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インクルーシブ・ヘルシー・プレイシス(ゲール研究所のレポート翻訳)

みなさんは、子供や若い人たち、お年寄りなど多様な人が様々に活動し、にぎわっているパブリックスペースを目にしたときどのような印象を受けますか?

一方、意図はどうあれ、お年寄りのみ、若者のみ、と使用を限定してしまっているパブリックスペースにはどのような印象を受けますか?

日本におけるパブリックスペースの良し悪しの判定は、「にぎわい」が大きなキーワードとなっていると思います。しかし、筆者が学ぶアメリカ、特にニューヨークは様々な人種が集まる大都市であり、犯罪やテロなどの危険性も地域によっては高いため、人種差別や社会的格差を助長しない、安全性・防犯性などを考慮した計画立案が優先事項とされています。

このように日本とアメリカでは、パブリックスペースをつくるときに考慮すべき優先事項に差があるのは確かです。しかしその違いがあれども、あらゆる人に開かれ、愛され、「健康なパブリックライフ」を可能にするパブリックスペースは、地域のつながりを深め、人々の健康や福祉を促進し、より良いまちづくりに貢献する重要な役割を担っているという点では共通しているはずです。そのような良いパブリックスペースをつくるには、何を考慮すれば良いのでしょうか?

みなさんも、ゲール研究所のレポートを参考に一緒に考えていきましょう!

ゲール研究所による「Inclusive Healthy Places」についての原文はこちらから。
https://gehlinstitute.org/work/inclusive-healthy-places/

 

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パブリックスペースが人々を健康にし、その形成過程がすべての人に開かれていると私たちが認識できるのは、一体いつの日になるのでしょうか?

居場所と健康、設えと身体活動、自然環境と精神衛生などそれぞれを結び付ける論証が次々と挙がってきているのにも関わらず、都市計画家や政策立案者たちが、個人あるいはコミュニティの健康や福祉を促進するために政策を決定し、パブリックスペースのプロジェクトに資金援助する際に役立つ、確たる論拠となるような材料はほとんどありません。

同様に、コンセプトとしての inclusion はよく議論されているものの、人々を健康にするための実践において検証に耐え得る、実効性のある共通理解もありません。

このようなギャップを埋めるために、ゲール研究所はロバート・ウッド・ジョンソン基金の寛大な協力の下、健康における公平性(health equity)に寄与する、開かれた健康なパブリックスペースを生み出し、評価するためのツールとして、「Inclusive Healthy Places Framework(インクルーシブ・ヘルシー・プレイシス・フレームワーク)」を開発しました。レポートのダウンロードはこちらから。
Report_Cover

良いパブリックスペースは、「健康なパブリックライフ」を可能にします。ここでは、歩道やバス停、公園、ストリートでの縁日、プラザ空間、野外コンサート、パブリックアートの周りなどで展開する、計画的かつ自発的な社会的交流を、健康なパブリックライフとします。

このようなパブリックスペースはコミュニティの団結を促進し、それぞれが健康で幸せに過ごす機会を創出し、支えることができます。利用したくなるパブリックスペースは、私たちの心や身体を刺激し、クリエイティビティとアクティビティを誘発します。計画、デザイン、育成、活性化のすべての段階で良く練られたパブリックスペースは、コミュニティをより健康で公平な状態にしていくための重要な役割を担うことができます。

そしてこれは、それぞれの場所が生み出すことができる、特有のプロセスであるべきです。つまり、良いパブリックスペースというものは、既にそこにあるもの、そこにいる人々を反映しています。開かれたプロセスによってつくられ、地域に根差したコミュニティによって維持されていくものなのです。

しかし、すべてのパブリックスペースが平等で公平につくられ、維持されているわけではありません。それを取り巻く近隣街区や街、都市もまた同様の状況です。実のところ、パブリックスペースへのアクセスの制限やその質の低さ、パブリックスペースの形成と維持のプロセスにおいてコミュニティの参加が限られていることが、健康の格差や不平等の原因となっている場合が多いのです。

私たちの新しいフレームワークが、あなたのコミュニティに開かれた健康な場所を生み出す手助けとなり、新たな方法論を発展させていくのに役立つことを願っています。

レポートについて

本レポートで提示するフレームワークとそれを支える分析は、人々の健康と、都市計画・デザインにおける研究、専門知識とを総合的に扱うことによって作成しています。特にパブリックスペースの観点から考察することができる、健康の社会的決定要因に重きを置いています。

(以下、レポート冒頭のエクゼクティブサマリーから一部抜粋)

「Inclusion(インクルージョン:包括性)」それ自体は複合的なコンセプトであるため、定義することが困難です。単に、「Exclusion(排他性)」の逆の意味を持っているという訳ではありません。以下がゲール研究所が検討を進めている、結果、プロセス、変化のためのツールとしてのインクルージョンの定義です。

・結果としてのインクルージョン
パブリックスペースを使用するすべての人々は、彼らが誰であるのか、どこから来たのか、能力、年齢、空間の使い方にかかわらず、歓迎・尊重され、安全を保証され、順応することができます。

・プロセスとしてのインクルージョン
包括的なパブリックスペースの形成プロセスは、その場所を利用する人々のニーズや価値感、既存の資産を認識し、尊重します。積極的に参加者間の信頼関係を構築し、最終的にコミュニティの全ての人が共通のビジョンを形づくり、そのビジョンを達成し、維持をすることを可能にします。これは、その他の要因との間にある背景の理解や生身の経験を必要とする、熟考を経たプロセスです。

・ツールとしてのインクルージョン
参加者やコミュニティの健康格差や、それによって引き起こされる長期的な差別、障壁を減らし、最終的に根絶することに役立ちます。インクルージョンは、実践、プロセス、人々の生活において真の変化を生み出す力があります。

Healthy inclusive public places は多様な点で健康における公平性をサポートします。以下がその特徴です。

  • すべての人にとってアクセスしやすく、あらゆる人を受け入れます
  • 尊厳や敬意といった、共有された社会的な価値を反映します
  • 特に疎外されたグループに対し、信頼や参加を促すプロセスの意義を示します
  • 活気に満ちた多様な社会的交流を促進します
  • 身体的な活動やリラクゼーションなど、様々な方法でパブリックスペースを活用する機会を提供します
  • コミュニティが身体的、精神的により良い健康状態になるために、立ちはだかる障壁を克服する手助けをします
  • 自然環境、そしてその場所と地域の人々の強さを引き出し、維持します

インクルーシブ・ヘルシー・プレイシス・フレームワーク

Framework_Japanese

図中の日本語訳:Shiori OSAKATA 図版:Gehl Institute

原則1:背景

コミュニティの現状や資産、健康における公平性に関する集合知を知ることによって、その背景を理解する。

原則1の構成要素:
A. 住民の特徴
B. コミュニティの健康状態の現状
C. 差別を示唆する要因
D. コミュニティ資産

原則1は、対象地の現状あるいはベース状態の把握を目的としています。

原則2:プロセス

市民の信頼や社会参加、ソーシャルキャピタルの形成を促進することによって、パブリックスペースを形成するプロセスにおいて、あらゆる成員を対象とするようにサポートすること。

原則2の構成要素:
A. 市民からの信頼
B. 社会参加
C. ソーシャルキャピタル

原則2は、社会的な関係の深さや、市民参加の豊かさの理解を深めることにフォーカスしています。

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Superkilen公園(ソトノバでの紹介記事:日本代表はあの遊具! 60カ国の住民に開かれた交流を生む公園「スーパーキーレン)はコペンハーゲンのグリーンサイクルルートの一部を形成しています。BIG(Bjarke Ingels Group)によるデザイン。この公園は近隣住民が自らの家と呼ぶようなパブリックスペースの特徴を含んでいます。 Photo by Jennifer Gardner

原則3:デザイン&プログラム

質、アクセスと安全性の向上、多様性を担保することによって、健康における公平性を促進するパブリックスペースをデザインし、プログラムを考える。

原則3の構成要素:
A. パブリックスペースの質
B. アクセシビリティ
C. アクセス
D. 使われ方と使う人
E. 安全と防犯

パブリックスペースのデザインや質、特徴は、そこでのアクティビティや使われ方に作用し、その場にいる異なるグループの帰属意識に影響を与えます。

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リスボンにあるThe Museum of Art, Architecture and Technologyは地中海の太陽からの休憩スペース、ビジターコミュニティ双方に集いの場を提供しています。この美術館は大規模なウォーターフロントの再開発プロジェクトの一部である。 Photo by Jennifer Gardner

原則4:維持

代表や代理人の明確化、安定性の促進によって、社会的な回復力や地域コミュニティの余力を育み、状況の変化に対応できる場所にする。

原則4の構成要素:
A. 現在の代表
B. コミュニティの安定性
C. 全体の効能
D. 場所への投資の現状
E. 変化への準備

原則4は、パブリックスペースやコミュニティの中で、どうすれば包括性と健康を長期間にわたり保持できるのかを測るための指標となります。

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2016年の大統領選挙に続き、ニューヨーカーは、ユニオン・スクエアの地下鉄の駅の壁に自発的に意見や感情を表現した。メッセージの周りに集まるコミュニティの重要性を見て、MTA(Metropolitan Transport Authority)は駅の壁を公共のメッセージボードとして利用することを許可した。 Photo by Julia Day

まとめ

あらゆる人を受け入れるパブリックスペースの形成を促進するには、私たちの差異が人々の経験や知覚、ニーズに影響を与えるということを念頭に、パブリックスペースのデザインやプログラム、維持、評価を行わなければなりません。このフレームワークで提示する原則、要素、指標、メトリックスを実践現場で使用し、人々の健康や都市計画、政策、デザイン、その他の領域において、より良い結果を得られるようになることを願っています。

 

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いかがでしたでしょうか?

本記事でゲール研究所が述べているように、Inclusive Healthy Places Framework は多様な分野での実践現場で応用することが可能です。レポートには、4つの原則における具体的なリサーチクエスチョンや、どのように調査を進めていくのか、必要なデータの取得方法、調査における着眼点などが詳細に記載されています。

本フレームワークとレポートを参考に地元の住民を巻き込んで、調査を進めていくことができれば、地域の健康を促進し、あらゆる人を受け入れるパブリックスペースのデザインや計画に役立つことと思います。

Cover Photo : 自転車で通勤する人々、コペンハーゲンにて Photo by Steven Johnson

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