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まちを面白くする「マーケット」という小さな要素の集合体|ソトノバTABLE#28レポート

パブリックスペース特化型ウェブマガジン「ソトノバ」が定期的に開催しているリアルイベント「ソトノバTABLE」。トークイベントや交流会などをオフラインで行うことで、ソトノバの輪をメディアだけに留まらず、リアルな場にも広げています。

28回目となる今回は、ソトノバでもコラムニストとして活躍している鈴木美央(すずき・みお)さんの著作『マーケットでまちを変える 人が集まる公共空間のつくり方』の出版を記念したトークイベントを開催。

これまでマーケットの企画や運営、研究を行なってきた鈴木さんに「マーケットから学ぶ、パブリックスペースの使いこなし」と題して、現代のマーケットの在り方や未来に向けた課題などを語っていただきました。

また、イベントの後半では、鈴木さんを交えたソトノバメンバーとのクロストークも実施。これからのマーケットについての議論を交わしました。

さっそく、イベントの様子を追っていきましょう。

マーケットの面白さは小さな集合体がもたらす大きな変化にある

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早稲田大学卒業後、イギリスへ渡った鈴木美央さん

早稲田大学理工学部建築学科卒業後、イギリスで意匠設計に5年従事したという鈴木さん。帰国後、慶應義塾大学理工学研究科に勤務の後、同大学博士後期課程に在籍し、博士号を取得しました。

現在では、マーケットの企画や運営、研究に関わっている鈴木さん。マーケットに深い興味を抱いたのはイギリスでの生活がきっかけでした。

鈴木さん:大学の建築学科に在籍していたころ、横浜にある『大さん橋』に魅了され、大学の建築学科を卒業してすぐ、大さん橋を設計した事務所であるイギリスの『Foreign Office Architects』に就職しました。大さん橋の周囲にいる人々って、いつも幸せそうな顔をしているんです。建築には人を幸せにする力があるのだと思っていました。

ひとりの建築家として2006年〜2011年までの5年間、建築に携わったといいます。しかし、渡英中に起きたエコノミック・クライシス(経済危機)により、設計中だったプロジェクトは次々と中止に。そこで痛感したのが、設計だけで挑むことの限界でした。

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スライドを使って、自身の変遷を語る鈴木さん

鈴木さん:当時、わたしは高層ビルの建築プロジェクトに関わっていました。設計者として、どんな設計でその場を活かすかということにはチャレンジできましたが、そもそもこの場所に高層ビルが必要なのか、という疑問に対しては設計者としてチャレンジできずにいました。そんなとき、建築の可能性をもう一度見つめ直したいと、日本への帰国と共に大学での勤務を始めました。

その後、博士課程への進学を決め、研究対象としてイギリスで古くから根付いている“マーケット”という小さな集合体の力に目を向けるようになりました。

イギリス・ロンドンの地には、昔から人々の文化としてマーケットが根付いています。鈴木さんにとって、マーケットが現れることで変わるまちの様子や雰囲気は、大きな建造物がもたらす影響力よりも大きなものだったのです。

鈴木さん:マーケットは、小さな集合体からできています。けれど、それらが持つ可能性はとても大きなものでした。そんな、まちの様子をガラリと変化させるマーケットに強い興味を抱いて、帰国後から詳しく学ぶようになりました。

海外に見る、マーケットの4つの存在意義

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マーケットがあらゆるところで開催されるイギリス・ロンドンについて語ります

鈴木さんは、ロンドンで見たマーケットの種類を以下の4つのように分類します。

1. 住宅街の生活密着型
野菜や生鮮食品などの日用品を中心に販売するマーケット。新鮮でおいしい食材が安価に手に入るため、低所得者層の暮らす地域に多い。

2. オフィス街のランチ提供型
レストランやカフェが混みがちなお昼どきに、オフィス街の路地に現れるマーケット。マーケットの日になると、オフィスワーカーが次から次へと集う。

3. 中産階級の生活充実型
オーガニックマーケットやファーマーズマーケットなどがこれにあたる。輸入食材や雑貨を提供している。上質な生活を提案することから、周辺の不動産価値の向上にもつながっている。

4.専門特化型
毎週日曜日、場所ごとに特化したものを販売するマーケット。フラワーマーケットなど。

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参加者のメモを取る姿や「うんうん」とうなずく様子が印象的です

鈴木さん:日本人は、マーケットを西洋からの輸入による文化と捉えていることが多いですが、実はそうではありません。もともと、日本にも“街路市”と呼ばれるマーケットが浸透していたのです。しかし、戦後に闇市が広がったり、道路交通法の整備などによって、衰退の一途を辿りました。

日本でマーケットの広がりの一つの契機となったのは、2009年に行われた農林水産省の助成事業としてマルシェ・ジャポンプロジェクト。現在も行われる青山ファーマーズマーケットやヒルズマルシェがこの助成を受けて始まった。また、全国事務局として、放送作家の小山薫堂(こやま・くんどう)さんほかによるブランディングの影響で「マーケット=おしゃれなもの」と認識されるようになりました。

しかし、マーケット文化が昔から続くロンドンでは、マーケットの立ち位置は「日常の営み」であるとされています。食料が届くべき人々に届ける営み、つまりは、都市のインフラストラクチャーとして機能しているのがマーケットなのです。

都市戦略にも通ずるマーケットの役割

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日本とロンドンとのマーケットを比較・検証することで見えて来た、貴重な見解を共有します

また、鈴木さんは、マーケットがもたらす効果についても検証しています。ロンドンのマーケット約100カ所での実地調査と約400名へのインタビューによって「生活の質」「経済」「環境」それぞれに対する効果を実証しました。

鈴木さん:まず、『生活の質』の側面では、もっとも大きなポイントとしてコミュニティの形成が挙げられました。ロンドンでは、マーケットの出店者は平均して19年間も同じ場所で出店しています。そのため、マーケット来場理由にも『馴染みの出店者に会いに来た』という理由が列挙されるんです。

そのほかにも、子どもから高齢者までさまざまな人々を受け入れる文化形成や、マーケットのあるまちとしての不動産価値向上なども実証されました。

また、「経済」面として挙げられた大きな効果は、周辺施設を含めた地域経済の活性化です。マーケットの開催日になると、ロンドンのまちでは周辺店舗の売り上げも軒並み向上します。マーケットの売り上げのみで生計を立てている人も多いため、雇用の促進にもつながっているとのこと。

こうした観点からみると、マーケットの存在は「都市戦略」のひとつであると考えることもできます。まち自体の価値向上と共に、経済的な成長を促すことで、新陳代謝の良い都市づくりに貢献しているのです。

マーケットで生まれる「まちの担い手」

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実際にマーケットを運営してみると、新たな気づきがあるのだそう

自身が住む埼玉県志木市では実際に「Yanasegawa Market(柳瀬川マーケット)」の企画・運営を務めているという鈴木さん。広々とした公園でのマーケットでは、大きくふたつのことを意識してマーケットを運営しています。

鈴木さん:公園を活かした空間づくりと、志木を少しでも好きになってもらえるような出店を強く意識しました。公園の中央部分に位置する広場をを活かせるように、マーケット自体は端に配置する設計としました。また、まちを好きに、暮らす喜びを感じてもらえるようにと、おいしい野菜やパン、DJやワークショップなど、多様な出店者を集めました。

鈴木さんのこうした設計は実を結び、公園を訪れる市民の数は上昇。まちの魅力の再認識にもつながったといいます。

鈴木さん:マーケットを運営してみて感じたのは、マーケットにはまちの魅力をビジュアル化して、まちの担い手を作る効果があるのだということ。まちの魅力の再認識によって、まちそのものが『自分ごと化』するんです。そうして、だんだんとまちの担い手になる人材までもが生まれるようになりました。

【クロストーク】マーケットに残された課題と改善方法を考える

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トークセッションでは、登壇者や参加者との意見交換を通して知見を深めます

後半のクロストークでは、東京大学助教でソトノバ編集長の泉山塁威さんと横浜国立大学助教でソトノバ ストリート・ラボ所属の三浦詩乃さんを交えて、日本のマーケットに見られる課題や解決策について議論を交わしました。

マーケットでまちを変えるためにできること自体はあるけれど、細かな制度や政策、場所の活用などはひとりではできないことばかりなんです

と、鈴木さん。

現在のマーケットには、以下のような改善案があるといいます。

・道路からの視認性改善
・マーケット空間としての寺社の活用
・商店街との一体型活用による地域経済の活性化
・状況に則した柔軟な幅員の活用
・道路、公開空地利用法の施策の充実

たとえば、配置によっては外部からは開催しているかどうかわかりにくいケースが多いのが、日本のマーケットの現状。せっかく開催しているのにも関わらず、足を踏み入れにくいと感じさせてしまうのは大きな機会損失です。

また、道路幅の制限によって出店が制限されるといった、法令や制度の側面から解決しにくい課題も。

社会的に難しい場面は多いですよね。マーケットをつくる私たちと行政とでしっかりと連携していく必要があると思います

と三浦さん。

鈴木さんは、

一つひとつの課題と丁寧に向き合い、声を上げ続けることで、いつか改善につながっていく道筋が描けるだろう

と語ってくれました。

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ドリンクを手にしてみんなで乾杯!

終始たくさんの学びや笑顔にあふれた本イベント。海外からの影響を受けてどんどんと広まりつつある日本のマーケット文化ですが、スタートアップ効果や宣伝効果など、未来に向けた展望が明るいことがわかります。

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色鮮やかなケータリング。まちを意識した華やかな料理の数々に参加者からも喜びの声が

また、それと同時に、法や制度との共存をはじめとして、多くの課題と隣り合わせであることもわかりました。こういった機会に、自身の住むまちやマーケットについて思考を巡らせてみるのも良いかもしれません。

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マーケットについて和気あいあいと語ります

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鈴木さんの著作『マーケットでまちを変える 人が集まる公共空間のつくり方』も販売中

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参加者同士も真剣に話し合う姿が見られました

【8/6】マーケットから学ぶ、パブリックスペースの使いこなし|出版記念トーク・ソトノバTABLE#28

取材・文:鈴木しの
撮影:矢野拓実

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