ホームレスの街をより良くするアイデア! 日本人建築学生が3週間のデンマーク滞在で学んだこと

2016年8月、日本人の大学生がデンマークを訪れ、首都コペンハーゲンの社会問題を解決するべく、自治体に対しパブリックスペースの提案をしました。今回はそのレポートをお知らせします。

活動の舞台となったのは、コペンハーゲン市南部にある「スンホルム」と呼ばれる地域です。スンホルムは、ホームレスの人々が短期または長期間滞在することができるホームレスの街であり、コペンハーゲン市が管理しています。そんなスンホルムの住環境を向上するアイデアを提案することが、今回のプロジェクトのミッションでした。

スンホルムの一画

スンホルムの一画

日本とデンマークの建築学生が一緒に挑む

このプロジェクトの主催者は、筆者も参加するJaDAS(Japan and Denamrk Architectural Studies)。デンマークのコペンハーゲンで活動する建築家が集まり、日本とデンマークの建築学生が社会課題の解決に挑むプログラムです。2015年に初開催し、2回目となる今回は、2016年の8月10日から31日にかけておよそ3週間の会期で開催しました。運営スタッフは筆者を含め、総勢10人体制。助成金などは使わず、費用はすべて参加費から捻出しています。

会期中、日本の大学に通う学生とデンマーク王立芸術アカデミーに通う学生が協働でリサーチ、デザイン、パブリックミーティングを実施し、スンホルムの未来を自治体のみんなと考えました。

日本からは関西大学、慶応大学、神戸大学、筑波大学、東海大学、東京理科大学、長岡造形大学、法政大学、明治大学の9大学から、合計15人が参加。一方のデンマークからは8人が参加しました。下は学部2年生から、上は修士2年生までと年齢もばらばらで、専攻や興味なども異なる多様な学生がそろい、それぞれの個性を活かしてみんなでデザインワークに挑みました。

デザインワークの様子

デザインワークの様子

100年の歴史、隔離からサポートへ

ここで対象敷地となったスンホルムの成り立ちについて、少し振り返りましょう。

スンホルムは、1908年に強制労働地域として誕生しました。アルコール依存症、薬物依存症、精神病などによりホームレスとなった労働力の低い人々を1カ所に集め、政府の管理の下で強制的に働かせることで、こうした社会的弱者も社会に役立つ人材としていたといいます。

当時スンホルムは、社会から完全に孤立した街だったそうです。地域外部との境界線に沿って城の周りにあるようなお堀が作られ、出入り口はたった2つだけ。人々が暮らしていくために必要なすべての機能は、地域内で完結していたとのことです。今となっては幸福な国、平等の国と呼ばれるデンマークですが、ほんのひと昔前はこんな一面があったのですね……。

その後時代の流れを受けて、少しずつスンホルムのあり方は変わっていきました。

段々とお堀は埋め立てられ、社会との接点が生まれ始めました。そして2000年1月、およそ100年の時を経て、スンホルムはついに強制労働地域としての役目を完全に終えました。今までスンホルムの中に閉じ込めていたようなホームレスの人々の生活をサポートする地域として生まれ変わり、自治体やNGOが協働でホームレスのサポートを開始しました。スンホルムを利用するホームレスの人々は「ユーザー」と呼ばれるようになりました。

ユーザーと自治体スタッフ

ユーザーと自治体スタッフ

強制労働地域の時代と現在のスンホルムの地図の比較

強制労働地域の時代と現在のスンホルムの地図の比較

しかし、お堀を埋めて境界をなくしたことは、その周辺地域に負の影響をもたらしてしまいます。

貧困者や薬物中毒者がその周辺地域にも見られるようになり、もともとあまり良くなかったスンホルム周辺の治安は、更に悪化してしまったそうなのです。1995年にコペンハーゲン市が実施した調査でも、特に治安の悪い6地域のうちの1つとして位置付けられ、集中的に治安、住環境改善に向けた取り組みの対象となりました。

この取り組みは社会統合再開発事業とよばれ、7年間にわたって、大小合わせておよそ250のソフト、ハード両方のプロジェクトがスンホルムのために実行されました。

スンホルム南西部にあるシティガーデンも、この取り組みの一貫としてつくられました。地域住民が借りられるたくさんのプランターを設置して、野菜や花を育てて楽しみます。またシティガーデンと地域の外部との境界には木の枝を編み込んでつくったフェンスがあり、地域外部の人々を内部へと誘導しています。

スンホルム南西部に作られたシティガーデン

スンホルム南西部に作られたシティガーデン

シティガーデン以外にも、多くのデザイナーやアーティストがスンホルムの住環境向上のために試行錯誤しています。建物と建物の間には、建築家がユーザーと一緒に設計したストリートファニチャーが設置され、地域全体には、照明デザイナーが作ったカラフルな街灯が並びます。スンホルム北部と境界を挟んだ北側には、そのランドスケープデザイナーがデザインしたストリートがあります。

建築家とユーザーが共に作ったストリートファニチャー

建築家とユーザーが共に作ったストリートファニチャー

多岐にわたるプロジェクトの結果として、スンホルムは20年前と比べ大きく様変わりしました。しかし試みはまだ途上で、自治体は絶えず改善案を求めています。

日本とデンマークの建築学生がパブリックスペースを提案

そうした流れを踏まえて、日本とデンマークの建築学生、総勢23人が課題に挑戦します。

プロジェクトには、現地で活躍する建築家も協力しています。schmidt hammer lassen architectsの勝目雅弘さん、Rambøllの加藤比呂史さん、Juul Frost Architectsのソーレン・ラスムッセンさんの3人の建築家がアドバイザーとして参加。日本とデンマーク両方について熟知している面々で、今まで携わってきたプロジェクト、デンマークと日本の建築や都市デザインの相違、そして言語が異なる複数人で議論する際の言語以外のコミュニケーションの方法などを教示しました。

レクチャーの様子

レクチャーの様子

レクチャーだけではなく、実地視察も組み込みました。コペンハーゲン市内の公共施設を巡り、どんな視点でパブリックスペースをデザインするのか、それが実際にどう使われているのか、作品の背景にはどんなストーリーがあるのかなどを見学。実際の作品を見ながら話を聞くことで、参加した学生たちも、知識だけでなく体験を通して多くのことを学ぶことができたと思います。

建築家、加藤比呂史さんのレクチャーを聞きながらの視察

建築家、加藤比呂史さんのレクチャーを聞きながらの視察

Juul Frost Architectsがコンセプトデザインをしたパブリックスペース

Juul Frost Architectsがコンセプトデザインをしたパブリックスペース

3つの課題をデザインで解決

23人の学生は3つのグループに別れ、それぞれスンホルムの改善案を考えました。

スンホルム内のどこに、どんなものを提案するのかは、各グループに委ねられました。全体ヒアリングを経た後、グループごとに現地を調査し、問題点やそれが起こっている場所、問題解決に最適な案を提案しました。最初のヒアリングを含め、合計で3回のパブリックミーティングを実施し、クライアントである自治体やNGOの方々と議論を交わしました。

自然の力を借りて内外をゆるやかにつなぐ

グループAは、どうすればスンホルムを社会統合できるか、というテーマについて考えました。

2000年にスンホルムが生まれ変わってすぐに、境界線沿いに幼稚園ができました。子どもたちが出ていかないように、その幼稚園の周辺には木製のフェンスを建て、結果としてスンホルムを再び閉じた空間にしてしまっています。そこで、子どもたちの安全を確保しつつ、壁を取り払いユーザーの自由や周辺住民の動線などを引き込む、新たな空間のデザインを目指しました。

自治体スタッフとのミーティングを重ねた末、建築の提案ではなくランドスケープの提案とし、自然の力を借りながら緩やかに境界をつくりつつ外部に開く提案としました。

グループA案ランドスケープによるゾーニング

グループA案ランドスケープによるゾーニング

グループA案全体像

グループA案全体像

ユーザーの社交性に応じた空間提案

グループBは、これまでスンホルム内にデザインされたパブリックスペースが、詳細なターゲットを絞らずに設計されている点を問題提起しました。

そのため、スンホルムにいるユーザーを社交性に応じて3つのグループに分け、それぞれのグループに合った空間を提案することを目指しました。この3つのグループに別々の空間を用意するという提案は自治体からも好評であり、最後までこのコンセプトを基に設計を進めました。

最終的に、建物の中にこもりがちなもっとも社交性の低いグループに対しては、外部と内部の中間のようなグリーンハウスを既存の住居施設に付け足すことで、建物の外に出るためのハードルを下げようとしました。逆に、常に外にいて仲間と集まっている、最も社交性の高いグループには、近隣住民からの利用頻度が高い道路沿いに、エクササイズできるような大きなスペースを用意して、一般市民と気軽に交流できるようにしました。

どちらともいえない中間層のグループに対しては、数人で集まって座れるようなベンチを提案し、ゆっくりと会話を楽しめるようにしました。

グループB案ゾーニング

グループB案ゾーニング

グループB案の既存住居に増築されるグリーンハウスの模型

グループB案、既存住居に増築するグリーンハウスの模型

路上駐車を抑制するデザイン

グループCは、自治体スタッフが漏らした「スンホルム内に路上駐車する車が多すぎて困っている」という問題点を解決することにしました。

スンホルム内の道路はすべて市が管轄する特別な道路であるため、誰でも長時間にわたり路上駐車が可能です。そのため近隣住民の駐車場と化していて、ユーザーの居場所が奪われたり、スタッフの業務が滞ったりしているのです。

この問題に対し、地面の高さを変えたりマテリアルを変えたりして、普通の道路とは違う空間の質をつくり上げることで、車の侵入を抑制することを考えました。また、かってスンホルムが堀に囲われていたという歴史を引き継ぎ、再び小さな川を作ることを提案しました。スンホルム外部と内部をつなぐような新たな川の流れを作ることで、近隣住民が川に沿って自然にスンホルム内部に立ち入れるようなポジティブな川としました。

グループC案ゾーニング

グループC案ゾーニング

グループC案イメージパース

グループC案イメージパース

150年の交流の歴史をこれからも深めていく

学生が力を合わせてつくり上げた提案は、スンホルムのみなさんにも刺激的だったようで、とても積極的に議論に関わっていただけました。提案したアイデアはそれで終わりではなく、現在でも引き続き自治体とコミュニケーションをとりながら、具体化に向けて調整を進めています。

2017年に日本とデンマークは国交樹立150周年を迎えます。ヤコブセンやウッツォンの時代からデザイン分野において関係を深めてきた両国。150周年という節目を機にさらにお互いの距離を縮め、お互いに学び合いながら人々の生活を豊かにする空間デザインの質を高めていきたいものです。

All Images by JaDAS

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矢野 拓洋

矢野 拓洋

建築家/研究者/renu+設立者/IFAS設立者/修士(建築工学) デンマークで建築を中心に活動中。立ち上がった建築単体のみでなくそのデザインプロセスやデザイン教育のあり方、建築周辺の環境について研究しています。