年間100日、イベント開催! 谷中に現れる変幻自在空間「貸はらっぱ音地」

「谷根千」の愛称で知られる台東区谷中に、ある空き地があります。一見、駐車場かこれから家が建つ用地かと思うほどに、何の変哲もない場所です。

でもこの場所には実は秘密があります。

ある日通り掛ると、そこはアウトドアギャラリー。ある日はマーケット、ある時は紙芝居パフォーマンス会場と、谷中のまちを舞台に、変幻自在にその姿を変えるのです。

この場所の名前は、「貸はらっぱ音地」。その名の通り、約53m2のアウトドア・レンタルスペースです。

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谷中の香隣舎となりにある空き地が「貸はらっぱ音地」です。 Photo by Toshiyuki MAKIZUMI

建てずに、まちと関わる場にできないか?

この空き地の持ち主は、牧住敏幸さん。2006年9月から「貸はらっぱ音地」を運営しています。

以前から谷中が好きで住み着き、将来的にもこの地域に住み続けたいと思っていた矢先、夜中に不動産サイトで売りに出た土地を見つけたそうです。元々思い入れのある場所だったこともあり、その翌朝すぐに申し込み! 勢いで購入したはいいものの、いざ建物を建てようとした際、様々な建築条件があることがわかりました。どうしようかと悩んでいると、土地に目を付けたコインパーキング事業者から提案書などが届くようになりました。

せっかく買った土地を駐車場にするのは気乗りしない。建物を建てずに、まちと関わることはできないか…そうだ、貸そう!

早速、その土地に「貸はらっぱ音地」と書いた手描きの看板を設置しました。

思い立ったが吉日!風呂桶と、手作り感のあふれる手書きの看板を設置しました。

思い立ったが吉日!風呂桶と、手作り感のあふれる手書きの看板を設置しました。 Photo by Toshiyuki MAKIZUMI

空き地に名前を与え、個人の場から一歩踏み出す

「サンマを焼きたいんですけど…」。最初の問い合わせは、看板を見かけた谷中の喫茶店店主からでした。

それを皮切りに、アーティストのライブ会場、屋外ギャラリー、演劇・舞踏ライブ、紙芝居、マーケットと様々な表現の場として利用され始めました。以来10年。多い年では、なんと年間100回もの利用があったそうです!

アーティスト「天才ナカムラスペシャル」さんによるライブアート!道行く人誰もが足を止めていきます。

アーティスト「天才ナカムラスペシャル」さんによるライブアート!道行く人誰もが足を止めていきます。 Photo by Toshiyuki MAKIZUMI

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環境そのものを舞台装置にした舞踏とのコラボレーション。 Photo by Toshiyuki MAKIZUMI

文豪堂書店さんによる「ザ大人のための紙芝居」。

文豪堂書店さんによる「ザ大人のための紙芝居」。 Photo by Mayuko MITANI

予期せぬできごとの連続、空き地だからこその出会い

「貸はらっぱ音地」には、ソトだからこそ起こる偶然の出会いがあふれています。例えば、アウトドアギャラリーとして陶芸の作家が展示をしていた時には、たまたま通りかかった急須工場で働くお父さんが足を止め、作家さんと意気投合! 作品や作家に最初から興味のある人しか訪れることがない、屋内のギャラリーでは起こらない出会いでした。

音地1周年時に開催した「塩谷良太展」。1カ月の長期展示でした。

音地1周年時に開催した「塩谷良太展」。1カ月の長期展示でした。 Photo by Toshiyuki MAKIZUMI

モンゴルのゲルを組み立てる人イベントが開催されていた時には、たまたまそれを見ていたおじさんが呼ばれて輪に入り、最後には一緒に組み立てていた!なんていうことも。「貸はらっぱ音地」には近所の子ども、観光客の若者、自転車で通りかかったおばあさん、車椅子のおじいさんなど、目の前の道を通るあらゆる人が足を止めていきます。

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みんなで組み立てよう!アーバンキャンプゲル。

こういう出会いははらっぱじゃないとないよね。通りがかりの人が最重要人なんです。

音地で開催されていたイベントに出店した人が、今度は主催者になるということもしばしば。利用のハードルの低さも相まって人が循環し、どんどんつながるという面白い現象が起きているそうです。

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30回以上開催された「青空寫眞市場」。イベントを通じて様々な出会いがあったそうです。 Photo by Toshiyuki MAKIZUMI

はらっぱから地域の人気店も!

この場所に自由にお店が出せることが広がると、意欲のある若いつくり手のお店も現れはじめました。固定のお店は持っていないけれど、「貸はらっぱ音地」では個性を生かした青空販売ができます。移動販売車、移動自転車など、出店者によって形態は様々です。「貸はらっぱ音地」出身のお店の中には、固定店舗への出店、さらには地域の人気店へ育ったお店もあるそうです。

現在は根津に固定店舗を持っている「Bonjour! MOJO」。千駄木にコッペパンの店も構えています。

現在は根津に固定店舗を持っている「Bonjour! MOJO」。千駄木にコッペパンの店も構えています。 Photo by Toshiyuki MAKIZUMI

制度を超えた「表現空間」が個人の力を引き出す

運営者の牧住さんはこう話します。

「貸はらっぱ音地」は制度を超えた表現空間です。公共が所有・管理する場では制約も多いけど、逆に民地は人に迷惑を掛けさえしなければ、自由に使うことができます。ソトの可能性を感じて、屋内じゃできないことができる場所にしたかったんです。

「貸はらっぱ音地」は、利用者にとっては自分の活動を発信できる場になっています。その場がソトであり、活動が様々な人の目に触れることでいわば『個人サイズのメディア』としての役割を果たしています。

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谷中で地球を感じるための服を表現した「谷中ドレッシング」。 Photo by Toshiyuki MAKIZUMI

「まちとつながる手段」としてのパブリックスペース

この場所は、表現をしたいけれどお金がない若者やアーティストに使ってもらうため、できるだけ安価な料金設定にしているそうです。「収支は固定資産税の支払いでトントン」ということですが、牧住さんは「貸はらっぱ音地」の運営を通してお金には変えられないものがあったと話します。

僕にとってはまちとつながる手段です。昼間は会社に勤めていて、夜しかまちに居ることがない。「貸はらっぱ音地」を始めてからは、ずいぶん顔見知りが増えました。最初は、折角買った土地に家も建てずに、バカじゃないかと言われました。でもやってみて、この場所にはお金以上の価値があると思っています。ここからつながった人たちからは、本名じゃなくて『おんぢさん』って呼ばれてます。

自然に顔見知りが増えて行くのだと、牧住さんはうれしそうに語ってくださいました。実際に牧住さんと谷中を歩いていると、すれ違いざま、そして行く先々でお知り合いに出会います。

「貸はらっぱ音地」の10年を語ってくださった牧住さん。

「貸はらっぱ音地」の10年を語ってくださった牧住さん。 Photo by Mayuko MITANI

この場所は自分の家の軒先を開放しているようなもの。パブリックマインドを持つことはリスクだと捉えられることもあるけど、引き換えに得るものも多いということを日々実感しています。

 牧住さん自身、「貸はらっぱ音地」で催されるイベントを楽しむ参加者でもあります。


牧住さん自身、「貸はらっぱ音地」で催されるイベントを楽しむ参加者でもあります。 Photo by Mayuko MITANI

「貸はらっぱ音地」はパブリックマインドを持った「個人」によるパブリックスペース、社会に開かれた空間と言えるでしょう。個人の思い付きと少しの勇気から始まった、小さな仕掛けです。しかしそこに多くの人の営みが積み重なることで、単なる空き地ではない意味が付加され、まちと人との新しい関わり方がつくられてます。「貸はらっぱ音地」は、正にこれからの新しいパブリックスペースの在り方を体現しているように思いました。

「貸はらっぱ音地」を使って何かに挑戦してみたい人は、ぜひFacebookページやブログをチェックしてみてくださいね!

「貸はらっぱ音地」のFacebookページ

貸はらっぱ音地 概要

照明: 太陽
床: 地面
空調:
観客: 初音の道を歩く人
利用料: 2,000円/日、3日目以降300円/日
利用可能時間: 9時〜19時まで(常設展示の場合は24時間設置可能。近隣に迷惑のかからない範囲で)
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日暮里駅から徒歩6分。初音の道沿いにあります! Image by Toshiyuki MAKIZUMI

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三谷 繭子

三谷 繭子

都市計画コンサル勤務/修士(デザイン学)/広島県福山市出身 業務として公園を核とした場づくりのプロジェクトマネジメント等を行う傍ら、台東区谷中のまちづくりプロジェクトにも関わる。まちの中に人の居場所をつくりだすことで、愛されつづけるまち、都市活動の循環をつくりだすことを目指す。