イヤホンは外して、まちにあふれる音楽を聞こう! ~オーストラリア・メルボルン、音楽があふれるまちのつくりかた~

まちを歩いていてふと耳に入ってきた旋律。驚くほどいまの自分の気持ちにぴったりくる歌詞を歌うストリートミュージシャン。まちにある、ソトの音楽。なんだかわくわくしませんか。

昨年7月に交換留学生としてオーストラリアのメルボルンに来てから、そのような「ソトの音楽」は私にとって、とても身近になりました。まちの道路空間で、演奏活動や大道芸などをしたり絵を描いたりするバスカー(Busker)たちを、まちの中心部の至るところで目にするからです。東京にいたころはあまり多くのバスカーに出会ったことはなく、それよりもイヤホンをして音楽を聞きながら歩く人をよく見かけました。

今日はどんな音楽に出会えるだろう?とわくわくしながら、まちに出かける。そんな楽しみを提供してくれるメルボルンというまちの、「ソトの音楽」事情を新設メルボルン支部の新人ライター本澤がお届けします。(夏真っ盛りの南半球からお届けしますよ!)

日常にあふれるバスカーたちの音楽

ギターやキーボード、伝統楽器を奏でる人、歩行者を巻き込んで大道芸をする人、チョークで絵を描く人、全身銀色で微動だにせず、像と化す人…。英語では、バスキング(Busking)と呼ばれるこのような活動、メルボルンの中心部では平日・休日に関わらずたくさん見ることができます。

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バーク・ストリートの歩道上で演奏するバスカー

とりわけ、町の中心部にあるバーク・ストリート・モール(Bourke Street Mall)は、広い歩道とトラム用道路からなる歩行者にやさしい通りです。道路の両側にはデパートなどが軒を連ね、歴史的なアーケードや建物もあります。ここでは毎日バスカーが演奏をしており、いつ行ってもソトの音楽を聞くことができるとても気持ちのよい空間です。

多彩なバスキングを支える仕組み

このようなバスカーたちは、気の向くまま好き勝手に活動をしているわけではありません。メルボルン市には4種類のバスキング許可証があり、いずれかの許可証を得ないと活動できない仕組みになっています。申請用紙の記入と申請料の支払い後、安全や演奏活動に関する講習(Safety, Amenity and Performance Reviews)を受けるのが決まりです。

バスキング許可証には、一般エリア許可証(General are permit)、歩行者参加型や火気・ナイフなどを使う大道芸のための許可証(Circle act permit)、絵を描くなどのアート活動をするための許可証(Pavement art busking permit)、バーク・ストリートで活動をするための許可証(Bourle Street Mall busking permit)の4種類があります。

そうなんです!バーク・ストリートで演奏するには、特別な許可証が必要なのです。バスキングを主な収入源とし、30分以上演奏をし続けられるだけのレパートリーと、一般エリア許可証での半年以上の活動経歴をもつ、プロのバスカーでなければなりません。

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プロのバスカーには、ご覧の通りの人だかり!

そのため、バーク・ストリートではレベルの高いパフォーマンスを見ることができ、バスカーを取り囲む人々の輪も大きくなります。広い歩道かつ自動車の通らない道というハードと、いつ行っても質の高い芸術に触れることができるというソフトの両方が整備されることで、バーク・ストリートは単なる道路空間に留まらない、みんなが目的地にする場所へと変化しています。実際、私もメルボルンに来た当初、「バーク・ストリートはアートの通りなんだ。行ってみるといいよ。」と何度も言われました。

まちに起きた悲しみも、音楽と共にみんなで乗り越える

このバーク・ストリートで先月、自動車が歩道を暴走し、6人が死亡30人以上が負傷するという悲しい出来事が起こりました。亡くなった方の中には日本人男性も含まれ、とても衝撃的なものでした。事件後バーク・ストリートにはたくさんのお花やテディベアが供えられ、普段人々と音楽であふれるパブリックスペースが一転して追悼・祈りの空間になりました。

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普段のバーク・ストリート(写真左下にもバスカーが!)

この事件を受け、普段バーク・ストリートで演奏している30人を超えるバスカーたちが、共同でCD “WE LOVE YOU MELBOURNE”を制作し、2月3日にバーク・ストリートで演奏イベントを開催しました。CDの売り上げとその日に得たドネーションはすべて、この事件で死傷した方々とその家族のために設立されたファンドに寄付するというものでした。その日までにお花などは片づけられ、たくさんの市民が音楽に耳を傾け、これらの音楽と共に新たな一歩を踏み出し始めるきっかけを提供する、そんな空間へと変容していました。

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CDの一曲目は『千の風になって』でした

今回の事件をきっかけに、バーク・ストリートは市民が悲しみを共有し、まちの音楽とともに自分たちの中にあるまちへの愛を確認して再び前進し始めるという、静かで力強い市民の力を感じさせる空間になりました。

真夏の伝統行事!ソトで、みんなで、クラシック音楽を楽しむ

バスカーたちの音楽は市民の日常に寄り添うソトの音楽ですが、メルボルンには非日常的なソトの音楽もあります。それが、1906年に創設されたメルボルン交響楽団(Melbourne Symphony Orchestra)が開催するシドニー・マイヤー・フリーコンサート(Sidney Myer Free Concerts)。多くの市民、団体、企業、行政による支援を受けて無料で行われており、1920年代から続くメルボルンの夏の恒例行事でもあります。

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みんなの支援によって成り立つ、みんなのためのコンサート

このコンサートは、キングス・ドメイン庭園(Kings Domain Gardens)内にある野外ステージ(Sidney Myer Music Bowl)で、三日間にわたって開催されました。公式発表はなく正確な数字はわかりませんが、私が参加した日のフェイスブックページを開催当日に見たところ、参加予定にチェックをした人が3,000人超、興味ありにチェックをした人が1.4万人超になっていました。実際の会場は大変な混み具合で、家族や友人と合流するのも一苦労です。

ステージに向かって傾斜する芝生の上の決められた範囲内に座るという形式で、食べ物・飲み物の持参も認められているため、開演まではみなさんピクニックを満喫。

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たくさんの人で芝生が見えません…

メルボルンは「一日の中に四季がある」といわれるほど天気が変わりやすく、この日も晴れていたのに急に雨が降ってきた!ということが三度ほどありました。でもそのたびごとに虹が!

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天気の急変には慣れっこのメルボルン市民。雨が降っても慌てず騒がず、傘・雨合羽・何もしないなど各々の雨対策をします

コンサートでは、アンコールを含め五曲が演奏されました。プロのオーケストラによる演奏は、バスカーの音楽とはまた違ったよさがありました。

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終演近くなると、あたりは真っ暗に。時間によって空間の明るさが変わるのも、楽しみの一つ

買い物ついでに立ち止まって、バスカーの音楽に耳を傾ける。芝生の上に座って家族や友人とピクニックをしながら、クラシック音楽のコンサートを楽しむ。そんなソトの音楽あふれるまちメルボルン、みなさんもぜひ一度いらしてみませんか?

All photos by Ayako Honzawa

【イベント概要】

期 間: 2017年2月8日、11日、15日
会 場: シドニー・マイヤー・ミュージック・ボウル(Sidney Myer Music Bowl)
プログラム: クラシック3曲の演奏+アンコール演奏
主 催: メルボルン交響楽団(Melbourne Symphony Orchestra)
ウェブサイト: こちら

 

参考:
City of Melboure (n.a.) “Busking and street entertainment” (2017年2月17日閲覧)

City of Melboure (2011) Street Activity Policy 2011-Busking Guidelines (2017年2月17日閲覧)

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本澤 絢子

本澤 絢子

東京工業大学大学院社会理工学研究科社会工学専攻在学中。東京生まれ東京育ちの一人っ子。昨年7月から1年間、交換留学生としてオーストラリア・メルボルンにあるメルボルン大学のMelbourne School of Designに留学中。「誰にとっても必要な”食べること”は、様々な背景を持つ人たちの共通言語になり、社会課題を解決する一助になる」という信念を持ち、コミュニティガーデンやファーマーズマーケットなど、人とパブリックスペースと食と幸せが交わる場所を研究中。今日もそんな場所を求めて、メルボルンを駆け回っています!