アクティビティ調査から見えてきた山手線4駅の駅前広場の実態とあり方 #東大まちづくり大学院まちづくり演習レポート

都市計画やまちづくりの実務経験者を対象とした修士課程の社会人大学院・東大まちづくり大学院(正式名称:東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻 都市持続再生学コース)。

まちづくり演習では毎年、山手線沿線の駅前広場を題材にした人のための豊かな駅前広場の提案「公共空間としての駅前広場のリノベーション」の課題が恒例となっています。昨年度の最終講評は、ソトノバでも取材を行い、レポートとして取り上げました

あれから1年。東大まちづくり大学院10期生によるまちづくり演習「パブリックライフ・パブリックスペース・スタジオ」が今年も行われ、5月13日の最終講評にソトノバも参加してきました。

この演習を講評するのは、中島直人さん(東京大学都市工学専攻准教授)、泉山塁威さん(東京大学先端科学技術研究センター助教/ソトノバ編集長)、鈴木俊治さん(芝浦工業大学/ハーツ環境デザイン)、高松誠治さん(スペースシンタックス・ジャパン)。

今年は、有楽町、東京(八重洲)、原宿、御徒町の4駅の駅前広場を対象に、4〜5名ずつ4班に分かれ提案がなされました。対象エリアごとの具体的な提案と、そこから展開した今後の駅前広場のあり方に関する議論の様子をレポートします。

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左上:中島直人さん 右上:鈴木俊治さん 左下:泉山塁威さん 右下:高松誠治さん

アクティビティ調査から把握する広場の実態と広場のあり方

この演習では共通して、現在の広場の空間形態や使われ方について、カウント調査・行動追跡調査・滞留者マッピング調査などのアクティビティ調査により実態を把握することが課題としてあげられており、各班ともこれら調査を踏まえた提案がなされています。

アクティビティ調査から得た駅前広場の実態とそれを踏まえた提案。早速、各班の提案内容をみていきましょう。

【Case1:有楽町】
地上と地下の二層構造を活かした通過と滞留の整理

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有楽町駅東口駅前広場周辺


有楽町駅中央口から銀座方面に広がる駅前広場は、再開発により一体的に整備されたもので、駅と周辺街区を繋ぐ人のための広場が地上と地下との二重構造で整備されているのが特徴です。

提案にあたり現状と課題を把握するため行ったアクティビティ調査では、当該広場は滞留ではなく通過利用の性格が強いことや地下広場に対し地上広場の利用が圧倒的に高いことが明らかになりました。

さらに、待ち合わせ場所に適したわかりやすいシンボルの不足、滞留と通過動線の錯綜、飲食や休憩するスペースの需要に対し長期滞留できる広場の不足などが課題としてあげました。

提案ではこれらの現状・課題をふまえ、地上広場では、「通過動線」、「イベント利用エリア」、「短時間滞留エリア」の3つの性格ごとに動線整理をすること、地下広場においては、広場の認知向上のためのサイン設置やイスやテーブル、デジタルサイネージの設置など、長期滞留に適した空間づくりをすることが提案されました。

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地上広場における行動追跡調査と滞留者マッピングの結果(有楽町班:中村、那須、疋田、宮越、飯村)


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有楽町班の発表のようす。様々なアクティビティ調査の結果がビジュアルにまとめられていました

【Case2:八重洲(東京)】
「迷い行動」層から見えてきた駅前広場の実態と課題

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東京駅八重洲口駅前広場(グランルーフ)

東京駅八重洲の駅前広場は、みどりの窓口、店舗、デッキそして八重洲口の大屋根等からなる「グランルーフ」と一体的に整備がされ、東京の玄関口として多くのオフィスワーカーや観光客が行き交います。

この班では、行動観察で全体のうち1割が「迷い行動」をとっていたことに着目。行動追跡調査や滞留者マッピング等から、旅行者など外来者に対するオリエンテーションの不足、適切でない歩行者動線、滞留空間の不足を指摘しました。(なかでも、「迷い行動」から車道を横断する歩行者が30分で69回発生するというデータ結果には驚きました。)

そこで提案では、一目で目的地方面へ誘導できるようなオリエンテーションサインの設置、安全な歩行者動線確保のための駅前広場機能の配置見直し、また現在殺風としている2階デッキについては、落ち着いてバス待ちができるような「ラウンジ」整備などが提案されました。

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八重洲中央口におけるアクティビティ調査結果のまとめ(八重洲班:遠藤、中村、藤井、松下)


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八重洲班の発表のようす。課題を踏まえ、ダイナミックな空間提案がされました


【Case3:原宿】
手狭な駅前広場の拡大と歩行者動線整理

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原宿駅表参道口周辺


東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会にむけ、新駅舎を建設する計画の原宿駅。2014年には、駅前から代々木体育館や表参道を繋ぐ歩道橋が老朽化や景観上の課題から撤去されるなど、今まさに転換期にある駅といえるのではないでしょうか。なかでも今回対象となった表参道口周辺は、日頃から多くの待ち合わせの人で溢れ、手狭な印象が強いエリアです。

この班の検討では、駅前の道路を挟んで向かいにある三角広場も含めた一体についてカウント調査とマッピング調査を実施。様々な方向への歩行動線の輻輳による歩きづらさや、待ち合わせ空間の不足など、日ごろからあげられてきた課題が即地的かつ定量的に明らかになりました。

そこで提案では、視覚的に歩行者動線を整理することによる混雑の緩和や、現在の駅舎の南側の余白を最大限に活用した駅前広場の新設が提案されました。

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原宿駅表参道口周辺におけるカウント調査結果(原宿班:加藤、後藤、浜田、平地、水上)


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原宿班の発表のようす。提案には、現駅舎を保存する案も

【Case4:御徒町】
周辺道路や建物と一体的に考える広場提案

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御徒町南口駅前広場(おかちまちパンダ広場)周辺


御徒町駅の対象となったのは、御徒町南口駅前広場。通称「おかちまちパンダ広場」は、土地区画整理事業により民地と区道を人のための広場として一体的に整備れました。2012年のオープン以降、イベント時には多くの人手賑わう広場ですが、ガードレールで囲まれた設えや御徒町エリア全体から見ると「ウラ側」としての性格が強い立地条件などから、日常の広場利用としての魅力の欠如が指摘されます。

そこでこの班では、広場だけでなく周辺道路も含めた区域でアクティビティ調査を実施。広場周囲の道路と当該エリアのメインロードである春日通りや中央通りとの歩行者量の差は最大4倍近くにも及ぶことや道路により歩行者層が異なることが明らかになりました。さらに広場に着目すると、大半が通過利用で、わずかな滞留者も短時間利用であり、「くつろぎ」「賑わい」に通ずるアクティビティの不足が調査により顕著となりました。

そこで、周辺道路を時間通行止めとした一体的な広場利用の促進や人を呼び込む仕掛けとして周辺建物等を活用したプロジェクションマッピングなどによる主景づくりが提案されました。広場の課題をエリア一体で捉え、周辺道路や建物を巻き込んで再生する提案です。

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御徒町駅周辺におけるカウント調査結果のまとめ(御徒町班:石塚、深野、三好、矢嶋、山口)


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御徒町班、発表のようす。周辺建物も含めた提案


駅前広場を考えるトーク

後半は各提案を踏まえ、参加者による質問から、駅前広場について熱いトークが展開しました。ここからは、会場から出た質問と、そこから展開した駅前広場のあり方の議論の様子を一部紹介します。

駅前広場(ソト)と周辺建築物(ナカ)の関係性

まずは、駅前広場と周辺建築物との関係について。沿道店舗と駅前広場の関係性や、周辺建物からの駅前広場の見え方などは、駅前広場単体としてではなくエリアとしてのあり方を検討していく上でも重要な視点です。

これに関して会場からは、広場の周りには、店舗をつけないと生きた空間にはならないこと指摘する声が。しかし、これについて日本はまだまだ未熟で、広場(ソト)と建築(ナカ)をつなぐことに対してネガティブであるのが実態としてあるよう。

鈴木さんは、その要因として(1)接道条件という法的なハードルと (2)日本における厳然たる広場(ソト)と建築(ナカ)の関わりをあげます。ソトとナカを緩やかにつなぐオープンカフェなど、皆がいいなと共感できる事例が増えていくことが、法改正にもつながっていくのかもしれません。

駅前広場を語るうえで見過ごすことのできない自転車のあり方

もう一つ、駅前広場の検討において悩みにあげられたのが「自転車」。職住近接やコンパクトシティなど少し広域的な視点で都市をみるうえで、自転車を抜きにして駅前広場を語ることは難しくなっています。

中島先生は、東京の駅前広場を変えようという大きな動きの一つとして、地下駐輪場の整備があると話します。近年各駅で地下駐輪場の整備が進みますが、これについて今一番必要なのは「駐輪場がある」ということの広報であるという意見が会場からあげられました。駐輪場へのサインなどをどのように工夫するかも駅前広場を考えるポイントの一つにあるようです。

また少し異なった視点で高松さんからは、ある企業が小型の自転車とそれが収納できるコンパクトなロッカーを発明しているというロンドンの事例が紹介され、駅前広場への適応性や公共交通のあり方などを考えるきっかけにもなりました。

アクティビティ調査を実務に活かしていくために──実務への展開と期待

アクティビティ調査をすることで実態を把握することが課せられていた今回の演習。会場からは、アクティビティ調査が空間のポイントを掴むのに優れている手法である一方、実務で活用していく上で、ある一瞬を捉えたモニター調査でしかないという批判にどう突破していけばよいのかという悩みの声も。

鈴木先生は、1か所を1回やるのではなく、長い年月かけ継続的にやることや空間の配置を変えて検証をすることを重ねていくことの大切さを訴えます。

また泉山さんは、調査には傾向把握と全量把握があると話したうえで、全ての調査で全量を把握する必要性はないと指摘し、普段の利用を把握するには、傾向を把握するだけでもマーケティングの材料となると話します。何のための調査なのか、どんなデータを得たいかを事前にしっかり設計していくことが調査の肝となってきます。

さて、今回も4つのケーススタディから展開した駅前広場のあり方。おなじ山手線沿線とはいえども、周辺土地利用が全く異なる4駅ごとに、抱える実態や利用ニーズも異なり、その提案も個性がでるものとなりました。

とはいえ、駅前広場という地域の玄関口として、多くの人を裁くための通過動線に対する工夫と、賑わいをもたらすための滞留空間としての仕掛けが求められるのは共通項。より現場に即した提案をするための材料としてアクティビティ調査の有効性を感じた提案発表でした。

様々な分野で活躍する実務者が集まる東大まちづくり大学院。この演習をきっかけに、実際に少しずつどこかの駅前広場で還元されていくと素晴らしいなと感じた講評会でした。
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All photos by Shihona ARAI

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荒井 詩穂那

荒井 詩穂那

ソトノバ副編集長/(株)首都圏総合計画研究所研究員/NPO法人・ハマのトウダイパークキャラバン実行委員会メンバー  神奈川県横浜市出身。行動派。現場派。学生時代は、近代における東京・大阪・横浜の公園計画や小広場空間の採用について研究。現在は、都市計画コンサルタントとして働く傍ら、休みの日には地元横浜で、公園等の活用プロジェクトを実施。