水辺で2万灯を実現できた理由とは?スタッフが振り返る3年間の歩み~「サイガワあかりテラス」レポート(前編)~

金沢市中心部を流れる「犀川」(サイガワ)。金沢で生まれ育った文豪・室生犀星が自身の名にあてた「犀」の一文字は、犀川の美しい風情を愛したことに由来します。犀星にとって、犀川はまさに故郷そのものであり、犀川の存在が金沢というまちへのシビックプライド(個人が自分の住む街や地域に対して抱く愛着や誇り)にもつながっていたに違いないでしょう。

一時期、川面には座敷船が浮かぶなど、北陸随一の繁華街である片町の一角として夜も賑わった界隈。

しかし、時代の移ろいとともに見放され、今では夜真っ暗でゆっくり散歩やデートもできない川に。そんな状況を憂い、アクションを起こしたのは地元商店街や町会からなる「金沢片町まちづくり会議」のメンバーたちでした。金沢人にとって当たり前の存在である犀川に光を当てることで、シビックプライドと地域の価値を高め、まちなか全体を明るく元気にしていこうというコンセプトのもとに始まった「サイガワあかりテラス」。今年で3年目を迎え、大きな飛躍を遂げたこの取り組みを、事務局スタッフの目線からレポートします。

きっかけは基本構想と活用プラン

そもそも、なぜ犀川が利活用の舞台となっているのでしょうか。

その第一のきっかけは、金沢市が2013年3月に策定した「片町地区再生基本構想」にあります。昭和30~40年代に建設された老朽ビル群の再開発・再整備と、片町界隈の環境整備を一体的に位置付けたこの構想で、「憩いの場として犀川河川敷を活用」、「ライトアップによる演出」などの方向性を打ち出しました。犀川大橋を核とする犀川沿いの水辺空間を活用することにより、まちの魅力を高め、人の流れをまち全体に呼び込んでいくことを狙いとするものです。

また、2015年3月の北陸新幹線金沢開業を見据え、金沢駅界隈に降り立つ多くの来街者を片町界隈へと引き込んでいこうとする意欲も反映した構想なのです。

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片町地区再生基本構想の基本方針図

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犀川利活用の目的イメージ(筆者作成)

 

そして、第二のきっかけは、「犀川活用プラン」の策定です。

上述の片町地区再生基本構想を受けて、2013年5月に地元組織である「金沢片町まちづくり会議」(7つの商店街、8つの町会、石川県社交料飲生活衛生同業組合、金沢まちづくり学生会議、金沢市、コンサルタントなどで構成、以下まちづくり会議)が発足。基本構想の具体化を図るため、同会議メンバーの意見をワークショップ形式で収集しながら、2014年3月に「犀川活用プラン」を策定しました。

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犀川活用プランのワークショップの様子 Photo by Masahiro Katagishi

 

この犀川活用プランには、ハード・ソフト両面の多岐にわたるアイデアが盛り込まれました。中でも共通・特徴的なキーワードとして、「ライトアップ」、「オープンカフェ」、「デッキ・テラス(川床)」が挙がり、昼の顔だけでなく、北陸随一の繁華街である片町界隈の場所性も踏まえて、夜の顔となるような活用方針が示されることとなったのです。

また、犀川活用のコンセプトとして、「片町カルチャー(片町・にし茶屋街・寺町などのつながりや伝統ある文化)を活かしたまちづくり」や、「みんなで汗をかき、記憶を残していくことが大切」といったシビックプライドの形成に関する鋭い指摘もありました。こうした思いが詰まった「犀川活用プラン」の策定が、本稿のメインとなる「サイガワあかりテラス」へとつながっていくこととなります。

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犀川活用プランに盛り込まれた多岐にわたるアイデア

 

行動あるのみ! 最初は1000灯からのスタート

「プランをプランのまま終わらせることなく、小さくても何か行動に移していこう」

熱いハートと抜群の行動力をもつ地元メンバーのパワーにより、「とりあえず何かやってみよう!」ということで具体化したものが「サイガワあかりテラス」です。読んで字のごとく、サイガワ(犀川)をあかりで照らすことにより、まち全体の輝きを増していこうとするこのイベント。第1回は2014年11月に開催しました。

今から思い起こしても、本当に良い人々に恵まれたことで実現したイベントだと実感します。地元の熱意やコンセプトは素晴らしいものの、イベントをしようにもほとんど予算がなく、手持ちの灯りもない。しかし、ライトアップやイルミネーションをしたいという欲望は高まるばかり。とにかく無償で灯りを借りられるところがないか探し回った結果、石川県羽咋(はくい)市が最初に手を差し伸べてくれました。同市が保有する、太陽光パネルと充電池によりLED照明を自動点灯する装置、通称「ペットボタル」1000個や、LEDチューブライトを無償で借りられることになったのです。

あわせて、まちづくり会議メンバーの商店街や協力企業、金沢工業大学等が保有する灯りをかき集め、ライブステージを演出。社交料飲組合のバックアップによる飲食ブースも加わって、初のイベントが実現しました。小さな一歩でしたが、普段は真っ暗な犀川が明るく彩られた反響は思いのほか大きく、多くの人々が犀川河川敷で楽しいひと時を過ごしている姿に、地元メンバー共々大きな手ごたえを感じたものです。

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第一歩となった「サイガワあかりテラス2014」 Photo by Masahiro Katagishi

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犀川河川敷で楽しいひと時を過ごす人々 Photo by Masahiro Katagishi

 

第1回が好評だったこともあり、2015年9月に第2回を開催することになりました。

前回の反省を活かし、ライブステージや飲食ブース、来場者がゆっくり過ごせるテーブルや椅子を充実。イルミネーションの範囲も少し拡大しました。天気にも恵まれ、ホップ・ステップ・ジャンプの「ステップ」の段階をクリアすることができました。

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「ステップ」の段階となった「サイガワあかりテラス2015」 Photo by Masahiro Katagishi

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上質なジャズと灯りのリフレクション Photo by Masahiro Katagishi

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子どもたちもたくさん来場 Photo by Masahiro Katagishi

 

3年目の大ジャンプ! 河川敷を2万個の灯りで埋め尽くす!?

2年連続で「サイガワあかりテラス」を開催し、イベントの認知度も高まりつつある中、大きな変化がありました。企画運営チームのリーダーであり、ジャズドラマーであり、バー「PikaPika」の店長であり、犀川沿いの不動産オーナーでもある大桑宇一郎さんの働きかけにより、「金沢ジャズストリート」とのタイアップが決定したのです。

「金沢ジャズストリート」は、まちなかの賑わい創出や国内外からの交流人口の拡大などを目的に開催する大規模な音楽イベントであり、2016年で8回目を迎えます。このタイアップにより「まちなかジャズライブ」のステージを河川敷に設けることとなったため、それまでの会場から犀川大橋上流部の広々とした河川敷に場所を移して、「サイガワあかりテラス2016」を同時開催することとなりました。

そこで問題となったのが、広くなった会場をどうライトアップするか、ということ。手持ちの灯りはほとんどなし。羽咋市から借りていたペットボタル1000個では、とうてい装飾しきれないほどの広さです。芝生の緑が眩しい河川敷を前に、途方に暮れること数日。

「そうだ、輪島市が2万個持ってるから借りられないかな?」

石川県輪島市では毎年、千枚田を2万個のペットボタルで彩る「あぜのきらめき」を実施しています。それらを借りることができないか。まったくの思い付きでしたが、まちづくり会議の一員である金沢市担当者より輪島市観光課へ依頼してもらったところ、意外にもあっさりとOKが出たのです。

「やった!これでイルミネーションは完璧!」と思ったのも束の間。2万個という膨大な数のペットボタルをどうやって金沢まで運ぶのか?、保管場所は?、電池の挿入や組み立ては?、河川敷への設置方法は?、後片付けは?、洪水で流されたらどうする?、そもそもそんなに河川占用して大丈夫?──課題や不安が山積みでした。それでもいざ2万個のペットボタルを目の当たりにした瞬間、思い付きで言ってしまったことをこっそり後悔しながらも、この数の灯りが犀川河川敷を彩る様子を想像してワクワクしてしまいました。

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輪島市より2万個のペットボタルが到着 Photo by Masahiro Katagishi

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みんなでペットボタルを組み立てまくる作業 Photo by Masahiro Katagishi

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奮闘するメンバー、2万個のボリューム恐るべし! Photo by Masahiro Katagishi

 

延べ30人超が協力して、何とか1日半がかりでペットボタルの組み立て作業を完了。

次は河川敷への設置です。この作業には、会議メンバーの口コミやフェイスブックページでの広報などにより、約70人が参加、ペットボタルを田植えのように差しまくりわずか半日で設置完了しました。

「午後から手伝おうと思ってたのに…」と残念がる人が続出するほど。何となく、少しずつながらも、この活動が人々の心に浸透していっているように感じられて嬉しく思いました。

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みんなでペットボタルを差しまくる作業 Photo by Masahiro Katagishi

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みんなのチカラによりわずか半日で設置完了! Photo by Masahiro Katagishi

 

設置が無事完了した夕方、日の入りとともに2万個の灯りが一つ、また一つと点灯しはじめ、いつしか河川敷全体を柔らかな灯りが包み込む。このときの感動は一生忘れることはないでしょう。

河川敷には、近所の方々、夫婦やカップル、子ども連れの家族、ウォーカーやランナー、サイクリストなど多様な人々が集まり、突如現れた美しい風景にスマホやカメラを向け、談笑し、喜びを語り合う。

3年目にして、「サイガワあかりテラス」の目指すもの──地域の人々が参加することにより、地域への愛着を育む──が一つ実現したように感じました。

この夜景が、一人でも多くの人々の良き思い出となれば幸いでです。

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ペットボタルの柔らかな灯りに彩られた犀川河川敷 Photo by Masahiro Katagishi

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30分ごとに色が変わる仕組み Photo by Masahiro Katagishi

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灯りに誘われるように、多くの人が河川敷へ Photo by Masahiro Katagishi

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河川敷にジャズステージが登場 Photo by Masahiro Katagishi

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立体的な河川断面がちょうどよい憩いの場に Photo by Masahiro Katagishi

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リバーテラス(飲食ブース)も大盛況 Photo by Masahiro Katagishi

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カップルや子ども連れの姿がたくさん Photo by Masahiro Katagishi

 

【イベント概要】

サイガワあかりテラス2016

期 間: 2016年9月3日 [土] 〜 9月25日 [日]、コア期間:9月16日 [金] 〜 18日 [日]
会 場: 犀川河川敷(犀川大橋~桜橋間)
出 展: 河川敷イルミネーション、犀川大橋ライトアップ、ジャズライブ、飲食ブース
プログラム: 金沢ジャズストリートとの共催(入場無料)
主 催: 金沢片町まちづくり会議
協 賛: サンケン電気株式会社、サンケンップトプロダクツ株式会社、

米沢電気工事株式会社、アサヒビール株式会社、

株式会社日本海コンサルタント、千枚田景勝保存実行委員会、

金沢まちづくり学生会議、株式会社アピックスタジオ、株式会社宮本住建、

石川テレビ放送株式会社、株式会社テレビ金沢、

北陸朝日放送株式会社、北陸放送株式会社

後 援: 国土交通省金沢河川国道事務所、石川県、金沢市
ウェブサイト: WEB

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片岸 将広

片岸 将広

(株)日本海コンサルタント社会事業本部計画研究室/金沢市公共レンタサイクル「まちのり」企画・運営担当/金沢片町まちづくり会議事務局スタッフ/大阪府大阪市出身(第二故郷:島根県松江市)/東住吉工業高校ではバスケに明け暮れ、松江高専で土木を学び、金沢大学に編入学。学生時代に都市計画を学び、現在は建設コンサルタントとして都市・地域計画や自転車交通計画等を担当。「まちのり」の企画・事業化に携わるほか、「サイガワあかりテラス」の企画・開催も支援。プランナー&プレイヤーとしてまちに関わることに生きがいを感じるタイプ。