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パーク|公園

シドニー市民が愛する公園ビーチ!地形をデザインしたプリンス・アルフレッド・パーク

公園とひと口に言っても、日本とオーストラリアではその目的や成り立ちが大きく異なりますが、私が生活したオーストラリアには個性的で楽しい公園がたくさんありました。

それはステキなオリジナル遊具のあるプレイグラウンド(子どもの遊び場)だったり、ボタニー湾に突き出た地形とコンクリートの素材感を生かした、かっこいい公園だったりします。

そんな公園のひとつがシドニーの「下町」にある気取らない公園、プリンス・アルフレッド・パーク(Prince Alfred Park)です。この公園の特徴は地面の起伏をダイナミックに操作して生まれた、どこからが建物で、どこからがランドスケープか分からない、シームレスな空間づくりです。

私はオーストラリアのシドニーとメルボルンに14年間滞在し、現地設計事務所に勤務したランドスケープ・アーキテクトです。ここでは私が現地で出会ったステキな公園を、そんなプロジェクトが生まれる社会的背景にも触れながらご紹介します。

(ソトノバ・スタジオ|ソトノバ・ライタークラス1期生の卒業課題記事です。)


プリンス・アルフレッド・パークとは

プリンス・アルフレッド・パーク(Prince Alfred Park)は、シドニー市の公園で、公園内の屋外温水プールが古くなったこともあってリノベーションが行われ、2012年にリニューアルオープンしました。

公園は、シドニーCBD(中心市街地)南端のセントラル駅すぐ脇に位置し、近くにはシドニー大学(The University of Sydney)や「レッドファーン」(Redfern)という名の住宅街が広がっています。

そして、近隣の既存サービス施設(上下水道等)に負荷をかけないために、ランドスケープで断熱し、集水し、潅水するといった、外から見えない循環型のシステムを持つ公園でもあります。

こうした環境への対応は、渇いた都市の中で今後ますます必要とされる要素になっていくでしょう。

シドニーの地元住民はこのステキな空間を生み出してくれた人々に感謝しながら、親しみをこめて、この公園を「レッドファーン・ビーチ」と呼んでいます。これは公園のある街の名称をとったもので、レッドファーンにあるビーチというわけです。

カラフルな黄色のパラソルと彩色された排気塔はアートオブジェのよう

まず、公園に入って目を引くのは、敷地の東側境界にある優雅でダイナミックな地面の盛り上がりです。これは、幅6m、長さ120mのプール更衣室の建物が、ゆったりと広がるマウンドの下に配置され風景の一部となったものです。この草で覆われたマウンドからは何本かの排気塔が突き出ていて、色彩アーティストのLymesmithがそれらに美しい配色を施しています。

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色彩アーティストによる排気塔の彩色。(写真:並河みき)

一方、プール周辺にはアートオブジェのような楽しい黄色のパラソルがレイアウトされています。

そして、公園の芝生フィールド側からプールサイドを少し隠すようにデザインされているのは、幾何学的なかたちの芝生マウンドです。

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幾何学的な形態のグラスマウンドがプールへの視線をコントロールしている。(写真:Neeson Murcutt Architects)

スポーツコート近くに配置されたブランコは、このプロジェクトのためにデザインされたもので、鉄パイプ製ですがパイプの直径が細めである点と、その淡い色合い(ブルーのグラデーション2色)が目を引きます。そして、それらはまるで意思を持っているかのように思い思いの方角を向いていており、ユーモラスな雰囲気を醸し出しています。

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ブランコもこのプロジェクト用にデザインされ、その配置が楽しい。(写真:並河みき)

このブランコとともに印象的なのは、街路灯です。これもブランコと同じく、このプロジェクトのためにデザインされたのですが、まるで長い首を持つ鳥が餌を探しているときのような角度に折れ曲がったデザインが楽しい、屋外ファニチャーです。

色彩については、プール更衣室の建物を含め、遊具、街路灯などに一貫して薄いブルーのグラデーションが使われていて、公園全体のデザインに統一感を与えています。

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このプロジェクトのためにデザインされたユーモラスな街路灯。(写真:Paul Patterson, City of Sydney)

ランドスケープ・アーキテクトという職能と、住民や行政の努力で生まれた美しい公園

このように美しいマウンドのかたちを生み出したり、ここにしかないブランコや街路灯のデザインをすることで公園を魅力的なものにしているのは、ランドスケープ・アーキテクトです。

「ランドスケープ・アーキテクト」というのは少し聞きなれない言葉かもしれませんが、この職能は、ここでご紹介する公園のような屋外空間の設計をする人たちのことを指しています。そして、オーストラリアでは公園をデザインするときに、必ずランドスケープ・アーキテクトが加わる仕組みになっています。

ランドスケープ・アーキテクトは公園全体のマスタープランを用意したり、公園内におかれるそれぞれのエリアの具体的な設計、植栽の選定と配置、排水計画、舗装計画、ベンチやテーブルを含むファニチャーのデザインなどを担当します。

スー・バーンズリーランドスケープ事務所のプロジェクト

このプロジェクトを担当したのはスー・バーンズリーランドスケープ事務所(Sue Barnsley Design)で、スーという女性が率いる2,3人のスタッフから成る小さな事務所です。

この事務所のプロジェクトはカスタムデザインの遊具やファニチャーが楽しいジュビリー・プレイグラウンド(Jubilee Playground)やシドニー・オリンピックパークのカエル生息地にデザインされたブリックピット・リングウォーク(Brickpit Ring Walk)など、ユーモラスで大らかで、またその土地の文化、歴史、環境に大いなる敬意を払う素晴らしいものです。

公園や都市が美しいのは、住民と行政の努力によるもの

一方で、こうした公園が生まれるために、地元住民や行政の果たしてきた社会的な役割の重要性も挙げられます。

みなさんは、この公園も含めてシドニーの街がみどり豊かで美しいのは、元から自然環境に恵まれていたからと考えるでしょうか。そういった点も否めませんが、この都市が美しいのは、何よりも住民や行政がそのための努力をしてきたからなのです。

20世紀後半のシドニーは、工業都市の様相を呈していたのですが、人々は土地が空いた時に住民運動を起こして新たな開発を阻止したり、行政が土地を買い取ったりと、徐々にみどりや公園を増やす努力をしてきました。

その甲斐あって、現在のシドニーやメルボルンでは、オープンスペースが上手に配置、設計されていて、ちょっと休んだり、スポーツをしたり、散歩に訪れたりすることができ、住民の日々の生活を豊かにしてくれます。そして、こうした公園設計のプロジェクトを通してランドスケープの職能が徐々に育ってきたのです。

世界的な公園デザインのキーワードは環境配慮と多世代

プリンス・アルフレッド・パークは、7.5haの面積を持つ公園です。サイズを比較するために東京の例を挙げると、都立公園である芝公園は12ha、日比谷公園は16ha、代々木公園はさらに広く54haとなり、プリンス・アルフレッド・パークが東京でも実現しそうなサイズであることがわかります。

最近の公園に求められる国際的なランドスケープデザインの方向性として、水やエネルギーの循環を考慮した積極的なサステイナビリティへの取り組み、すべての年代(子どもから老人まで)を受け入れる施設であること、そして、その土地や施設の歴史と文化を反映した固有のデザインであることが挙げられます。

環境配慮技術を取り込んだ公園デザイン

環境への負荷を減少するための取り組みは、近年さらに重要性を増し、透水性舗装材、リサイクル資材、樹木生育に必要な土量を舗装の下で確保するためのユニット型フレーム、乾燥に強い芝品種、エネルギー効率の高い街路灯などの商品が開発され、公園のデザインはどんどん進化しています。

このプロジェクトでは、プール更衣室が芝生のマウンドというグリーンルーフの下に配置されたことで、断熱性を高めつつ、大きな円筒形の筒をマウンドに挿し込んで、そこから自然光を更衣室内部に落としている点や、敷地内の雨水を集水・再利用し、公園内で使用する水の95%をまかなっている点などの工夫があげられます。

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グラスマウンドの下に配置されたプールの更衣室。白い筒で自然光を取り込んでいる。(写真:Neeson Murcutt Architects)

多世代が利用できる「場」とクロスデザインを取り入れる

多世代のための公園として、西側境界を走る線路沿いにはスポーツコート(テニス、バスケットボールなど)が並び、遊歩道をはさんで東側に広がる芝生のフィールドでは犬の散歩、子どものボール遊びや、木陰のバーベキューが楽しめるようになっています。

そして、公園の北側にはプールとプレイグラウンド(遊び場)もあります。このように子どもが遊べて、若者が運動できて、老人もプールに併設されているカフェを訪れたり、芝生のフィールドを犬と散歩できるというような、すべての年代の人々が使える場をつくることが非常に重要になってきています。

そして、それぞれの「場」の間に距離はあっても、お互いを視認でき、ときにアクセス動線が交わることによって会話が生まれたり、というクロスデザインの配慮も重要です。

こうしたデザインの進化によって、この公園はシドニーの人々が毎日訪れることができる場所となり、彼らの日常になくてはならない存在になっているのです。

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プールにはカフェも併設されている。写真中央は子供用のプレイグラウンド。(写真:Neeson Murcutt Architects)

さて、プリンス・アルフレッド・パークをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。

この公園は見た目に美しいだけでなく、多世代を包括するゾーニングや環境への取り組みにより、都市のせわしない日常の中で、自分の時間を持ったり健康のためにエクササイズをしたりできる、貴重なみどり空間を地元住民に提供しているのです。

そして、その背後にはランドスケープ・アーキテクトの存在があり、さらには地元住民や行政の、みどりや公園に対する想いと働きかけが結実して、この公園が生まれたと言えるでしょう。

これからは日本でも、公園の果たす役割はさらに重要になってくると思われます。公園が都市の中で、みどりの心肺機能や防災機能を果たすとともに、住む人を健康で笑顔にしてくれる空間として、ますます注目され、
進化していくことを願っています。

Text:並河みき

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