大小のアクションを重ね築く新たなパブリックスペース活用──ミズベリングテーマ会議「水辺のアクティビティとタクティカル・アーバニズム」【イベントレポート】

水辺の新しい活用方法を創造していくプロジェクト、ミズベリング。水辺のまちづくりや水辺の公共空間への活用の可能性を高めるため、毎回タイムリーなテーマを軸にその分野のスペシャリストをゲストに迎える「ミズベリングテーマ会議」では、これまで「高架下」、「初めてのエリマネ」をテーマに、水辺の使いこなしのヒントになる議論を展開してきました。

そして3回目となるミズベリングテーマ会議が、7月12日に大手町3×3ラボフューチャーで開催されました。今回のテーマは、「水辺のアクティビティとタクティカル・アーバニズム」。実際にまちで水辺でアクションを起こす藤本太一氏(AHO LLC代表/株式会社がんばれタイチ、法人設立準備中)、山崎博史氏(一般社団法人水辺荘代表)、そしてそれを「タクティカル・アーバニズム」をキーワードに学術的視点から紐解く、我らがソトノバ編集長泉山塁威の3人による楽しいプレゼンと熱い議論の模様をレポートします。

街なかにウォータースライダー!? 公共空間活用の突破口

まずは、藤本さんによるお台場での「Slide the City FES」に関するお話しから。
「僕がやっていることは、世界と日本のアホをつなげてかたちにしていくこと。」と話す藤本さんは、これまでに世界で行われているおもしろいイベントのライセンスを獲得し、日本での開催を可能にしてきました。そんなコンテンツの一つ「Slide the City」は、街のド真ん中に超巨大ウォータースライダーをつくり滑ろうという、米国ではじまった「究極のストリートパーティー」です。

ではなぜ「Slide the City」を日本に持ってきたのでしょうか。

もともと都市計画を勉強していた藤本さんは、もっぱら交通機能が主体となってしまった道路空間を懸念し、生活空間としての道路の再定義をしてみたいと思っていたのだとか。日本には道路に老若男女が集まるきっかけのひとつに「祭り」がありますが、どうせやるなら21世紀的使い方をしてみたいという彼自身の思いに、「Slide the City」がぴったりと当てはまったといいます。

また近年、公共空間でのアクティビティに関心を持つひとが増える一方、やはり行政や警察の許可のハードルは高く、諦めてしまう人が多い。そのなかで、東京で「Slide the City」が開催できたという事例があるだけで、勇気を持って挑戦する人が出てきて日本が盛り上がるのではないかと思ったと言います。「背中を見せる意味で『Slide the City』を絶対に成功させたいと思った」と話す藤本さん、かっこよすぎです!

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そんなアツい想いのもと、昨年初めて日本での「Slide the City」を実現させた藤本さんは、その経験からイベント実現の秘訣を3つ挙げます。

一つ目は「関係値づくり」。リスクが付き物である公共空間を使ったプロジェクトを実現するには、リスクを引き受け、一緒に背負ってあげようと思ってもらえるよう、その場所の人との関係性の構築は欠かせないと話します。

二つ目は、「NOと言わせない勇気」。できないと言われ、そそくさと帰るのではなく、「そこを何とかの精神」でやりたいという想いを主張し続けることが大切だと言います。

そして最後が、「YESと言わせる傲慢さ」。公共空間を使ううえで、行政や警察などへの許可は通り抜けなければならないハードル。譲れないポイントでは、こちらが強気になり「YES」と言わせることで、味方を増やしていくことが大事であると語ります。

「Slide the City」という派手でスケールの大きいイベント実現の裏には、藤本さんの「やってやろう」というパッションと、日本の公共空間活用のハードル突破へのヒントが隠されていました。

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イベントの継続から変える水辺の風景

続いては、横浜都心部を流れる大岡川を中心に水辺アクティビティを展開する「水辺荘」について、代表の山崎さんよりお話しです。

「水辺荘」が水辺アクティビティの軸にしているアイテムが、SUP(スタンドアップパドルサーフィン)。空気で膨らましたり畳んだりすることでコンパクトになる、インフレータブルSUPを使用しています。このインフレータブルSUPは、ちょうど「水辺荘」での活動がスタートした2012年頃に世に出回ったもの。これにより、限られた収納スペースでの保管が可能になり、地価の高い都心部でもSUPの活用が可能になったことが、スタートのきっかけにもなったと言います。

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そんな「水辺荘」は、大岡川にある公共桟橋「桜桟橋」の近くにあります。過去には「ちょんの間」と呼ばれる特殊飲食店であった建物を活動拠点として、SUPをはじめ E-BOATや水辺ピクニック、水辺の清掃活動など、様々な水辺のアクティビティを展開しています。

活動のモットーは、「参加しやすく大人も子供も楽しい賑わいをつくること」と、「横浜の水辺のポテンシャル、新たなコンテンツを探ること」。誰でも様々なメニューから、気軽に参加できるコンテンツが多いのが特徴です。山崎さんは、「小さなイベントを継続していくことに関心がある。日常的な風景になっていけばよい」と説明します。

そのほかにも、安全な水上利用を図るため航路に関するローカルルールづくりを進めています。周辺地域で検討し、情報を共有するなどの取り組みです。山崎さんは、ホスト側のコンテンツがメインとなっているこれまでの活動に対し、今後2020年に向けた水辺のまちづくりの展開として、水辺をツーリズムとして受け入れる体制を高めていきたいと話します。

さらに、今後の「水辺荘」のミッションとして、「使い勝手の悪い都心の水辺を、安全にガイドするアクティビティの日常的提供」や「水辺のアクティビティを介したコミュニティ生成と運営」などを挙げ、様々なレイヤーの人が行き交う都市部で、川を介してそのような人同士をつなげていきたいと語ります。

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タクティカル・アーバニズムって? 長期を見込み短期でアクション

アクティビスト2名によるお話の後は、ソトノバ編集長・泉山より今世界で話題となっている「タクティカル・アーバニズム」についての紹介です。

「タクティカル・アーバニズム」とは日本語で「戦術的都市計画」。学術的にはアメリカのstreet plan collaborativeのマイク・ライドンさんとアンソニー・ガルシアさんが提唱し、世に広まりました。そんな「タクティカル・アーバニズム」のキャッチフレーズは、「Short-term Action for Long-term Change」。すなわち長期的変化のために短期的アクションから変える、ということです。

これまでのハード志向の都市デザインプロセスに対し、「まずやってみる」という手法を取る「タクティカル・アーバニズム」は、近年主流とされるボトムアップ型のまちづくりとも相性が良いのではないでしょうか。一見、ゲリラと誤解されやすい「タクティカル・アーバニズム」について、泉山は「ゲリラではなく、許可を取ったうえでタクティカルにやることがポイントである」と言います。

発表のなかでは、「タクティカル・アーバニズム」に関する事例として、ストリートを地域の居場所に変えるベルギーの「Leefstraten」や、カナダの「Robson Redux」などを紹介しました。もちろん水辺でもこのようなムーブメントは起きています。その一つがオーストラリア・アベレードのビーチにある「Glenelg Foreshore Playspace」。シンプルなビーチの一角に巨大なアスレチックがつくられ、インパクトを与えます。

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ところで、日本でもこのような「タクティカル・アーバニズム」なアクションは起きているのでしょうか? その例として、URのまちづくり用地を暫定利用する「COMMUNE 246」は、実際に世界でも紹介されています。

泉山によれば、その他にも「ディネアンブラン」や「HELLO GARDEN」、そして「Slide the City」もその一つであると言います。日本における「タクティカル・アーバニズム」の可能性について、「ビジョンが重要。それに加え現状を把握することで、すぐにできること、近いうちにできること、将来できることを考える。戦術も考えつつ、戦略的にアクションしていくことが大切」と言います。

「道路や広場に比べて水辺は、やる気のある人や楽しみたい人だけがコミットしているのが強み。このようなアクティビストが主体となり、同じ目標や意思に向かって思い思いに楽しんでいることに、水辺のまちづくりの可能性があると感じる」(泉山)

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大小のアクション、それぞれが持つ役割

後半は、プレゼンター3名にミズベリングディレクターを務める岩本唯史氏、真田武幸氏を加えたトークセッションです。

まずは、1日限りでインパクトの大きいイベントを開催する「Slide the City」と、日々小さなイベントを重ねてまちの風景を変えていく「水辺荘」。大括りには同じアクティビティの範疇ですが、実はまったく逆の手法ということがわかりました。

山崎(以下敬称略) 生活の中に水辺を取りいえる人が増えればよい。意識を変えることや、次のビジョンが開けるきっかけにはなる大きいイベントより、淡々と生活の中でやっていく活動に自分は興味がある。

藤本 小さなアクションも大切。そんな小さなアクションを起こす人たちのきっかけづくりとして大きいイベントをやるようにしている。大きいイベントの方がメディアにも注目されるし、話題にもなる。一発のインパクトが大きい。

岩本 それぞれ強みとしている部分、カバーできない部分があり、うまいこと棲み分けできている。

「Slide the City」と「水辺荘」を比べても分かるように、取り組みの性格によって、まちに与える影響や役割が異なるのです。大きなイベントをテコにきっかけをつまり、小さな取り組みを重ね実績重ねていくことこそ、タクティカル・アーバニズムによる段階的都市の変化なのかもしれません。IMG_8458

因数分解で見えてくる道筋

さらに話題は、日本に行けるタクティカル・アーバニズム的動向やその課題について。

岩本 藤本さんのプレゼンでの「レスポンスが早い」というのは重要なキーワード。組織ではない個人による取り組みのバリューは、まさにレスポンスの早さやそれに対する想いの強さ。

藤本 要素分解だと思っている。「SLIDE THE CITY」もどこから手を付けていいのか分からなかった。大きなイベントは、色々なことをクリアしていかないといけないと思いがちだが、因数分解していけばしていくほど、実は大事なハードルは1、2個しかない。

真田 タクティカル・アーバニズムを展開していくうえで、「要素」の部分を計算高く見ながら、アウトプットをあの手この手で見せていき、ムーブメントを生み出すことが有効ではないか。

泉山 水辺を活用する場合も、地域により許可基準が異なる。それをフォーマット化できれば、もう少し各地でのアクションがしやすくなるのではないか。

民間主体で始まる取り組みだからこそのハードルもありますが、その課題を一つ一つ解きほぐすことで、行政の目にもとまり将来的な変化につながる段階的まちづくりにつながっていくのかもしれません。その過程をそこでで終わらせるのではなく、次の取り組みへの踏み台にし、マニュアル化や規制緩和などにつなげ、あらゆるアクティビティの可能性を広げることが、タクティカル・アーバニズムの醍醐味です。

水辺に捉われず、公共空間に関する密度の濃い議論となった今回のミズベリングテーマ会議。次回は8月22日、HOUSE VISIONが青海で今月末より開催する「HOUSE VISION 2016 TOKYO EXHIBITION」です。次回もどんなテーマの下、深い議論が展開するのか楽しみです。

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photo by Shihona ARAI

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荒井 詩穂那

荒井 詩穂那

(株)首都圏総合計画研究所研究員/NPO法人・ハマのトウダイパークキャラバン実行委員会メンバー  神奈川県横浜市出身。行動派。現場派。学生時代は、近代における東京・大阪・横浜の公園計画や小広場空間の採用について研究。現在は、都市計画コンサルタントとして働く傍ら、休みの日には地元横浜で、公園等の活用プロジェクトを実施。