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レポート

まちを動かす戦術的パークマネジメント─神戸市”アーバンピクニック”の現場から

まちなかの公園を鮮やかに蘇らせる実験、”URBAN PICNIC(アーバンピクニック)”。神戸らしいライフスタイルを発信したいという気持ちから、市民有志が『神戸パークパネジメント社会実験実行委員会』を組織し、2015年から本格化した取り組みです。

真夏の空の下、キーパーソンのお2人に昨年度からの歩み、そしてこれからの展開についてうかがいました。

村上豪英さん

村上豪英さん(村上工務店代表取締役)
2度の大震災を経て、まちに対する想いに動かされ、学びから人の輪を生み出すプロジェクトとして神戸モトマチ大学を立ち上げる。2015年、神戸電子専門学校、福岡壯治さん、神戸R不動産、小泉寛明さんらと共にURBAN PICNIC社会実験を提案

福岡孝則さん

福岡孝則さん(神戸大学大学院工学研究科准教授/ Fd Landscape 主宰)
ランドスケープアーキテクトとして国際的に活躍後、現職。「Livable City (住みやすい都市)のつくりかた」を日本で展開するための実践・研究活動を進める

まちなかの「ツボ」を見極める

神戸・三宮を訪れた人ならばきっと目にしたことがあるはずの目抜き通りフラワーロード。さて、この通り沿いにある「東遊園地」と呼ばれる公園、皆さんご存知でしょうか?

URBAN PICNICの舞台はこの東遊園地。実は、明治時代に開設された日本で最も古い公園の一つなのです。ここで、居留外国人がホッケー、テニス、野球、クリケットなどを楽しみ、日本人に近代スポーツが普及するきっかけとなったと言われています。かの有名なルミナリエの最終地点でもあり、大型イベントの際にはたくさんの人々が集まります。

しかし中心となるグラウンド部分には緑も少なく、普段は、人がほとんどいない砂漠のような空間に。この状況を見かねていた村上さんたちは、当時(2013年)まちに出てアイデアを集めていた市役所に対して、日常的に市民がシェアするアウトドアリビングとしての公園再生を提案しました。

背後の山々、港にも徒歩圏の神戸の地形や、公園周辺の土地利用を読み解き、「ここを変えればまちに波及する」というポテンシャルのある場として、東遊園地に白羽の矢を立てたのです。

芝生で人が降りてくる! 社会実験で成功体験を共有

東遊園地

お盆の最中にも関わらず入れ替わり立ち替わり人が立ち寄る。何年も前からここにあったような空間

そこで、行政・管理者の視点とは違った、自分たちのアイデアを試すパークマネジメント社会実験を計画することに。昨年、市民の想いのこもった本を寄贈していく「アウトドアライブラリー」、そして、田園地帯の野菜を届ける「ファーマーズマーケット」の2本立てでプログラムを実施しました。

他のイベントで使用した芝生を養生して再利用したり、Tシャツからガーランドを手づくりするなど、あえて手間をかけて準備することで、「想い」の詰まった空間づくりとしました。その結果、70万円程度の低予算で、夜までにぎわう場を創出することに成功しました。今までの素通りが一転、目の前にあるタワーマンション、市役所の展望台からも人が降りてくるようになったのです。

さらに11月には、継続開催が可能か検証するために2度目の実験を開催。今度は一般市民がスケッチやヨガ、楽器触れ合いといった多様な企画を持ち込んで、公園をステージのように使うプログラムを提案しました。東遊園地は国有・市管理という事情もあり、こうした利活用に至るまでの手続き上のハードルは高かったのですが、実行委員会側で活用内容を審査するプロセスとすることで無事実現したのでした。

こうした2015年度の実績を踏まえ、神戸市も協力体制を強化し、今年は芝生活用実験と併設する形でにぎわいづくり事業を公募することになりました。URBAN PICNICとファーマーズマーケットの各プログラムの実行委員会はそれぞれ一般社団法人化した後、公募を勝ち取り、運営を進めています。

「内輪」なコミュニティはつくらない!

こうした活動を支えるのは、やはり人のつながり。

もともと市民活動が育つ土壌のあった神戸ですが、東遊園地に対しては、「良くも悪くも、自分に関わりのあるものと捉えていた人が少なかった」と、村上さんは振り返ります。

そのためには「内輪」なコミュニティとするのではなく、常に新しい人を巻き込み続けるように心掛けているということです。これは、自身が立ち上げた『神戸モトマチ大学』での手法が生きています。

例えば、常設カフェのスタッフとして汗を流しているのは神戸大学の学生さん。

「毎日ここに居ることでわかる改善点があります」

そう語る彼は現場で得た実感を、『神戸パブリックスペースデザインラボ』代表として他の大学生メンバーと共に、再整備に役立てるアイデアづくり、東遊園地無料ガイドツアー運営に活かしています。

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エリアへの波及―パークイノベーションからLivable Cityへ

さらに、今年度は並行して再整備への動きもあります。

周辺の商業・業務街区との結節点に当たる東遊園地。「東遊園地に刺激され、まちなかエリア全体のまちづくりの中で、公開空地などのオープンスペース活用が動きだす期待を持っている」と福岡さんは語ります。

福岡さんは、ニューヨークやオーストラリア・メルボルンなど先行する都市も参考にしつつ、Livable City(住みやすい都市)としての神戸都心再生に尽力してきました。東遊園地はLivable Cityについて考えていくフォーラムの場ともなっています。

「自分たちのまち」の資産価値向上目指す

2013年からの短期間のアクションが、再整備検討にまで発展した東遊園地。訪れる人が増えてきたからこその警備・安全確保など管理上の対策、オフィスワーカーの利用度向上など、ステップアップしていくための課題も見えてきた段階にあります。

再整備後も見据えた村上さんら、中心メンバーのポリシーを感じたのは、大局的に都市を捉え、周辺エリアの不動産資産価値向上を目指している点。大手民間テナントの賃料に頼る「稼げる公園」というよりも、「消費者としての自分たちでなく、まちをつくっていく市民としての自分たち」を生むモデルをつくるという言葉が、心に刺さりました。

芝生グラウンド

今年度実現した芝生グラウンド

ライブラリー

古本屋だとほぼ無価値にみなされてしまう本も、「想い」がこもることで空間を豊かにするツールに。オーナーはライブラリーの主役に(参加料:無料)。廃校から譲り受けた椅子も大事なファニチャーの一つ

ファーマーズマーケット

昨年度実験時のファーマーズマーケット。URBAN PICNICと併設されることによりシナジー効果を発揮(写真提供:村上豪英さん)

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今年度のURBAN PICNICは11月6日まで! ぜひ東遊園地で神戸ならではの夏の一時を過ごしてみてください。

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