマーケットを分析し、共通する空間構成の工夫を4点にまとめました。
1つ目は、マーケットの動線と滞留空間の関係を考慮した配置です。
Kenosha Harbor Marketでは、道路上のテント列(動線)と隣接する広場(滞留空間)が意図的に分けられており、ゆったりとくつろぐ来場者の姿が印象的だった。
といいます。
2つ目は、マーケットの開催場所だけでなく、周辺のパブリックスペースと一体的に活用している点です。
周辺商業施設や民地のオープンスペースなど、開催場所の周辺のパブリックスペースと連携することで、長時間の滞在を促す空間が生まれていた。
マーケット事例について提示した細矢さんの考察①(発表スライドから)
3つ目は、意図的にアクティビティが生まれる仕掛けがつくられていた点です。
ヨガのプログラム、マシュマロを焼く体験、巨大チェスのような遊具など、「食べる・買う」以外の体験・行動を誘発する仕掛けが各所に用意されていた。
そして4つ目は、滞留空間に「余白」が設けられていた点です。
あえて何もプログラムを用意しない芝生空間があることで、来場者が自らレジャーシートを広げてピクニックを始めたり、子どもたちがボール遊びを始めたりと、運営者が想定していなかった偶発的なアクティビティが生まれていた。
といいます。
マーケット事例について提示した細矢さんの考察②(発表スライドから)
意図的な仕掛けと余白の共存が、マーケットの豊かさを生み出しているという指摘は、日本の現場にも応用できる視点です。
エリアマネジメント(BID)とマーケット|「マグネットの磁力」としての役割
泉山さんは、ミルウォーキーとサンタモニカ、ロサンゼルスでの調査をもとに、BIDを活用したエリアマネジメントとマーケットの関係を報告しました。
泉山さんの考えるエリアマネジメントにおけるBID・パブリックスペース・マーケットの関係について(発表スライドから)
まず泉山さんは、
日本で使われる「エリアマネジメント」は和製英語であり、海外では「プレイスマネジメント」と呼ばれている。
と補足しました。アメリカではBID(Business Improvement District:ビジネス改善地区)が、固定資産税に上乗せしたBID税を財源として、不動産オーナーの受益者負担でエリアの経営を担う仕組みが50年以上にわたって機能しています。ここでいうBIDとは、市街地や商業地域を活性化させるため、民間主体や事業者が一体となって協力し税や会費を拠出して様々な改善策を推進する仕組みのことを指します。
ミルウォーキーにはBIDが複数存在しており、泉山さんはその重層的な構造を紹介しました。Milwaukee Night Marketを主催するウエストタウン・アソシエーションは、1989年に設立されたBID#5を運営する組織で、
かつてネガティブなイメージがあったエリアをマーケットやイベントを通じて楽しい場所として再ブランディングする役割を果たしており、スポンサーごとにVIPエリアを設けたり、ドリンクのブランドごとにスポンサーがついたりなど、メリットを明確にした資金調達の仕組みも特徴的だ。
と泉山さんは語りました。
Milwaukee Night Marketの現地での様子(発表スライドから)
その一方で、ヒストリック・サードワード・アソシエーション(Historic Third Ward Association:HTWA)というBIDは、市が所有するミルウォーキー・パブリックマーケットの建物をPFI(Private Finance Initiative)的な形で運営し、エリアのブランド戦略や不動産価値の向上に取り組んでいます。
さらに、ミルウォーキー・ダウンタウンBID(BID#21)という広域BIDも存在し、ウエストタウンのエリアを含む形で設置されているため、
一部のエリアではBIDがダブルでかかっている状態にある。
といいます。
このダウンタウンBIDは5年間の戦略プランのもと、清掃やプレイスメイキング、アート・カルチャー、経済活性化を推進しており、泉山さんが特に驚いたのは、
ホテルのリノベーションなど不動産投資をBID自らが手がけている。
点でした。地方でプレイヤーがいないと嘆くのではなく、BID自身がエリアデベロッパーとしてハードもソフトも担っていく姿勢は、日本のエリアマネジメントにとって大きな示唆を与えてくれます。
泉山さんはこれらの知見を整理し、マーケットの位置づけとBIDの役割について、次のように語りました。
マーケットはパブリックスペースに目的と活気を与える「マグネットの磁力」であり「強力なコンテンツ」である。BIDにとって、パブリックスペースの質を維持・向上させることは至上命題であり、そのための有力な手段としてマーケットが機能している。
クロストーク:ジェントリフィケーション、自走化、そして効果測定のあり方
3名のプレゼンテーションの後、登壇者によるクロストークが行われました。
鈴木さんから泉山さんへの問いかけは、不動産価値の向上とジェントリフィケーションの関係についてでした。
ジェントリフィケーション、例えば地域の不動産価値が上がりすぎた結果、元々住んでいた人が住めなくなるという問題はイギリスでも指摘されている。BIDは不動産オーナーの受益者負担で成り立つ以上、価値向上を目指す構造がある中で、この問題をどう捉えているのか。
泉山さんは、
ミルウォーキーではそこまで顕著ではないものの、やはりどの都市でもジェントリフィケーションの課題は意識しながら進めていく必要がある。
と応じました。
細矢さんから鈴木さんへの質問は、
東京のような大都市で地域住民をマーケットにどう巻き込むか。
という点でした。
鈴木さんは、
大都市では住民が既にコンテンツに満たされているため巻き込みが難しい一方、郊外ではこうした場を求めている人が多く、反応も早い。
と語りました。
左:質問に笑顔で答える鈴木さん 右:クロストーク中、鈴木さんへ質問を投げかける細矢さんの様子 (動画アーカイブから)
鈴木さんが意識しているのは、最初から「自走化」を見据えた仕組みづくりです。
行政や専門家が抜けた後でも無理なく続けられるように、最初から負担の少ない運営体制を設計することを心がけている。
新狭山の事例では、県が提案した人工芝の設置を、毎月敷き直す負担を考慮して、あえて採用しなかったというエピソードが紹介されました。
さらに、運営に対する効果測定のあり方も重要な論点として浮上しました。
鈴木さんは、
単年度で成果を見せなければならないという意識が派手な事業につながり、結果として自走化できない規模に膨らんでしまう。
弊害を指摘しました。
売上や来場者数といった量的なデータだけでなく、地域住民の暮らしがどう豊かになったかという「質的なストーリー」を伝えることの重要性を説きました。
1人1人の出店者や来場者のストーリーを丁寧にたどれば、マーケットの価値は伝わるはずだが、多くの人がそのプロセスをはしょってしまう傾向がある。
と鈴木さんは指摘しました。
泉山さんは、アメリカのマーケット運営にマーケティングの専門家がディレクターとして関わっていることに注目し、
売上データだけでなく、SNSのエンゲージメントを重要な指標として追いかけ、臨場感のある写真や動画を発信し続けている姿が印象的だった。
と語りました。
量的な評価とストーリーの発信、そしてマーケティング的な視点など、多様な評価軸を組み合わせていくことの必要性が、議論を通じて共有されました。
左:マーケットの運営について知見を話す泉山さん、右:3名の登壇者とのクロストーク中に笑顔を見せる進行役の板東さん (動画アーカイブから)
おわりに
鈴木さんは最後に、日本のマーケットの独自の可能性に触れました。
ロンドンのように1,000年にわたってマーケットがインフラとして機能してきた歴史は日本にはない。戦後、露店撤廃令や道路法の整備によって一度その歴史は途絶えている。しかし、だからこそ現在、地域課題を解決するツールとしてマーケットが独自の進化を遂げている。この日本特有のしなやかな使いこなしが成熟していけば、アジアなど新興都市のモデルとして輸出できるかもしれない。
という壮大なビジョンが示されました。
本イベントで繰り返し語られたのは、マーケットを「年に数回の非日常のイベント」から日常を支える「都市のインフラ」へと転換していく視点です。月に1回でも、小規模でも、継続していくことが重要であり、そこに動線と滞留空間のデザインを施し、意図的な仕掛けと余白を共存させていくことが求められます。そして、エリアマネジメントの強力なコンテンツとしてマーケットを戦略的に位置づけ、地域経済の循環を生み出していくことが次のステップとなるでしょう。日本の各地域でマーケットやエリアマネジメントに携わる人々にとって、多くの実践的なヒントが詰まったセッションとなりました。
Text / Prompt: 佐々木結楽(ソトノバ・アルバイト)
Photo: ソトノバ
Editor: 中野竜
Editor in Chief: 泉山塁威
本記事は、イベントアーカイブ動画から生成AI(Gemini 3.5 Flash)による文字起こしをおこない、生成AI(Claude Opus 4.7)により要約し、ソトノバ編集部が加筆・修正・ファクトチェックをおこなって作成しました。
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- この記事を書いた人 ソトノバ レポーター
