ソトでの「好き」が、まちをつくる。谷根千・不忍ブックストリートの「一箱古本市」

もしも、本屋さんが、ソトにあって、ふいに出会ってしまったら。

最後に本屋さんに行ったのはいつでしょうか?

筆者は「本屋さん」が大好きです。というより、だれかの本棚を見るのが好きです。本棚に並んだタイトルをゆっくり追いかけながら、その人の思い出をたどってゆく。まるでひとつの小宇宙のような空間です。

それぞれに思い出が詰まった「本屋さん」が、まちじゅうのソトにあったら、まちはもっと楽しくなる。そんな夢をひとつ、叶えてしまっているのが、谷根千の「不忍ブックストリート」による、「一箱古本市」です。

「一箱古本市」とは

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黄色い布看板が目印。photo by Ayano Kumazawa

谷根千エリアで開催される「一箱古本市」。
「大家さん」から借りうけた店の軒先や空きスペースで、「店主さん」たちがまちのあちこちで、「ひとはこ」つめこんできた本を売るイベントです。

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photo by Moe Itaya

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筆者は自転車でもまわってみました。photo by Moe Itaya

とにかく楽しい!

ひとはこのなかには、店主さんの思い入れがつまった本がぎっしり。かなりマニアックな箱もあれば、絵本ばかりの箱、SF系、ミステリー専門など、個性あふれるものばかりです。思わず、ひとはこ、ひとはこ、じっくりと見入ってしまいます。

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夢中になって友人たちに置いていかれる筆者…。 photo by Moe Itaya

気になる本について、店主さんに声をかけてみれば、

「この本、どうでした?」
「ああ、これは、学生時代に読んだ本で…」

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photo by Moe Itaya

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photo by Moe Itaya

偶然出会った本にとーん、ときた時の、静かな高揚感。なんだか懐かしいな、と思ったら、まちで宝探しをしていた頃の、あのきらきらした気持ちでした。

ソトにあることで広がる楽しさ

ソトでやっているからこそ、「本を買おう!」というお客さん以外にも、いろんな人と出会えることが、この古本市の面白さです。実際に、ここでの出会いをきっかけに、新しいことにどんどんつながっていったこともあるそう。「一箱古本市」じたいも、全国各地へと広がっています。

ディープな人や偶然そこを通りかかっただけの人、いろんな人と、好きなように関われることがソトにある魅力です。

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photo by Moe Itaya

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photo by Moe Itaya

好きなことは、勇気をもって一歩踏み出せば、できる

企画・運営は地元仲間で構成された実行委員会。
発起人であるライターの南陀楼綾繁さんはもともと谷根千に住んでいました。その頃から、谷根千にはまち案内の地図がありましたが、そのなかに、本屋さんをはじめ、面白いのに見逃されているちいさなお店などの情報が入っていないことに気づきます。

いつしか、「まちにある本屋さんをはじめとする、気づかれにくいお店や個性的なお店などを載せた地図をつくろう。ゆくゆくは、屋外で本屋さんをやってみたい」という夢を抱くように。

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経緯について詳しくは、ぜひこの『一箱古本市の歩きかた』を読んでみてください。photo by Ayano Kumazawa

この想いを、まちの本屋さんや活動家の友人たちに打ち明けたところ、「面白そう!やってみたい!」と支持を得たことがはじまりです。

実行委員会を結成してからは、どうやって場所を確保するのか、どのくらいの規模でやるのか、どうやったら人が来るだろうか、など、何度も話し合いと交渉を重ねてゆくことで、イメージが固まっていったそう。

「ロンドンやソウルの広場で本屋さんをやっているのが好きで、屋外に本屋さんがある風景っておもしろいな、と思っていました。そういう風景は東京ではあまりみかけないな、と。戦前に神保町で古本の露店が出ていたという話は聞いたことがありました。そんな風景が好きで、僕が住んでいるまちでもできないか考えてみて、最初はお寺さん1か所でやったらどうか、と思いつきました。」

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発起人の南陀楼綾繁さん。photo by Ayano Kumazawa

「それがまちのあちこちで少しずつ場所を借りてやろう、ということになって、”ひとはこ”という大きさが決まりました。まちのいろんなところに散らばっているのは、それはそれで面白いことになりましたし、それを10年以上続けてきて、昨年秋にお寺さんの敷地内で”本の縁日”をやったときには、一か所でやる面白さも感じました。」

「本屋さんごっこ」くらいの感覚で。

お店を出している人のほとんどが、ふだん本業で本屋さんをやっていなくとも、本が大好きなひとたちです。それぞれの「ひとはこ」には、店主さんがつけた「店名」があります。

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photo by Moe Itaya

「本屋さんごっこ」くらいの感覚で、純粋に好きなことを楽しんでやっているからか、お客さんも店主さんたちも、みんな自然な笑顔がこぼれていたのが印象的でした。

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photo by Moe Itaya

なかには一緒にレコードを売っている店主さんや、オリジナルのシールをつくっちゃた店主さんも。かわいい…!(筆者はシールオタクなので、おまけシールに大歓喜。)

「好き」がまちをつくっていく

まちのあちこちに散らばった「大家さん」たちをめぐっていくうちに、このまちは、まちのひとびとのたくさんの「好き」でできていることに気付きます。

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植物のお世話をしているおじいちゃん。photo by Moe Itaya

谷中・根津・千駄木をまたがるこの地域に「谷根千」というなまえをつけ、地域雑誌を創刊している「谷根千工房」や、歴史的建造物を保存し地域の魅力として発信している「たいとう歴史都市研究会」など、住民たちが主体となった活動がたくさんあることもこのまちの魅力です。訪れるたびに、いつも新しい発見や体験に出会えます。

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家のまえでフリーマーケットをしているおばあちゃん。photo by Moe Itaya

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この日は根津神社で「つつじまつり」もやっていました。photo by Wataru Nakanishi

「日常の中に非日常がある」

谷根千は古くからの木造住宅密集エリアでもあり、住んでいるひともたくさんいます。
このまちの魅力の発端は、町に住むひとびとの生活や手仕事など、そもそもは日常的なものだったようです。

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商店街のベンチに座る住民の方々 photo by Moe Itaya

道路にものがあふれだしている風景も珍しくありません。基本的には道路占用などの申請は一切しておらず、あくまで私有地をつかっているという体の延長だそう。とおりかかった警官に注意されることもなく、このような風景はまちのあちこちでみられます。

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photo by Moe Itaya

人に迷惑をかけない、という気遣いは、本来だれもがわきまえているべきこと。
そんな当たり前なことが守られているからこそ、残っている風景です。

まちづくりをしよう、という意識はない

一箱古本市も、このようなまちのなかにあふれる「好き」のひとつです。結果的に、まちをつくっているようにもみえますが、南陀楼さん自身、まちづくりをしている意識はないそう。

「本が好き、屋外で本屋をやりたい、という想いがあったから実現できたんだと思います。まちづくりの意識はありませんでした。面白そう、というのもありましたが、それと同じく、既存の地図に本屋の情報が抜けていることへの疑問もあり、必要とされている予感もありました。」(南陀楼綾繁さん談)

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「不忍ブックストリート」のマップ。photo by Ayano Kumazawa

自分のまちを、より楽しく、より豊かにできるのは、あなた自身!
谷根千で「一箱古本市」を追っていくうちに、自分も自分のまちをつくる一員になりうるのだと気付かされました。人にはきっと、まちをつくるちからがあります。

思い返せば、わたしが住むまちでも、好きなことを実現できる環境は十分あるのかもしれない。まずはそんな視点をもつことが、都市での暮らしを豊かにしていくことに繋がるのではないでしょうか。

イベント情報
イベント名: 不忍ブックストリート「一箱古本市」
日 時: 4/30(日)11:00-16:30
場 所: 東京都台東区・文京区 谷中・根津・千駄木(谷根千)地域
企画・運営: 不忍ブックストリート「一箱古本市」実行委員会、助っ人さんたち
HP: http://sbs.yanesen.org/
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熊澤 綾乃

熊澤 綾乃

早稲田大学大学院建築学専攻中。女子学院高等学校卒。卒業論文では東京都23区内を対象に、都市計画道路事業のために一時的に生じている未利用地が市民によって活用される効果と有効性について研究。学生ならではのフットワークの軽さを活かし、多方面にアンテナを張りながら日々勉強中です。