市役所の壁にグラフィティ! ストリートアートと行政の在り方について考えてみる

ストリートにカルチャーは必要不可欠。しかし、行政は微妙な立場を取ることがしばしば。そんな中、埼玉県志木市では、なんと市がコミッションしたグラフィティが市役所内の壁にあるのだ。それも抜群にかっこいい作品が!というわけで、志木市の担当課である産業観光課へ取材に行ってきました。

グラフィティはアート?落書き行為?美術館、行政の意見は?

建物の壁面や塀、高架、電車にだって絵や文字を描くグラフィティ。ニューヨーク、ロンドンなど海外の都市ではまちのアイデンティティとして、一つの文化となっています。私もグラフィティが多く存在する、ロンドン東部に住んでいたころ、グラフィティはまち歩きの一つの楽しみでした。初めて行く土地には初めて見るグラフィティがあったり、いつもの場所に急に新しいグラフィティが現れたり、日常に溶け込んだアートを楽しんでいました。

また、観光資源として、グラフィティのツアーが組まれることもあり、世界最多の入場者数を誇るTATE MODERNも、外壁にグラフィティを施すプロジェクトを行うなど、美術館やギャラリーでは芸術作品として展示を行うこともあります。

しかし、そうした都市でもグラフィティが「アート」なのか「落書き行為」なのかといった質問に明確な答えは出ていません。グラフィティの質の多様性、メッセージの多様性により、グラフィティが都市に与える影響を普遍的に位置づけることは困難です。

特に行政は微妙な立場をとっており、イーストロンドンの行政区の一つHackney councilのホームページには、

グラフィティをストリートアートとして、都市環境にポジティブな貢献をしていると考える人がいることも認識している。守りたい作品がある場合はカウンシルに連絡するように。

という掲載も。逆に言うと、申請しないと消すかもしれないということ。保持するためには行政が出す条件に合致していなければいけないのです。

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ロンドンで遭遇したガイド付きのグラフィティツアー。ドイツ語で行われていた。


Graffiti photo by GA 2

ロンドンのグラフィティ:まちの風景になっている

市がグラフィティをコミッション!

ところで、日本の自治体で面白い取り組みを発見しました。埼玉県志木市では、なんと市がコミッションしたグラフィティが市役所内の壁にあるのです。設置の経緯や反応、今後の展望について、このプロジェクトを仕切っている志木市の産業観光課へ取材に行ってきました!

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「I♡SHIKI」地下駐車場の壁面で出迎えてくれる作品

市役所の壁にグラフィティを描くことになった経緯

そもそもなぜ市役所の壁にグラフィティを描くことになったのでしょうか?まずはその経緯について伺いました。

志木市ってなにもないところ。これから賑わいづくりをするなかで、食やキャラクターには限界がある。SNSなどでみんなが興味を持つものとして、アートがあり、そして志木を世界に発信していこう。その中でも、これから日本でもストリートアートって分野が大きく出るのでは、ということでプロジェクトが始まりました。

こう話すのは、志木市の産業観光課長。今回このグラフィティを描いたのは、イギリス大使館を経由し、ロンドンを拠点に活動するアーティストRYCAさん。来日する際に描いてもらえることになったそうだ。ここで面白いのはアートの中でもグラフィティに目を付けたこと。そして、ロンドンのアーティストに描いてもらうことにしたことだ。こういった時、市内のアーティストに声をかけることがあるが、志木市が目指していたのは世界だったからなのかもしれません。

ひとつの「作品」として市がおこなったこと

当日、RYCAさんは東武東上線に乗ってやって来たというのだからストリートアーティストらしい。場所選びもRYCAさんと一緒に行ったそうで、外だと意外と木で見える場所がなく、地下でぱっと開けた場所を選んだのだとか。

作品は二つ。一つはRYCAさんが多く手掛けている、スターウォーズのキャラクター、R2D2が「I♡SHIKI」とペイントしている作品で、もう一つハートとスマイルマークが並んだ「LOVE&PEACE」の願いが込められたもの。RYCAさんが志木市の想いを汲んで考えてくれたのだという。

また、落書きだとか思われないように、キャプションボードを付けることに。埼玉県美術館の学芸員さんに大きさ、高さ、位置を学びに行き、参考にしたそうで、ステンレスボードに刻印されたキャプションボードは作品に敬意を払った丁寧さが感じられます。これがラミネートした紙であれば作品は台無しです。このことについて、産業観光課長は、秘書課在籍の頃、秘書室の作品にプレートを付けた時に作者の方が喜んでいてくれた経験から、キャプションボードの重要さを感じていたからだといいます。

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「LOVE&PEACE」は螺旋階段を降りた先に設置されている

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作品への敬意を感じるキャプションボード

市設置後の反応は?

さて、グラフィティ設置後の市民の反応が気になるところ。これについて質問したところ、見に来たいという問い合わせも何件かあり、駐車場でイベントをやると家族が写真を撮ってくれたりもしたといいます。

また、埼玉マニアのフリーライターの著書「埼玉のアナ―東上沿線和光 川越編 」(石橋啓一郎)という本にも掲載されたのだとか。早速その本をみたところ、「なんでこんなんあるの?」という帯が印象的。まさにそんな面白く、不思議な物が掲載されている本でした。

今後の展開は?

さて、全国でも例のない市のコミッションによるグラフィティ。志木市では、今後どのような展開を考えているのでしょうか?

実は、当初は駐車場をグラフィティでいっぱいにしようと考え、別のアーティストにも描いてもらう予定でした。しかし、下書きまでしたものの、病にかかり帰国してしまったのだとか。その後、庁舎の建て替えが決まり、駐車場での展開は止まっていますが、次の展開は繋がっているようです。

志木駅の東口をストリートアートの拠点に、ストリートアートの聖地にしたいとの思いがあるとのことで、RYCAさんの「LOVE&PEACE」をきっかけに、日本らしい、志木らしい、ストリートアートを展開できないかと動き始めているとのことでした。志木駅前から市役所までの2kmをストリートアートで埋め尽くしたいと語る志木市。行政とストリートアートの関係性について、今後も志木市の取り組みに注目していきたいと思います。

Alphabet graffiti photo by Guillermo Alvarez
All other photos by Mio Suzuki

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鈴木 美央

鈴木 美央

Yanasegawa ink代表。博士(工学)。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、渡英、横浜大さん橋を設計した設計事務所Foreign Office Architects ltd 勤務。大学、駅、高層ビルなど世界各国のプロジェクトを担当。帰国後、大学での勤務、博士課程の研究において、小さな建築の集積でどのようにまちを変化できるかを研究。現在は、建築意匠設計、行政のアドバイザー、マーケットの研究・企画・運営など多岐に渡り、建築、まちに携わる活動を行っている。