インドネシア、居住者同士の「共有」でつくり出す水辺の公共空間

東南アジアのなかでも急激な経済成長を遂げているインドネシア。都市部では各地で開発が進み、水辺の利用も大いに注目されています。しかし河川敷には地方や農村部から移住した人々の住宅が密集しており、行政や民間企業による用地確保やインフラの整備は難航しています。

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チョデ川と周辺に広がる居住地、カンポン

一方で、「カンポン」とよばれる居住地では、川との密接な関わりを持つ人々が、自ら公共空間をつくりだすことに成功しています。この記事では、ソトの場の利用を知り尽くした人々の、河川敷での取り組みについてレポートします!

路地裏に生活があふれ出る「カンポン」

カンポンとは、日本でいう「下町」の意味合いを持つ密集住宅地です。路地が狭隘で入り組んでおり、周辺は小さな家がひしめきあっています。

ひとたび足を踏み入れて気付くカンポンの魅力は、常に人がいてにぎわっているところです。個々の家は非常に狭いため、人々は日常生活の多くの時間を路地で過ごします。主婦は雑談をしたり、路地に簡易コンロを持ち出して料理したり、屋外の洗い場で洗濯をしたりすることも。男性はチェスなどのゲームをしたり昼寝をしたりなど、思い思いの時間を過ごします。

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路地を入ると、先に何があるのかな?と好奇心が高まります

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屋外に設けた東屋で、コミュニティ行事の準備中

きっかけは川の清掃活動、地域を越え巻き込む

著者が訪れたジョグジャカルタ市のカンポンは、市内を縦断するチョデ川の河川敷用地に広がっています。

ジョグジャカルタ市は人口60万人ほどの小さな都市です。チョデ川の河川敷には1940年ごろから人が住み始めました。農村部から移住してきた人々が地縁的なコミュニティを形成し、河川敷は住宅で埋め尽くされていきました。河川敷のカンポンにはトイレや排水施設は整備されないまま、生活排水などは川に垂れ流しの状態に。河川敷以外に暮らす地域住民がチョデ川へ寄り付くことはありませんでした。

2000年代に入ると、カンポンの居住者は自らの住環境を見直そうと、川の清掃活動を始めました。彼らは「プメルティ・カリ・チョデ(チョデ川の守護者たち)」という市民団体を結成して、川の上流から下流にかけて、協力して清掃活動をします。彼らの活動は度々メディアに報道されて参加者も増え、継続的な努力によって、チョデ川のゴミの量は明らかに減少しています。

プメルティ・カリ・チョデは川の清掃を通して住環境を改善しようと活動を始めました。現在では居住者以外に、ジョグジャカルタ市政府や地域の学校や大学からの参加者も加わっています。カンポンの活動が地域コミュニティを越えたつながりを持つことにより、私的に占拠された河川敷が、そもそも公共空間であることが認識されるようになってきています。

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清掃活動前、プメルティ・カリ・チョデとジョグジャカルタ市生活環境庁職員が一緒に記念撮影!

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地域の学校や大学に通う若者も、積極的に清掃活動に参加します

粘り強く交渉し、互いに歩み寄る

プメルティ・カリ・チョデは清掃活動の他に、水辺の公共空間の創出にも力を注いでいます。インドネシアの河川法では、チョデ川両岸の堤防内にでの私的な利用を禁止しています。また、専門家はチョデ川の堤防から15m区間は住宅を撤去し、リバーウォークを設置するように指摘しています。

これを受けてプメルティ・カリ・チョデは、同じカンポンの居住者のなかでも、河川敷に商売用の魚を放すいけすを設置したり、水汲みのポンプを設置したりするなど、河川敷を占拠している一部の人々に対して、自主的に居住地を後退するように呼び掛けています。

交渉には長い時間を要しますが、自主後退に併せて河川敷周辺の地盤を整備し、浸水被害を軽減することを説明しているため、これまで何十年も立ち退きを拒んでいた人々の理解を得やすくなっています。

用地を確保する際の特徴は、河川敷を占拠している人々を追い出すことなく、公共用地を確保するための最低限の場所の提供を求めていることです。プメルティ・カリ・チョデと占拠者は、同じカンポンに所属し、路地裏や河川敷において生活空間を共有しています。同じ場を共有している者どうしだからこそ、互いの価値観を理解しており、公共空間をつくりだすための歩み寄りが実現しているのです。

自主後退によって川沿いにつくられた空間は、ジョグジャカルタ市が舗装や植樹を施し、小さな休憩所なども設置しています。

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チョデ川沿いに整備されたリバーウォーク

舗装されたリバーウォークでは、カンポンの居住者が日常を過ごしたり、それ以外の人々が散歩道や近所のカンポンへの近道として利用することもあります。また、著者が訪れた際には、釣りをする若者や、川へ降りて水遊びをする子供たちの姿も目にしました。

現在、プメルティ・カリ・チョデは、居住者に限らず、ジョグジャカルタ市民を対象に川の利用改善を呼び掛けるイベントも実施しています。彼らがジョグジャカルタ市の多くの人々を巻き込む仕掛けについては、別の機会にレポートしたいと思います。

インドネシアの人々がカンポンでの暮らしている様子や、河川敷での取り組みは、経済や社会状況が異なる日本では想像しにくいかもしれません。しかし、日本に暮らす私たちが、近所の民地や身近に利用する公共空間について、所有者や訪問者が互いの利用方法を了承し、同じ価値観を共有してみる、という心がけが、ソトの場の快適な利用につながるのかもしれません!

All photos by Kunika MIZUNO

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水野 久仁香

水野 久仁香

名古屋出身/国内のまちづくりコンサルタント社員/学生時代はインドネシア留学の経験から、カンポン(「下町」という意味合いを持つ密集住宅地)にてフィールドワークを実施。主に河川敷のカンポンにおける清掃活動を通して、住民が行政を巻き込み、リバーフロントの整備を進めていくプロセスに注目し、研究を行う。近年は名古屋圏のオープンスペースの整備や活用事例にも関心あり。