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建築家リレーで育む公園! コペンハーゲン「アーバンリビング計画」の全貌(後編)

前編で、デンマークで採用されている地区計画の概要や、それによってつくられてきた都市空間事例を紹介しました。そして、地区計画が更新されながら作られてきた「ウェスト・カルベボッド・ブリュッゲ(以下、WKB)」の全体像をお話しました。今回の後編では、リレーのように次から次へと地区計画のバトンが渡されながらつくられてきたWKBを、段階を追って見ていきます。そして今、建設が進められているアーバンIKEAの全貌を明らかにしたいと思います。

デンマークを代表する建築家たちの競演による都市公園!

地区計画403

当初の地区計画図 Figure by Lokalplan no. 403 “Rigsarkivet”を基に筆者が編集

2006年にWKBの地区計画が初めてつくられた際の計画図が、上の画像のようなもの。IからIVの4エリアから構成されており、全体に緑地を這わせ、南北軸の中央を遊歩道が縦断している様子がうかがえます。

提案の濃度はエリアによって異なります。エリアIからIIIには、建物のイメージも描かれていますね。建物の用途や高さ、容積率なども指定されています。特にエリアⅠは、この計画の入口となる特に重要な場所とされ、模型までもがつくられて具体的なイメージを提案しています。

SEBBank提案

エリアIの計画を可視化する模型 Lokalplan no. 403 “Rigsarkivet”

最終的なデザインは、土地を購入したオーナーと、オーナーが契約したデザイン事務所に委ねられます。自治体が地区計画に基づいて、提案されている建築が全体の方向性を逸脱するデザインになっていないか検討するため、オーナーの意見や事務所の個性は反映されつつも全体が調和の取れたデザインになるのです。

実際に、この地区計画をもとにどんな都市空間が生まれたのか見てみましょう!

エリアI. SEB Bank

地区計画の段階で模型まで作成されていたエリアIの土地は、SEB銀行が買い取りオフィスを建てました。設計は地区計画作成者であるLundgaard&Tranberg Architects(ルンゴード・トランベア・アーキテクツ)とSLAです。地区計画の中で最もアイコニックな建物の設計は、地区計画作成者が請け負うことが多いようです。

SebBank

2010年竣工に竣工したSEB BANK ArchiwebとGoogleマップを基に筆者が編集

こちらが完成した建築とランドスケープです。チボリ公園とウォーターフロントエリアを結ぶメインストリートに面する、緑のガラスに覆われた2棟のオフィスビル。そしてその間に挟まれた、日本の棚田のような公園が目を引きます。

棚田のようなパブリックスペースのデザインは、短く急な坂を緩やかにして上りやすくします。それだけではなく、市内のスケートボードに興じる若者の交流の場所となることで、平地の多いコペンハーゲンにおいて丘のような憩いの場所をデザインしていました。

SebBank写真

Photo by JaDAS

エリアII. Danish National Archive

PLH

2009年に竣工した国立公文書館。設計者はPLH Architects Photo by JaDAS

SLAが設計したランドスケープを登りきると、次は国立公文書館の屋上庭園へとつながります。このプロジェクトは、デンマークの最初のPPP(Public Private Partnership:公民連携)事業としてコンペが開催され、PHL Architectsが勝ち取りました。

公園の歩行者用の舗装の脇には、ベンチや植栽がたまり場をつくるようにデザインされています。ベンチに座るとハーブのさわやかな香りや、ベリーを実らす植物の繁茂する柵が配置されており、丘を登りきった疲れを様々な植物がさわやかに癒してくれます。

エリアIII. Tivoli Hotel

TivoliHotel

Tivoli Hotel。2010年竣工 Photo by JaDAS

国立公文書館の庭を抜けると、石の壁に囲われたランドスケープとは対照的な、メタリックな建築が現れます。

凹凸した複雑なファサードが特徴的なのは、コペンハーゲン出身の建築家ヨーン・ウッツォンの息子、Kim Utzon(キム・ウッツォン)が設計したTivoli hotel(チボリホテル)。ホテルに挟まれた敷地の中央にはTivoli Congress Center(チボリ会議場)が配置されており、その屋上が3つ目の公園となっています。

この公園もSLAによるデザインとなっています。 1つ目の公園のシティードゥーンとは大きく違うデザインとなっていますね。

TivoliHotel写真

キム・ウッツォンが設計した建築と、SLAがデザインを担当したランドスケープ Photo by JaDAS

公園の中には東屋のような建物がいくつか点在しています。その建物から舗装に至るまで、すべてが三角形を基本としたデザインとなっており、キム・ウッツォンとSLAによる見事なデザインのコラボレーションを実現しています。

こうして、2006年に作成された地区計画に沿って、エリアⅠからエリアⅢまでが並行して開発されました。しかしコペンハーゲン市は、エリアIVを開発する際に、新たな地区計画の作成を求めました。その後の開発計画はどうなったのでしょうか。

地区計画のバトンは第2走者、第3走者へ

地区計画485

地区計画485で描かれた新たなビジョン Image by Lokalplan no. 485 “Kalvebod Brygge Vest”

初期のプロジェクトが終わる頃、コペンハーゲン市は新たな地区計画を作成しはじめました。前計画でエリアIVとされていた場所が、2012年の12月に公開された計画ではエリアIと書き換えられ、そしてその南側へと更に緑地を延長するかたちで、計画範囲が広げられています。

本計画で最も重視されているのが、前計画で構想された屋上庭園のアイデアを引き継ぐことです。さらに、計画地の中心を横断するDybbølsbro(デュボスブロ)という橋と開発をどのようにつなぐかという点も強く意識されました。なぜなら、デュボスブロはデンマーク国内で3番目に大きなショッピングモール「フィスケトーブ」の最寄りの鉄道駅でもあり、非常に高いポテンシャルを持っているからです。

地区計画485ダイアグラム

南北軸の考え方を描いた断面ダイアグラム。都市的要素と自然の要素のバランスに配慮している Lokalplan no. 485 “Kalvebod Brygge Vest”

デュボスブロ駅とフィスケトーブの間に挟まれた敷地であるWKBがどんな空間になるのか、多くの人の注目を集めました。デザインを担当したHolscher Arkitekter(ホルシャー・アーキテクツ)が提案したデザインは、起伏を持たせながら高低差を緩やかにつなぎ、さらに自然的な要素と都市的な要素のバランスをグラデーションを付けてコントロールするというもの。

ここで計画される機能は、エリアIにある商業施設や公益施設がメインです。騒音テストにパスした場所に関してのみ、住宅施設の建設も可能としています。

地区計画485パース

新たな地区計画によって描かれた都市空間イメージ。前計画によって生まれたSEB Bankの外観を意識した建物が描かれている。 Lokalplan no. 485 “Kalvebod Brygge Vest”

しかし、この計画をもとに建てられた建築は1つだけでした。その1つというのが、エリアⅢに計画された円柱状の建物。鉄道建設局と道路総局のオフィスが入居するテクニカルコントロールセンターです。建物は2015年に竣工し、現在はランドスケープの植栽が青々と育つのを心待ちにしています。

TechnicalControlCenter

テクニカルコントロールセンターの外観イメージ Lokalplan no. 485 “Kalvebod Brygge Vest”とGoogleマップを基に筆者が編集

バトンは、すぐに地区計画485-1へと引き継がれました。テクニカルコントロールセンターのすぐ北側に、政府関連施設であるNexus-CPHを新たに建設することが決まったのです。

Nexus-CPHを建てるためにつくられた地区計画であるため、計画の内容は非常に具体的なものでした。地区計画は2015年に完成し、建物は2018年秋に完成しています。このエリアも、エクステリアが整うにはもう少し時間がかかる模様。2、3年後が楽しみです!

NexusCPH

Nexus-CPHの外観イメージ Lokalplan no. 485 “Kalvebod Brygge Vest” Appendix no. 1とGoogleマップを基に筆者が編集。

LokalPlan485-1

2012年に更新された計画範囲と、Nexus-CPHの外観・外構イメージ Lokalplan no. 485 “Kalvebod Brygge Vest” Appendix no. 1 を基に筆者が編集

IKEAがバトンを受け取って猛ダッシュ!

2017年、バトンは「地区計画551番・ウェストカルベボッドブリュッゲ計画2」へと渡りました。ずっと手つかずだった、WKBにおいて最も重要と思われる中央の74000m2の土地が、ついに動き出します。

IKEA

北方面から見下ろすIKEAのイメージ Lokalplan no. 551 “Kalvebod Brygge Vest II” と Googleマップを基に筆者が編集

この地区計画は、DSBから土地を買い上げたスウェーデン家具メーカーのIKEAが、開発許可を得るために作成したものです。IKEAは、現在急成長中の建築事務所、Dorte Mandrup Architects(ドルテ・マンドロップ・アーキテクツ)に地区計画の作成を依頼。もちろんIKEA店舗の設計も同事務所に依頼しました。

屋上の公園には遊歩道以外にもIKEAのカフェやベンチなどのストリートファーニチャーを設置。ウォーターフロントエリアを見下ろすパブリックスペースとしてもデザインされています。

高層のビルが並ぶことで暖かな日差しを失っていたKakvebod Brrygeにとって、暖かな日差しを得られるアーバンリビングを空中に求めることは、大胆でありながらも市民にとっては切実なデザインの提案なのかもしれません。

BIGKuktus

IKEAとカクタスの外観イメージ Lokalplan no. 551 “Kalvebod Brygge Vest II”

この地区計画には、目玉がもう1つあります。それが、建築設計事務所のBIGがデザインする若者向けの集合住宅。IKEAの屋上公園とつながるこの集合住宅は「Kactus(カクタス、サボテンの意)」と呼ばれ、六角形の基準階を少しずつずらしながら高く積み上げたようなフォルムが特徴的な高層マンションです。

カクタスは2棟合わせて500室を備え、高さは80mほどになる予定。本来40mであるこの地域の高さ制限を大幅に上回る2つの建物は、まさにこの地域の象徴となるでしょう。

BIGがデンマーク内に住居を設計するのは、2009年に8ハウスを設計して以来ということもあり、より一層の注目を集めています。

IkeaPlan

地区計画551番の計画図。同時進行しているカクタスのシルエットも明確に示されている Lokalplan no. 551 “Kalvebod Brygge Vest II”

リレーは続く

ドルテ・マンドロップとBIGが共演する夢のプロジェクトの完成は、当初来年と言われていましたが、最近プラン変更があり2020年以降となる予定です。

そのころには、IKEAに隣接しているNexus-CPHのランドスケープも完成しているでしょう。また来年は、現在コペンハーゲンに建設している2つの新路線のうち1つが完成予定。WKB周辺の街並みも人の流れもどんどん変わっていきます。

2024年に完成予定のもう1つのメトロ新路線は、WKBの真下を通って更に南方向へと交通ネットワークを広げます。路線と共に建設が進む新駅のうちの1つは、デンマークで3番目に大きなショッピングモール「フィスケトーブ」に直結する予定で、これに合わせてフィスケトーブも増築計画中。コペンハーゲンはどんどん便利に、豊かになっていきます!

Fisketorvet

増築後のフィスケトーブのイメージ(西面ファサード) Lokalplan no. 202 “Fisketorvet” Appendix 1 and 2 とGoogleマップを基に筆者が編集

近年開発の進むコペンハーゲン市内のプロジェクトの中でも、飛び抜けたスケールと大胆なアイデアを形にしてきたWKB。デンマーク人のユーモアに富んだ発想力と、それを形にする行動力を象徴するものといえるのではないでしょうか。

空飛ぶ緑の都市公園は、どんな未来をコペンハーゲンの空に描くのか。今後もプロジェクトの進展を見守りたいと思います。

Cover image from Lokalplan no. 551 “Kalvebod Brygge Vest II”

テキスト・写真・画像:由利 光 (京都工芸繊維大学大学院)
サポート:矢野 拓洋

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