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【Book Review】人口減少も怖くない!? スポンジ化する都市を前向きに使おう/「都市をたたむ─人口減少時代をデザインする都市計画」(著・饗庭伸)

未曾有の人口減少期に入った日本では、世界に先駆け高齢者が増える一方で、子どもは少なくなるばかり。増え続ける人口を受け止めるべく拡大し続けてきた「都市」を、これからどうしていけば良いのか──。とかく悲惨な状況を想像して暗くなってしまいがちなこのテーマを、「いや、意外とそうでもないかも?」と思わせてくれる良書です。

人口減少に伴ってランダムに空き家や空き地が増えていく「スポンジ化」は、裏を返せば、セミパブリックスペースとして活用できる地域資源が増えることでもあるのです。

[amazonjs asin=”4763407627″ locale=”JP” title=”都市をたたむ 人口減少時代をデザインする都市計画”]

都市計画分野を専門とする著者が、この10年間ほど考えながら実践してきたことをまとめて書き下ろした本書。研究者として大学で教鞭を執りつつ、地方都市や大都市郊外といった現場での経験も豊富な著者が、分かりやすい言葉で綴ります。

キーワードは書名にもなっている「たたむ」。都市の縮小局面を指す概念や方法論として、「縮退(shrink)」、「間戻(かんれい、都市プランナー蓑原敬氏が提唱)」、「コンパクトシティ」などが挙げられますが、著者はこれに対して「たたむ=fold up」という平易かつ、また「広げる」こともできるというニュアンスを込めた言葉を掲げます。

1章、2章は序論として、そもそも「都市」とはなんぞや?というところから始まり、統計から人口減少社会の実像をあぶり出します。そして我々が無意識の前提にしてしまっている「都市とはこういうものだ」像を、丁寧に鮮やかに覆していきます。

なかでも「都市とは、そもそもコメとニクとヤサイの人たちが、カレーを食べたいと思ったときに発明された」という例え話が秀逸。学生や地域の人々に向けて、伝わりやすいように試行錯誤してきたであろう著者の持ち味が発揮されています。

都市は人が生活するための「手段」

そして著者は、都市は目的なのか手段なのかという問いを立て、「豊かな生活をしたい」という「目的のための手段の集合体」である、と導きます。

それを受けて、現代日本は「経済成長のために都市を使う」という大きな目標の共有が崩れて、それぞれが新たな目的を持ち、あるいは見失い、都市を使ったり、既存の都市を消費していくタームに入っている。そのなかで都市に求められるのは、それぞれ多様なあり方の混在を許容する場であること、と説きます。

ではそのような場に対する「計画」はどのような姿を取り得るのでしょうか?

著者は都市機能を維持するために都市を縮小するのではなく、「人口を適切に都市空間にフィットさせていくこと」こそが、都市計画の役割だと捉えます。

計画が無から有をつくり出すのではなく、内的な力をただ整えて捌く。「ダムは水を一時的に貯め、流れる時間差を調整しているだけで、ダムが水の量を減らしているわけではない」という比喩が腹に落ちます。

人口という水量が減少するのを所与の事実として、時間をかけて細やかに、既存の空間を読み替えていくような計画手法が求められているのです。

スポンジ化する都市郊外をどう使うか

そうしたときの、現実の空間像はどのようなものになっていくのでしょうか。

著者は、実際に大都市の郊外や地方都市を見て歩いた経験から、街のあちこちでランダムに空き家や空き地が生まれる「スポンジ化」が進行しつつあると指摘します。

このスポンジの穴を、それぞれの場所で求められる機能に詰め替えていくような手法や様態を「スポンジシティ」と命名。5章ではその実践事例も紹介します。コンパクトシティのような大きな経済再投資を伴う手法は立ち行かないのではないかとの問題意識を、注意深く言葉を選びながら提示しています。

「スポンジ化」が進む地方都市の中心市街地。余剰空間をゆるく開いていくことで、可能性が広がるかもしれない。

「スポンジ化」が進む地方都市の中心市街地の一例。余剰空間をゆるく開いて使っていくことで、可能性が広がるかもしれない(写真:樋口トモユキ)

そのうえでコンパクトシティに対するスポンジシティの整理として、「短期で時限を定めた小さなプロジェクトを連続させながら、長い時間をかけて実現する」「市場と貨幣をなるべく介在させず、人々の社会的なつながりによって資源を調達する」と位置付けます。これは、最近ソトノバでも注目している「タクティカルアーバニズム(TU)」の特徴と、不思議なほどに符合します。

米国で、どちらかというとパブリックスペースの使いこなしの実践の文脈から生まれてきたTUと、日本において都市計画側、空間側から論理的に攻めていった本書の内容が、期せずしてシンクロしているというのは非常に興味深いところです。

とはいえ、「既にある都市をどう使っていくか」という命題への回答が相通ずるものになっていくのは、ある意味当然のことなのかもしれません。都市生活者がこれから歩むべき方向の1つを、指し示していると言えるのではないでしょうか。

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