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がくげいラボ「都市の自由研究会プレゼンツ 都市はどうなっていくのか会議」

学芸出版社・編集部の「今これが気になる!」に答えてくれる方々をお呼びし、参加者の皆さんを交えてざっくばらんに議論したい!というトークイベント「がくげいラボ」。これまで建築家や不動産プランナー、美術家など、様々なゲストにお越しいただきました。

がくげいラボは、学芸出版社・編集部の「今これが気になる!」に答えてくれる方々をお呼びし、参加者の皆さんを交えてざっくばらんに議論したい!という企画です。

8回目の今回は、「都市の自由研究会プレゼンツ|都市はどうなっていくのか会議」というテーマ。登壇者である都市の自由研究会(※)と参加者の皆さんが今直面している都市の問題や課題について、オープンに議論する試みです。

都市における自由とはなにか

例えば皆さんは、街を歩いているときにふと「自由にのんびり過ごせる場所がないなぁ~」と、思うことはありませんか?

近年、社会自体の不寛容化と相まって、 日本の都市における自由度の低さが指摘されはじめ、都市への注目は否応無しに高まってきています。専門領域でも「都市の使い方」や「新しい都市デザイン」をめぐる議論が多くなされるようになり、 「タクティカル・アーバニズム」や「社会実験」などの意義や手法論が語られる機会も増えています。

こうした背景のもと、そもそも都市における「自由」とはなにか、と根本的に問い直そうとするのが、今回お集まりいただく「都市の自由研究会」の皆さんです。
都市における自由とは何か、なぜ今都市の自由を考える必要があるのか、自由を得るにはどのような姿勢が必要なのか……などなど、考えるべき課題は山積みです。
立場は異なっても、都市に対するモヤモヤはそこに暮らす一人ひとりが持っているものではないでしょうか。

さてイベント冒頭で、司会の榊原さんから以上のような企画趣旨のご紹介があり、その後研究会の皆さんによる「都市的課題を象徴する」写真のプレゼンと、具体的な議論が展開されました。

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今回は欠席の笹尾和宏さんを除く研究会の皆さん(左から:石原凌河さん 近藤紀章さん 榊原充大さん 園田聡さん 竹岡寛文さん)にご参加いただきました。

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会場の千鳥文化さんがぎゅうぎゅうになるほどご参加いただきました!Photo by Gakugei

公園こそ多義的な使い方が可能である

トップバッターは龍谷大学講師の石原さん。
普段は、防災、さらには災害の記憶の継承について、研究を進めているそうです。

こんな写真がピックアップされました。

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117の集い(神戸市・東遊園地)Photo by Ryoga Ishihara

これは、阪神淡路大震災が起きた日と同じ1月17日に、この都市公園で開かれた追悼の集いの様子です。
この公園は近年、アーバンピクニックやまちライブラリーなどの空間活用が活発な場所ですが、一方で災害の記憶を伝えるための場所としても使われてきました。

石原さん:最近の公園は、いかに活用し儲けるかに重きをおかれますが、追悼ができる、災害のことを考えることができる、という点も公園の大きな役割の一つだと思っています。

日常的な使われ方の公園に注目することが多いですが、非日常としての災害の場所というのも公園の重要な役割です。

実際に災害が起これば、公園が避難場所や仮設住宅の設置場所になる可能性も高く、そうした側面から、公園は多面的な機能を果たしていることがわかります。

石原さん:宗教とは違いますが、こうして追悼の場になったときの公園は、祈りの空間に変わります。近代都市計画のなかで、政教分離のように祈りや宗教的な意味をもつ場所は排除されてきました。それにも関わらず、現代の公園が祈りの場になりうる、という多義性におもしろさを感じます。そしてそれは、多重性を担保している公園という空間だからこそ実現できることではないでしょうか。

シェアサイクルのあらたなフェーズとは

さて続いては、とんがるちから研究所の近藤さん。
とんがるちから研究所(通称:とんち研)とは、滋賀を中心としたフィールドで実践者が集まるNPO法人です。
例えば、空き家問題の解決には、リノベーションによってモデルを示すような手法もありますが、そもそもその物件のポテンシャルに左右されることが多くあります。

しかし、そういった使える物件すら出てこなくなった地方都市では、やる気があっても空き家問題が深刻化する一方です。とんち研は、そういったコンサルや大学も扱わないような課題に、’とんち’をもって挑む組織です。

近藤さん:東日本大震災の後、それまで勤めていた大学を辞めて、NPOでこの6~7年の間、自転車や公共交通について考えてきました。今はさまざまな計画づくりに携わる一方で、現場で実践しつつ、都市計画とか環境計画のはじっこをさまよいながら、仕事をしています。

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シェアサイクル(ドイツ・コンスタンツ)Photo by Kondo

これは、去年9月にドイツへ行ったときの1枚。自転車の国際学会のポスターセッションで、とある社会実験の報告を見つけたそうです。その実物を、現地で見つけてきたのがこの写真。専用アプリと連動し、人も荷物も載せられるカーゴバイクのシェアサイクルです。システム的には他の事例となんら変わりないものです。

近藤さん:このシェアサイクルは、もう一度、自転車を何人かで一緒に乗りあう、コミュニティで荷物を運ぶために使いあうという点で、新たな可能性を示唆しているのではないでしょうか。

しかし、石原さんが紹介してくれたポートランドでは、電動キックボードのような個人の移動手段が増えたために、公共交通の利用が減ってきた問題があります。

近藤さん:シェアサイクルは個人の移動の自由を担保するものですが、移動が自由になる一方で、バスや鉄道などの公共性をどう考えるか、というのは重大な課題だと思います。日本、特に滋賀の自転車まちづくりは現状、自転車産業や業界の再構築にとどまっています。私自身は、これからどう自転車に関わるべきか、という岐路にあります。

文化的背景を包み込んだ流行のあり方

続いては、アメリカ長旅から帰国されたばかりの榊原さん。

榊原さんは、京都を拠点に建築やまちのリサーチ、プロジェクトのマネジメントなどをされています。他の方のような研究者や専門家というより、プロジェクトを立ち上げ実現までを担当する立場です。最近のお仕事は、京都市立芸術大学の移転プロジェクトや、愛知県岡崎市のシティプロモーションのディレクションです。

24日間のアメリカ旅行では、京都市芸大の移転プロジェクトのための視察で、アートセンターやアートスポットに行かれたり、岡崎市の公共空間活用プロジェクトに生かすため、様々な公園を見てこられたそうです。
そうした各事例を通して、同じ時代におけるそれぞれの都市の違いを知ることができたと言います。

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ミッションドロレスパーク(アメリカ・サンフランシスコ)Photo by Sakakibara

この公園には傾斜があり、都市が見晴らせるビーチのような場所です。写真の通り人が多く、これが日常的な風景だそうです。気候の良い休みの日は大体こんな感じだとか。
元々はゲイコミュ二ティが盛んな地区で、次第にゲイじゃない人たちも集まるようになっていきました。

榊原さん:昔からこのように賑わっていたわけではなく、一時的な流行りの場所です。しかしそれは、ゲイカルチャーという文化的背景を含んだ上での流行だと言えます。

このような多様性のある場所は、とても都市的な風景だと考えられます。

榊原さん:流行とは、何かしらの制限から自由になった状況、と言えるかもしれません。翻って日本の公共空間で、こういった流行を感じられる場所はあるのでしょうか。

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議論の様子 Photo by Gakugei

居酒屋でもあり、道路でもあり、寄合の場所でもあり、カラオケでもある場所

4人目には、大阪拠点のコンサル会社であるハートビートプランで働く園田さん。
30代までは関東を拠点とされていました。公共空間をはじめ、都市をつくる・使うときのプロセスのデザインをする「プレイスメイキング」の研究がご専門です。ドクターをとった後、大阪へ拠点を移されたそうです。

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モア4番(東京・新宿)Photo by Sonoda

これは、金曜夜の新宿・歌舞伎町に手前のモア4番街の様子。この時間のこの場所では、道路で立ちながら飲んでる人がいたりと、とても賑わっています。この絵がきれいかどうかは別として、こうやって集まっていても、怒られることはありません。
園田さんは、自分がアフター5をどう楽しめるか、ということを重視されており、それが楽しめる街が良い街だと思われるとのこと。

園田さん:今、街に住んでいて、自分で選択して意思決定するとか、例えば外でのんだり気持ち良く遊びたいときに、自分で選択できる余地がなくなっているのでは、という問題意識があります。

園田さん:自分が都市にいるとき、思ったことを実現できる機会をどれだけ増やせるか、ということが重要で、かつてのように道で子供たちが遊んだり、寺社の境内で自由に商いをやっていたり、都市にはそういう選択性があるべきです。

しかし近代都市計画によって、商業施設は商業施設、オフィスはオフィス、住宅は住宅、さらに風俗営業店は細分化されて、それぞれが「施設」になってしまいました。
それまでは公園という存在は規定するまでもなく、道路が公園になることだってあったのです。
そうして都市空間が規定されるに連れ、遊びたい人はお金を持たねばならず、遊び先もすべて用途になっていきました。

園田さん:写真の場所は、居酒屋でもあり、公園でもあり道路でもあり、寄合の場所でもあり、カラオケでもある。そういう余地が街の中にもっと増えたらいいと思っています。そういう都市の余白をどうつくれるか、プライベートも仕事も通して実現したいです。

道がつなぐ都市の姿

そして最後は竹岡さん。
滋賀県を拠点に、グラフィックデザインのお仕事などをされています。近藤さんと同じとんち研では、変化の激しい時代において、とんち力を高めてうまく社会を渡っていこうというコンセプトで活動されています。
元々は京都の出身で、滋賀県立大で建築を学ばれていました。卒業後に大阪で働いた後、今は滋賀で暮らしているそうです。

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碓氷峠(群馬/長野) Photo by Takeoka

もともと道という繋がった存在に興味があるという竹岡さん。学生時代に、東京の日本橋から京都の三条大橋まで歩いた経験があるそうで(!)、そのときの写真を紹介してくれました。
この写真は、日本橋から関東平野を抜けるまで5日間ほど歩き、はじめにさしかかった山、碓氷峠から見た坂本宿の様子。標高はそこまで高くない山ですが、それでも結構な傾斜だそうです。

竹岡さん:この峠から後ろを振り返ると、中央に自分が通ってきた道が見えます。道という空間を体験しながら、その道を中心に宿場町が形成されていることがわかります。

中山道は別名木曽街道と呼ばれ、木曽の谷あいを抜けていきます。そこは、木曽の谷筋を旧街道と新しい国道、木曽川や鉄道が並走する場所で、旧街道が大きく分断されずに当時の様子を残していて、歩いていてとても気持ちがいい道だそうです。

竹岡さん:そういう繋がりこそ、道の特性だと思います。さらに、そういう道が繋ぐ都市というものに興味をもっています。道や川や鉄道など、様々なものの成り立ちのなかで都市がどう形成されるのか、体験を通して都市はどう認知されるのか、ということに興味があります。

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参加者からも切実な問題や意見が飛び交いました Photo by Gakugei

都市の「自由」を探る議論はまだまだ続きます

さて以上のお話から、研究会の皆さんの日々の活動や問題意識が垣間見えてきました。

一口に「都市」や「自由」と言っても、皆さんの専門が異なるように切り口も様々。この後は、それぞれの専門性を活かしつつ、参加者の皆さんの率直な意見も交えたディスカッションへと続いていきました。

都市を使うことに自分は無関係だと思っている人たちをどう巻き込んでいくのか、都市における安心安全は誰が責任を取るのか、既存の社会的ルールをどう捉えるのか、そもそも都市はそれほど不自由なのか?など、うんうん確かにな、とうなずいてしまうような問いかけを、具体的な事例を交えて議論しています。
その議論の内容と、さらにはここで紹介しきれなかった研究会の皆さんの「都市的課題を象徴する写真」については、学芸出版社のHPでの連載が決定しました!
果たして研究会の皆さんは他にどの場所をピックアップし、議論に投げかけたのか、3時間近くに及ぶアツい議論の全貌を漸次公開予定です。要チェックです!

(※)都市の自由研究会とは、正式名称が「都市生活における自由度の価値化と、その職能に関する研究ユニット」と言い、「都市の自由について研究する」「小学校の自由研究のように自発的に研究する」というダブルミーニングを持ちます。
この研究会には、都市生活が経済活性化など大きな社会的制御のための手段に据えられようとしている、という問題意識があります。本来、都市生活は手段でなく目標・目的であるべきだとし、目的が手段化すると、自由度の低減という課題が浮き彫りになります。
そこで、改めて都市の「自由」とはなにか、まちづくり・福祉・モビリティ・防災・デザイン・・・などなど、都市生活を取り巻く様々な側面から問い直してみよう、というのが研究会の趣旨です。

テキスト:中井希衣子(学芸出版社)

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