アメリカでタクティカル・アーバニズムが議論された日:Tactical Urbanism Salon 2011(その2:PechaKucha編)

アメリカでタクティカル・アーバニズムが議論された日:Tactical Urbanism Salon 2011(その1:プレゼン編)」に引き続き、2011年にニューヨークにて開催された「タクティカル・アーバニズム・サロン」についてお伝えします。

今回は、プレゼンののちに行われた、PechaKucha スタイルでの取り組み報告についてレポートします。

※なお、本記事は、海外記事を筆者が翻訳し、解説を加えています。

作業から「みせる」ベンチ―(プレゼンター:BroLab)

まずは、BroLabによる“Bench Press”プロジェクトについてのプレゼンです。

“Bench Press”は、ロングアイランドシティ・ “Flux Factory” とブルックリン・“Momenta Art” 2つのアーティスト集団のオフィスを始点・終点とし、午前4時から午後9時まで、ニューヨーク都市圏交通公社(Metropolitan Transportation Authority, MTA)の運行するAQ39およびB57のバスルートに沿って実施されたプロジェクトです。このバスルートのほぼすべてのバス停にベンチが設置されていないという状況をうけ、BroLabは、簡単に組み立て・分解ができるベンチを設置しました。

プロジェクトは、ベンチそのものを提供しただけではなく、ベンチの組み立て・解体作業を路上で実際に行うことを通じて、それを見ている人々に対して、彼ら自身がものづくりに参加しているような感覚を与えました。

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ベンチの設置場所であるバス停で、組み立て作業が行われた(出典:http://brolab.org/bench-press/

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設置された際の様子(出典:http://brolab.org/bench-press/

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“Bench Press”のベンチは会場にも登場!(出典:Tactical Urbanism Facebook page

フェルトのポケットで簡単に垂直菜園“Vertical Theory”―プレゼンター:Karen Mackay(Vertical Theory)

Vertical Theoryは、Karen Mackayがジョージア工科大学大学院生だったときに開始されたプロジェクトです。都市という限られたスペースの中で、住民が簡単に家庭菜園を楽しむことができるシステムを提供しています。

持続可能な社会という問題の解決策をローカルレベルで考えたとき、都市型菜園を思いつきました。街とは、「横に広がる」有限な屋外スペースです。ここでどのように食物を育てることができるのか。農地へは莫大な時間とお金がかかります。しかし、垂直菜園は「横に広がる」ことがない、よりDIYな方法なのです。

“Vertical Theory”の提供する垂直菜園キットは、なんとフェルトからできています。水がうまく行き渡るよう、フェルトでできたポケットの中に排水用の管が通っています。

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フェルトの中を通る配水用の管(出典:https://grouphug.cc/portfolio/vertical-theory/

水耕栽培やwooly pockets(フェルト生地のポケットの中で植物を育てる方法)はこれまでも存在していましたが、今まで誰もそのふたつを同時にするということはありませんでした。そこで、フェルトのポケットに水を入れて植物を育てるシステムを試験的に導入しました。

垂直菜園は、空気をきれいにし、新鮮な食べ物を供給すると同時に、小さなスペースを効率的に利用することができます。

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“Vertical Theory”(出典:https://grouphug.cc/portfolio/vertical-theory/)

また、このシステムが芝でも使用可能かを試してみました。こちらはDIYですべてを行うのは難しいですが、私たちに考えるきっかけを与えてくれます。

緑化活動における市民の役割―プレゼンター:Sophie Plitt(TreeKIT)

TreeKITは、緑豊かで持続可能な都市の実現に向けて、都市空間における街路樹の充実を目指す団体です。TreeKITのSophie Plittは、都市緑化の意義と市民の参画の重要性について述べました。

街中の木々にはたくさんの利点があります。しかしながら、それらがいたるところにあるため、私たちはついその価値を忘れがちになってしまいますが、都市を彩るという非常に大切な役割を果たしています。

Plittによると、街路樹充実をはじめとしたニューヨークにおける緑化活動において、市はスチュワードシップ(Stewardship)を重視する、つまり「管理者」である市は、その権限を市民に委託し、市民をその権限の「受託者」としてとらえることで、彼らの果たす役割に期待しています。しかしながら、そのモデルはまだうまく機能していません。

そこでTreeKITは、この管理権限を増やすことを目的とした独自の“Track, See, Collect”マッピングモデルを開発することで、誰もがデータの収集や管理をすることが可能になりました。一般の人々がデータ収集にかかわる、つまり参加型アクションリサーチ(Participatory Action Research, PAR)といえるでしょう。

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鉛筆と紙で、ストリートで見つけた樹木を記録できる“Field Worksheets” 。TreeKITに参加するボランティアスタッフは、樹木の種類を特定する際にスマートフォンアプリ等を利用することもあるが、樹木のマッピングにおいてはこのような原始的なスタイルをとっているとのこと(出典:http://treekit.org/about/our-tool-kit/

バスのルーフ上をグリーンスペースに―プレゼンター:Marco Antonio Castro(Bus Roots)

Bus RootsのMarco Antonio Castroは、バスのルーフ上を緑化するプロジェクト“Bus Roots”についてプレゼンしました。
MTAは全部で4,500台のバスを所有しており、それらすべてのルーフ場を緑化すると35エーカーもの緑地、ブライアント・パーク4つ分もの面積になるそうです。
Castroは、コネチカット州ニューロンドンにおいて、アーティスト・イン・レジデンス(Artist-in-residence program)の一環としてプロトタイプを開発したほか、国を超えてメキシコ・グアダラハラでも小さいバスを利用して試作されました。

 

“Bus Roots”がもたらすメリットとしては、その美しさ以外にも、ヒートアイランド現象の緩和、二酸化炭素の吸収、断熱効果などがあるそうです。

パフォーマンスアートの祭典“Nuit Blanche”―プレゼンター:Anna Muessig(Bring to Light)

2010年10月2日、ブルックリン・グリーンポイントで開催された“Bring to Light: Nuit Blanche New York”は、ニューヨークの夜が初めて光の装飾で彩られたパフォーマンスアートの祭典です。

“Bring to Light: Nuit Blanche New York”では、通常はプライベートスペースであるウォーターフロントにおいて、一時的に「公道」が作られ、太陽が沈むと、数十もの作品が点灯されました。

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2011年10月1日、第2回“Bring to Light: Nuit Blanche New York”が開催された時の様子①(出展:“Bring to Light: Nuit Blanche New York” Facebook page

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2011年10月1日、第2回“Bring to Light: Nuit Blanche New York”が開催された時の様子②(出展:“Bring to Light: Nuit Blanche New York” Facebook page

(“Bring to Light: Nuit Blanche New York”においては)多くの場所の利用許可を得る必要があったので、民間デベロッパーたちと協同する必要がありました。産業空間を活用し、タクティカルな介入の場としたことは、このプロジェクトのユニークな点としてあげることができるでしょう。

もともと、“Nuit Blanche(フランス語で「白夜祭」という意味)”は、2001年にフランス・パリで開催されたのが最初であり、それ以降パリでは毎秋実施されています。日本でも、これまでに京都で7回開催されているなど、世界に広がっているパフォーマンスアートの祭典といえるでしょう。

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2017年10月6日(金)に京都で開催された「ニュイ・ブランシュKYOTO 2017」のポスター(出展:http://www.nuitblanche.jp/

都市の窓で自家栽培“Windowfarms”―プレゼンター:Ted Ullrich(Tomorrow Lab)

「小さなものが大きな変化を生む」―これがTomorrow Labの考え方です。

ハードウェア・イノベーション・スタジオTomorrow LabのTed Ullrichは、まちづくりにおけるインダストリアルデザイナーの役割の重要性をこう話しました。

インダストリアルデザイナーは、都市をかたちづくるものを創造するという大きな役割を果たします。なぜなら、(インダストリアルデザイナーが手がけた)すべての製品は巧みにデザインされ、そのひとつひとつが都市をかたちづくる要素となっているのです。

プレゼンでは、Tomorrow Labが設計、開発、製造過程にかかわったプロジェクト “Windowfarms”について語られました。
Windowfarmsは、ニューヨークのアパートの窓のための「垂直型」都市農業プロジェクトです。

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“Windowfarms”(出典:http://www.tomorrow-lab.com/product2

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“Windowfarms”は、ペットボトルと安価な部品でできており、水耕栽培システムを簡単に自作できる(出典:http://www.tomorrow-lab.com/product2

Tomorrow Labは、“Windowfarms”のDIYキットとその仕様書も提供しており、誰でも簡単に少ないスペースで水耕栽培を楽しめる環境づくりに貢献しています。

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“Windowfarms”のDIYキット(出典:http://www.tomorrow-lab.com/product2

「高層ビルやマンションといった都市の窓というスペースを活用して自家栽培をするシステムを提供する」ことを目的に2009~2011年に実施されたこのプロジェクトですが、“Windowfarms”はEyebeam(テクノロジーやアートのための非営利のスタジオ)やホイットニー美術館にも展示されたほか、ニューヨークとフィンランドでワークショップが開催されました。

新しいシェアサイクルのかたち“Social Bicycles”―プレゼンター:Ryan Rzepecki(Social Bicycle)

Ryan Rzepeckiは、タイムズ・スクエアの閉鎖が議論されていたころ、ニューヨーク市交通局(NYCDOT)に加わりました。Rzepeckiは、自身が考案した新たなシェアサイクルシステム“Social Bicycles”についてプレゼンしました。

“Social Bicycles”のキーワードはこちらです。

Bike Share Everywhere – 通常、シェアサイクル(レンタサイクル、コミュニティサイクル)というと、「決まった場所で借りる」「決まった場所で返す」必要があります。しかし、“Social Bicycles”なら、バイクは街中(大学、住宅地、企業)どこでも借りることができます。
Easy to Find and Reserve – ウェブサイトやモバイル端末から簡単に予約することができます。インターネットにアクセスできない環境にいる場合も、自転車についているキーバッドから直接予約することもできます。
Fast Access – 予約完了後、4ケタのPINコードを入力するだけで解錠することができます。
Park Anywhere – “Social Bicycles”専用の自転車置き場で返却、もしくは“Social Bicycles”のシステムエリア内であればどこの自転車置き場でも返却が可能です。
Socialize Your Ride – 走った距離、削減できたCO2排出量、カロリー消費量、“Social Bicycles”を利用したことでどれだけお金を節約できたかといったデータを共有したり記録したりすることができます。

 

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“Social Bicycles”でサイクリングを楽しむ人々(出典:Social Bicycles Facebook page

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ポーランドにも展開される“Social Bicycles” (出典:Social Bicycles Facebook page

“Social Bicycles”は現在アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリアで運用されています。アジアには未上陸ですが、今後の展開が期待されます。

都市のレジリエンス促進に向けた市民参加―プレゼンター:Chiara Camponeschi(Enabling City)

最後のスピーカーは“Enabling City”創設者・Chiara Camponeschiです。

“Enabling City”は、参加型ガバナンス、コミュニティーベースの社会イノベーション、学際的研究、持続可能な都市の実現に向けた共創のアプローチを促進することで、都市を包括性とレジリエンス(resilience)を兼ね備えた住みやすいものにしていくことを目指しています。

Camponeschiは、都市のレジリエンスは、予算編成から災害対応、インフラ投資、パブリックスペースの活性化など、都市が果たすべきすべての役割に影響を与えると考えています。都市のレジリエンスを構築するためには、その都市の脆弱性をはっきりと特定し、それを強化する必要がありますが、その計画においては、地域社会がレジリエンスの構築プロセスが意味することを理解し、そのプロセスに積極的に参加することが必要だといいます。

“Enabling City”は、人々が参加することができる場を創造するツールキットであるといえるでしょう。私たちはどのようにして都市が結束するためのネットワークをつくることができるでしょうか。都市は、社会実験のためのスペースを拡大する必要があります。

Camponeschiの著書“The Enabling City: Place-Based Creative Problem-Solving and the Power of the Everyday”、“Enabling City: Enhancing Creative Community Resilience”は、ウェブサイトで公開されています。ぜひ読んでみてください!

“The Enabling City: Place-Based Creative Problem-Solving and the Power of the Everyday”

“Enabling City: Enhancing Creative Community Resilience”

いかがでしたか?

次回はいよいよ「タクティカル・アーバニズム・サロン」の締めくくり、パネルディスカッションの模様をお伝えします!

【Tactical Urbanism Salon】
日時: 2011年10月15日(土)
会場: ニューヨーク・ロングアイランドシティ
登壇者: Karen Mackay(Vertical Theory)
Sophie Plitt(TreeKIT)
Marco Antonio Castro(Bus Roots)
Anna Muessig(Bring to Light)
Ted Ullrich(Tomorrow Lab)
Ryan Rzepecki(Social Bicycle)
Chiara Camponeschi(Enabling City)
※BroLabからの登壇者は不明

参考URL:

Bring to Light: Nuit Blanche New York
BroLab Bench Press
Chiara Camponeschi
Collaborative Transition: Enhancing Creative Community Resilience
Gardens Flourish on Top of City Busses
Enabling City
“Nuit Blanche” as meaningful civic spectacle
Social Bicycles
TreeKIT
Tomorrow Lab
Vertical Theory
ニュイ・ブランシュKYOTO

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鈴木 あい

鈴木 あい

University College London (UCL), Department of Security and Crime Science 博士課程在学中。Cardiff University修士課程修了。専門は、犯罪学(criminology)、犯罪科学(crime science)。関心分野は、交番制度をはじめとした日本における安全安心まちづくり。