マーケットが日常を変える! ロンドンのストリートマーケットのストーリーから見えてくるもの

近年、「マーケット」、「マルシェ」といった言葉を東京でもよく耳にするようになりました。

2009年の農林水産省の助成事業マルシェジャポンプロジェクトにより、国連大学ファーマーズマーケット、ヒルズマルシェなど現在も定期開催されるマーケットが発足し、最近ではマーケットブームと感じられるほど各地で様々なマーケットが開催されています。

しかし、現在でも日本おいて人々の日常生活と結びついているマーケットは多くはありません。

マーケットについて海外の方と話していると、日本に日常利用されているマーケットが非常に少ないことを話すと必ずびっくりされます。

「あなたたち、それは大事な物をミスしているわ!」と言われてしまうくらい、彼らにとってマーケットは日常かつ貴重なものなのです。

彼らがそこまで言うマーケットに具体的にはどんなストーリーがあるのか、いつもの道路が毎週特定の曜日に突然マーケットに変わる、そんなマーケットのある日常についてロンドンの事例をご紹介します。

 

最初に少し、ロンドンのマーケットについてご説明します。

ロンドンには自治体が運営する、道路を利用したマーケットが古くから存在しています。都市の中に広場が分布する大陸では広場で開催されることが多いマーケットですが、広場の少ないロンドンでは歴史的に道路がマーケット空間として活用されてきました。

都市部であるインナーロンドンだけでも45のマーケットが確認されています(ー*1)。通行止めをして車道を利用する場合もあれば、歩道上に設置されるものストリートパーキングを利用するものなど、状況に応じて様々な使われ方がなされています。

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ではマーケットのある日常についていくつかのストーリーをご紹介します。

Story 1. 休日の始まりはフラワーマーケットでお花を調達

まるで30代女性向けファッション雑誌のコピーに出てきそうな言葉ですが、ロンドンではこれが自然に起きています。

「コロンビアロード・フラワーマーケット」は、毎週土曜日に開催される植物専門マーケットです。世界随一の金融街である都市、デザイン系の会社が多いショーディッチに程近く、多くの人の休日のスタートを彩るマーケットとして利用されています。

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Story 2. チェーン店フードにお別れ、今日はマーケットの日

オフィス街では、オフィスワーカーをターゲットとしたランチを主に販売するマーケットが平日のランチタイムに現れます。

ビルの下のチェーン店という、いつもの飽き飽きしたチョイスから逃れて、ストリートに出れば、そこには世界各国の食事が並んでいます。筆者もロンドンで勤務していた頃、「今日はマーケットの日だよ!」と同僚たちとうきうきしながらオフィスをあとにしていました。

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Story 3. マイノリティーの日常を担保

多くの移民が生活するロンドンでは、地域のニーズに合わせたマーケットの存在が彼らの日常を支えています。

イスラム教徒の多いイーストロンドンの「ホワイトチャペル・マーケット」では、スカーフを売る店舗が軒を連ね、ここがロンドンであることを忘れてしまいそうになります。彼らにとっては日常であり必要なアイテムが揃う貴重な場となっています。

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Story 4. 低所得者層の食生活の充実

‘A pound a bowl!’(1かご1ポンド!)という声が鳴り響くマーケット。

安くて新鮮な食材が売られる「リドリーロード・マーケット」は、低所得者層が多いこの地域では毎週多くの人で賑わっています。彼らの多くはスーパーよりマーケットを好み、マーケットの日に買い出しを行います。食料供給については、ロンドンの多様な食料要求に答える場としてマーケットが重要な役割を担うことがロンドンの都市政策の指針を示すロンドンプラン(-*2)にも記載されています。

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Story 5. ちょっとした贅沢を日常に

中流階級が多い地域では、オーガニックフードや輸入食材、雑貨などを扱うマーケットが人気を得ています。

周辺にはおしゃれなカフェやパブも多く、マーケットを歩いた後にゆっくりランチをする人も多くいます。ふらりと立ち寄って休日を豊かにしてくれる、そんな場所であり、周辺の住宅も需要が多くなる傾向にあるようです。

一方、マーケットが現れたことで、地域のジェントリフィケーション(再開発等による高級化)が加速し、地価があがったところや元々の住民たちが購入できないような高級な商品が並んでいる事への批判も起きています(-*3)。

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この様にロンドンのマーケットは、特定の層の日常に触れるのではなく、幅広い層の異なる欲求に答える形で多様な人々日常に密着しています。

まちなかにマーケットが広がっている為、どこに住んでも身近にマーケットがあり、たまたま住んだ場所がマーケットストリートだったなんてこともあります。

私はロンドンから日本に帰国した際、「日本のストリートはなんてつまらないのだ!」とびっくりしたことを覚えています。日本生まれの日本育ちなのですが、たった5年間離れただけどそう感じてしまうほどマーケットをはじめとするロンドンのストリートでの活動は日常を彩る存在となっています。

このように小さな仮設空間の集まりとして、一時的に現れるマーケットは、都市生活を豊かにするツールとして確実に存在しています。

all of Photos by Mio Suzuki

*1London Assembly Economic Development, Culture, Sport and Tourism Committee, London’s Street Markets, 2008.1
*2 Mayor of London, The London Plan Spatial development strategy for Greater London, 2011.7
*3Holland, Mina, Chatsworth Road the frontline of Hackney’s gentrification, The Guardian, 2012.7

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鈴木 美央
一般社団法人パブリック・プレイス・パートナーズ共同代表理事。 早稲田大学理工学部建築学科卒業後、渡英し、横浜大さん橋を設計した設計事務所Foreign Office Architects ltd にて、2006 年より2011年まで勤務。帰国後はアカデミックな環境に身をおき、小さな建築の集積でどのようにまちを変化できるかを研究。二人の娘を育てながら親と子の居場所としてのまちの在り方も探求中。