プレイスメイキング20年、次の一手|ソトノバTABLE#53レポート
公園や街路などのパブリックスペースは、そこで暮らす人たちが関わることで、もっと訪れやすく、心地よい場所へと変わっていく。いかに多くの関係者を巻き込んでまちづくりを進めていくことができるか。この考え方こそが「プレイスメイキング」です。
2000年には米国NPO「PPS(Project for Public Spaces)」から『How to Turn a Place Around: A Placemaking Handbook』が発行され、世界中にその実践が広がりました。
2025年3月6日にaxle御茶ノ水とオンラインで開催したソトノバTABLE#53は、2005年の初版邦訳『オープンスペースを魅力的にする 親しまれる公共空間のためのハンドブック』の翻訳に関わった鈴木俊治さん(有限会社ハーツ環境デザイン代表取締役/元芝浦工業大学教授)を特別ゲストに迎え、田村康一郎さん(一般社団法人ソトノバ共同代表理事/Placemaking JAPAN)、泉山塁威さん(日本大学理工学部建築学科准教授/一般社団法人ソトノバ共同代表理事/Placemaking JAPAN)、田邉優里子さん(Placemaking JAPAN)と共にプレイスメイキングの本質やその重要性を学び、広める場としました。
さらに、『オープンスペースを魅力的にする』を、近年の状況に合わせる形で2025年2月に出版された『プレイスメイキング・ハンドブック:パブリックスペースを魅力的に変える方法』についても取り上げ、一緒に学びを深め、考える時間を共有しました。
会場には、行政、デベロッパー、研究者、そして地域でまちづくりに汗を流す実践者まで、様々な立場の人たちが集まっていました。プレイスメイキングに導かれてこの場に足を運んだ参加者たちの様子からは、ここで得た知見を持ち帰り、自分のまちで形にしていく、そんな思いが感じられました。
本記事では、2025年3月に開催した回のレポートをお届けします。
Contents
オープニングトーク「パブリックスペースを魅力的に変える方法とは?」
最初に田村さんから、2025年2月に出版された『プレイスメイキング・ハンドブック:パブリックスペースを魅力的に変える方法』について、紹介がありました。この本は、約20年前に鈴木さんらが翻訳に関わった『オープンスペースを魅力的にする』がバージョンアップされた書籍です。
向かって左が原著『How to Turn a Place Around』、真ん中が約20年前の翻訳本『オープンスペースを魅力的にする』、右が2025年に出版されたバージョンアップ版『プレイスメイキング・ハンドブック』
この本のメインのテーマである「プレイスメイキング」とはどういうものなのか?オープニングトークとして、本の内容を踏まえながら、田村さんの解説がありました。
PPSの『What is Placemaking?』によると、コミュニティの中心としてパブリックスペースを再考し、改革するために人々が一緒に集まって描く共通の理念
と定義づけられているそうです。
プロジェクト主導型の開発手法とは異なり、場所の設定から始まり、短期的な実験をおこない、継続的な評価と長期的な改善を繰り返すことで、理想的な場所を作り上げていくことが、プレイスメイキングの中核的な考え方です。そこではコミュニティの参加を重視し、多様な声を取り入れながら、パブリックスペースを魅力的に変えていくことを目指しています。
プレイスメイキングの手法 (田村さんのスライドより引用)
そもそも、本のタイトルにもある「魅力的な場所」とは、どんな場所なのでしょうか。
田村さんは
かけがえのない地域に根ざした個性があり、人々の社会的なつながりを育む場所。賑わいだけでなく、コミュニティの形成や人々の心身の健康にも貢献する場所
と解説しました。
魅力的な場所とは (田村さんのスライドより引用)
Yesterday, Today|プレイスメイキングのこれまで
続いて、鈴木さんから「Placemaking-Yesterday, Today and Tomorrow」と題した基調講演が行われました。
前半部分では、プレイスメイキングがどのように展開してきたのか、これまでの経緯について、自身の体験も含めてお話がありました。
プレイスメイキングの系譜は、1960年代のジェイン・ジェイコブズやウィリアム・H・ホワイトにさかのぼります。現在では、アラン・ジェイコブス、ヤン・ゲール、PPSなど、世界的に活躍している研究者や団体が存在感を増しています。
世界的に活躍したプレイスメイキングのリーダーたち(鈴木さんのスライドより引用)
特に、本日の話題に深く関係がある『How to Turn a Place Around(2000、PPS著)』は、PPSが最初に発刊した書籍で、鈴木さんの研究室の参考文献として活用していたそうです。
スライドの右側がPPSが最初に刊行した『How to Turn a Place Around(2000、PPS著)』(鈴木さんのスライドより引用)
事例:沖縄県うるま市安慶名地区
続いて、鈴木さんが取り組んだ「沖縄県うるま市のまちづくり」から、プレイスメイキングの実践について解説されました。
このプロジェクトでは、地権者や市の担当者が、
区画整理で基盤を整理するだけじゃなく、市民協働でまちづくりをやろう。
という想いで実施されたもので、プレイスメイキングの要素を多く含んでいました。
この取り組みの一環として、地域住民も参加して「まちづくり規範」を作成しました。
具体的には、看板の大きさや文字の書体を実物大で印刷して現場で検証したり、想定される状況を寸劇で再現したり。こうして現実に即したルールを検討し、ガイドラインとしてまとめました。
その後、ガイドラインに沿ってうるま市内の建築関連20社あまりが1社1案の住宅建築設計案を提案し、それを学生が模型にしました。この図面と模型は公開され、住民が気に入った作品を設計した事務所に、自宅や店舗の設計を依頼できるようにしました。
地域住民と「まちづくりガイドライン」(2001~2008年ごろ)を作成(鈴木さんのスライドより引用)
鈴木さんはこの時を振り返り、
住民参加型で進めることで、「やっぱりこういうことは必要だよね」と、相互理解しながら進めることができました。取り組みの中で、プレイスメイキングという言葉は使っていませんでしたが、こういうまちにしよう、こんな使い方をしようという思いを住民や行政のみなさんと共有しながら合意形成ができました。これはプレイスメイキングと共通するところです。
と解説しました。
実際に整備されたうるま市の様子(鈴木さんのスライドより引用)
Tomorrow|プレイスメイキングはおしゃれな場所をつくることではない
鈴木さんはプレイスメイキングの本質について、
一般にはプレイスメイキングは、小綺麗でおしゃれな場所をつくるというイメージがあるかと思いますが、それだけではないのです。
私がベトナムのハノイの小さな広場を訪れた時のことです。そこはお店に囲まれ、中にはバイクが多数停められ、物売りのおばちゃんたちが休憩し、自転車で通り抜ける人がいるなど雑然としていました。しかしそこには生活感、生活者のバイタリティがあふれていました。プレイスメイキングでは、こうした多様な生活感を保つことも大切だと感じました。
と解説しました。
ベトナムのハノイのスケッチとその風景から感じたキーワード(鈴木さんのスライドより引用)
また、鈴木さんはまちづくりのトレンドを1900年代からの流れで整理した「持続可能な都市計画とデザインの動向」を用いて、プレイスメイキングのこれからについて解説しました。
持続可能な都市計画とデザインの動向(鈴木さんのスライドより引用)
サステナブルなまちづくりのトレンドの変化を見てみると、
- トップダウン → ボトムアップ
- 事業者・計画者主導 → 利用者(住民)参加・主体
- 官主導 → 官民連携/民間・地元主導
に移り変わっているそうです。
プレイスメイキングの役割はこれからますます大切になり、皆さんと一緒により多くの場所を良い場所に変えていけたら、と思っています
と、講演を締めくくりました。
トークセッション「実践から学ぶ!プレイスメイキングのリアルな現場」
鈴木さんの講演の後は、田村さんがモデレーターとなり鈴木さん、泉山さん、田邉さんの3人でトークセッションが行われました。
はじめに、鈴木さんの基調講演を受けて、泉山さんが感想を話しました。
鈴木さんの講演を受け、アーバンデザインとプレイスメイキングが密接に関わっており、特にアメリカのアーバンデザインの流れの中で、ボトムアップのプレイスメイキングが重要な役割を果たしてきたことが印象的でした。日本では、ハード中心の都市開発が依然として主流であり、プレイスメイキングの重要性は認識されつつも、具体的な方法論は未確立です。今後は、専門家だけでなく、市民も参加できるような、より身近なプレイスメイキングの推進が求められています。
鈴木さんの講演の感想を述べる泉山さん
行政も変わった。鈴木さんが感じる20年の変化
鈴木さんは、その感想を受けて、20年前と比較して、国土交通省をはじめとする国の機関が意欲的な地方自治体からのボトムアップ提案を受け入れる姿勢を示している点を指摘しました。
背景には、都市計画法の抜本改正が法令体系や既得権益の複雑さから頓挫したことがあります。加えて地方分権化の流れのなかで、地方のボトムアップ提案を都市再生特別措置法で支援する形に変わってきたのではないでしょうか。
鈴木さんはそうみています。
抜本的な制度変更が難しい状況では、各地でボトムアップの取り組みを進め、その知見を広く発信して共有していくことが重要だ、と強調しました。
泉山さんの感想を受けて返答する鈴木さん
また、田邉さんが挙げたのは、現場の資金と人材の課題でした。
特に、ボトムアップ型プロジェクトでは、ステークホルダーが増加し、マネジメントの重要性が高まっていますが、その役割を担える人材が不足しているそうです。
社会実験などの取り組みは増加しているものの、本格的なプレイスメイキングには資金、時間、人材マネジメントなど、多くの課題が残されています。プレイスメイキングに関わる人材は建築業界の出身が多いですが、今後は異なる分野の人材との連携が求められています。
と、田邉さんは現場の課題と、現場のリアルを語りました。
自身の経験を交えて解説する田邉さん
質疑応答|本当の意味でまちを変えるためには
参加者からは、プレイスメイキングを進めるにあたって、
少しでもプレイスメイキングの考え方をデベロッパー全体に浸透させ、民間の知見を活かせる運営やプログラムの面にも投資が向かうようにしたいです。どうすればいいでしょうか?
と、直面する課題を乗り越えるための質問があがりました。これに対し泉山さんは、
オランダでは「Place-Led Development」という公共空間やコミュニティ、ヒューマンスケールの快適さを中心にした開発をおこない、アイレベル、つまり、歩行者の目線の高さに何を置くかを重要視しています。ストリートの活性化には道路だけでなく、民間の建物も一体となったプレイスを中心とした開発が重要になります。
と答えました。
社会実験や調査も大切ですが、資金調達やクライアントの巻き込みが課題であり、デベロッパーがプレイスメイキングに取り組むことで、まちの活性化につながるはずだ、と泉山さんは補足しました。
質問に回答する泉山さん
また、別の参加者からの
パブリックスペースを魅力的にするには、建築以外でどのような人材が必要でしょうか?
という質問には、この質問に対してはそれぞれ
鈴木さん:どんな人でもまちに対して活かせる知識や経験があると思いますが、そのまちやその場所に強い想いを持っている人が、一番中心なのかなと思います。
田邉さん:まちでプレイスメイキングを実践し続けるためには、その活動を金銭的に支援してくれる財団が重要だと考えています。従って、財団に活動をPRできる人材が必要だと思います。もう一つは、プレイスメイキング手法のスライドにあったSTEP5(継続的な評価と長期的な改善)にある、運営を理解し実行できる人材に、プロジェクトの初期から参加してもらうことが重要かと思います。
泉山さん:シンガポールに視察に行きましたが、マーケティングやホテルを経験されている女性の活躍が多く、ファシリテーションに長けた人材が多かったです。逆に建築部門の方は少なかったです。
と所見を述べました。
トークセッションの様子
おわりに
お話をうかがって感じたのは、パブリックスペースを魅力的にするには、プロジェクトの初期段階において、行政や地権者だけではなく、民間や運営者、建築以外のプロフェッショナルを巻き込んだチームビルディングを行うことが重要であると同時に、いまの日本国内のプロジェクトの課題でもあると学びました。
最後に、本編では触れられませんでしたが、田村さんの発表の中で共有された、フレッド・ケント(PPS創設者/元代表)のドキュメンタリービデオ『The Place Man (2024)』を紹介します。
このドキュメンタリーを通して、人々やまちにとって魅力的なプレイスが、私たちが今日直面している課題に取り組むために必要不可欠であるという彼の深い信念と熱意を感じ、今後の活動の励みにしていただければ幸いです。
All Photo by Yuki Iwamune
- この記事を書いた人 岩宗 勇希
- ソトノバ・ディレクター/団地テーブルHANAMIGAWA 共同主宰/花団もりあげ隊/studio MUNE/九州大学産学官連携セミナー地域政策デザイナー養成講座修了/グッドネイバーズスクール@ちば修了/1994年福岡生まれ/2児の父/東邦レオ㈱にて施工管理・コミュニティディベロップメントを7年間従事/現在はソトノバにてパブリックスペースのプレイスメイキングとエリアマネジメント等の実践に取り組む/千葉市花見川団地で毎日新しい食と人が出会い《ご近所以上、家族未満》の関係性を育む複合交流拠点『団地テーブルHANAMIGAWA』を設立・運営
