クリチバのストリートデザイン―半世紀にわたって賑わい続けるストリートとは?

10月初旬、地球の裏側ブラジル・クリチバ市を訪れました。

クリチバ市は60年代以降、各国の都市と比較しても独自性の強い施策を打ちだして成長を遂げてきた、ブラジルを代表する計画都市です。そのデザインは、’Public Life’への配慮がいきとどいたものであり、同時期に建設されたオスカー・ニーマイヤーのモニュメンタルな建築群や広大な自動車交通軸が印象的な首都ブラジリアとは対照的なものとなっています。

街の原点

クリチバといえば、当時のレルネル市長と直轄組織・クリチバ都市計画研究所(IPPUC)が主導して実現した、シンボリックなBus Rapid Transit路線とその軸線に沿って開発を進めた街並みで有名です。この辺りのことは、服部圭郎先生の「人間都市クリチバ―環境・交通・福祉・土地利用を統合したまちづくり(学芸出版社)」など、書籍にまとめていただいているのでそちらを参照していただきたいと思います。

クリチバといえばBRT、奥に見えるのがチューブ型の駅。改札は事前にチューブ内で済ませます。

クリチバといえばBRT、奥に見えるのがチューブ型の駅。改札は事前にチューブ内で済ませます。

華やかなメインストリート

ところで、そんな街並みの核となっているのが、1972年に歩行者専用道路化された「11月15日通り:Rua XV de Novembro」(通称・花通り)です。
ソトノバ的には、イベントやツールのデザインで使いこなす側に焦点をあてたいものですが、基盤となる公共空間のハードの空間構成を見ておくことも重要です。歩行者空間になって半世紀近く経った今、どうなっているのか確認したい!というのが今回の私の来訪目的でした。

日本の駅前通りなどは、駅から遠ざかるほど人もまばらになっていくものが多いのですが、驚いたことに、この11月15日通りは1㎞以上の長い区間、どの街区も大変賑わっています。

この賑わいの要因は何なのでしょうか?

ネットワークが充実!

まず注目すべきは歩行者空間がネットワークとして充実していることです。11月15日通りだけに目がいきがちですが、周辺には面的にスローゾーン(自動車が速度を落とす交通静穏化区域)が設けられている上、公園と広場のハイブリッドのような’Praça’がいくつか分布しており、それらをノードとして周辺のストリートが互いに結ばれているのです。

あるPraçaにはマーケットが常設されているし、週末になるとストリート沿いの部分に子どものための遊び場がちりばめられています。その隣でカポエイラ(※格闘技と音楽、ダンスの要素が合わさったブラジルの無形文化遺産)を延々とやっている混沌とした使われ方。とても面白いです!

クリチバの子ども達はストリートでの体験やコミュニケーションの機会に恵まれており、公共空間を大事に利用するマインドが次第に育まれ、それを次の世代に引き継ぐサイクルを形成しているのではないでしょうか。

さて、11月15日通りに戻って、端から端までたどっていくと、街区ごとに微妙に植栽や設置施設(キオスク、オープンカフェ、旧路面電車車体を活用した図書館)が変わっていきます。こうして歩行体験に変化をもたせる一方、路面舗装や色彩の統一感は保たれており、長い距離を歩く来街者の心理に沿ったアーバンデザインがなされていると言えます。日本の商店街では沿道の組織ごとに個性を主張しすぎて、唐突にデザインが変わっている…というのが典型的です。

’Praça’の常設マーケット、雑貨に加えて各国の食べ物(日本のもあります)を販売。移民で構成されているクリチバの一面を垣間見ることができます。

’Praça’の常設マーケット、雑貨に加えて各国の食べ物(日本のもあります)を販売。移民で構成されているクリチバの一面を垣間見ることができます。

11月15日通りとカルチャーセンタの色合いの強い歴史的地区(写真)間も、歩行者ネットワークでつながっています。

11月15日通りとカルチャーセンタの色合いの強い歴史的地区(写真)間も、歩行者ネットワークでつながっています。

IMG_2568[1]R

週末、’Praça’周辺には遊び場が。

週末、’Praça’周辺には遊び場が。

BRTの存在感

この街並みに、目をこらすとBRTの存在の大きさがうかがえます。

クリチバの近年の傾向では、BRTを含むバスユーザーは郊外部の中~低所得者、自動車ユーザーは都心に住む高所得者となっています。都心へのバスユーザーのアクセスが多いためか拠点都市のメインストリートには珍しく、国際的有名ブランド店舗などは見られません。一般的には歩行者専用化に伴い通りはジェントリフィケーションされがちですが、クリチバは上記のような理由でその要素が小さいのかもしれません。

また、各店舗の間口が狭く、家賃が比較的低廉に抑えられているということも考えられます。ただし、チェーン店は多く、必ずしも地元老舗が元気というわけではなさそうですが、広く市民を受け入れている空間であることは間違いありません。

豊富な滞在空間と緑

もう1点、気になったのはベンチなどの滞在施設の数の多さです。それらがそんなにデザインにこだわった感じもないのにしっかり使われているというのが意外でした。ブラジルの方々はパーソナルスペースが狭く、ある程度ゆったりしたサイズのベンチであれば相席を厭わない気質ではないかというのが私の印象です。とにかく会話したり、アイスをほうばったり楽しそうに過ごしています。

また、立派な街路樹には目を見張りました。長年クリチバのアーバンデザインの第一線で活躍されてこられた中村ひとしさんに話を伺う機会があったのですが、「道路よりも緑を大事にする」という環境配慮の理念が貫かれているそうです。理念を支える市民の共感と協力が緑を守ってきました。

IMG_2585[1]R

気温の高い南米都市で、緑陰はいうまでもなく快適!

気温の高い南米都市で、緑陰はいうまでもなく快適!

夜の11月15日通り

これまで述べてきたとおり街なかはとても魅力的であるし、行政のほうで頻繁に清掃がなされ管理も行き届いているのですが、夜間の治安が問題として挙げられます。落書きだらけのシャッターが降りた夜~朝方はいい雰囲気ではありません。また、一部の街区はどういう経緯か、行き場のないホームレスや物乞いの人々が過ごす場となっています。

意地悪なベンチが備えられているような日本の公共空間よりはよっぽど人間的ですが、以前はそうした利用は見られなかったということで、夜間は目が行き届かない状況に陥っていると言えます。J.ジェイコブズの言うところの「ストリートウォッチャー」が少なくなっている中で、この都市も街なかに住まう人を増やしていくことが課題です。

地球上でも最も遠いところにあるクリチバとそのメインストリートの11月15日通り。市全体の交通計画と環境政策が土台となり、長年にわたりストリートデザインが活きている好事例でした。交通と通りの関係、緑と通りの関係、その結果としての使われ方の様子は私たちにとっても大変参考になるものでした。

皆さんも南米に向かう機会があればぜひクリチバを訪れていただきたいと思います。

The following two tabs change content below.
三浦 詩乃

三浦 詩乃

助教横浜国立大学都市イノベーション大学院 交通と都市研究室
横浜国立大学都市イノベーション大学院 交通と都市研究室助教、ソトノバライター/博士(環境学)。歩行者空間に着目し、旭川市、東京都、アメリカ・ニューヨーク市など国内外のストリートデザインと、そのマネジメントに関する研究を行う。