デンマーク発、ホームレスと社会を結ぶ緑のパブリックスペース

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今回は、前回記事(ホームレスの街をより良くするアイデア! 日本人建築学生が3週間のデンマーク滞在で学んだこと)で触れたホームレスの街「スンホルム」にある憩いの場、シティガーデンを紹介します。

前回の記事では、ホームレスの人々が長期滞在できる施設が集まる地区、スンホルムのことを紹介しました。このエリアでは、基本的には地区を管理する自治体スタッフと、施設を利用するホームレスの人々(以下、ユーザー)以外の人々を見ることはまれです。

しかし、スンホルムの南西部の境界沿いにつくられた「スンホルムシティガーデン」には、近隣住民を含むさまざまな人々が訪れます。このシティガーデンはスンホルムやその周辺の地域にとって、どんな存在なのでしょうか。

ホームレスを包摂するための仕掛けとして

2000年以降スンホルムは、ホームレスになってしまった人々が長期に渡って暮らすことができる地区として整備され、コペンハーゲン市が管理してきました。特に、2008年から14年にかけて同市は、都市統合再開発事業の一貫としてスンホルムに集中的に投資し、さまざまな取り組みによって治安の改善を試みてきました。

その代表的な取り組みの1つが、シティガーデンの整備、運営です。

見えない壁によって隔てられたスンホルム内外をつなぐためのインターフェースとして、2011年頃からコペンハーゲン市は近隣住民が利用できるシティガーデンを整備し、ガーデンの管理、整備の役割を市のスタッフとユーザーに割り当てることで、住民とホームレスの「社会統合」を図ってきました。

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スンホルムシティガーデンの航空写真、2011年撮影(出典:コペンハーゲン市ウェブサイト

近隣住民の話によれば、スンホルムが強制労働地区として管理されていた時代、この敷地で野菜を育てていたといいます。

スンホルムがホームレス支援地区に生まれ変わった今、同じ場所で同じプログラムを持ちながらも、全く別の役割とメッセージを持った社会統合のための農園として、スンホルムシティガーデンはつくられました。

このシティガーデンは、自治体スタッフとユーザー、地元の有志によって結成されたシティガーデン団体の3種のステークホルダーが中心となって、周辺地域に住むすべての人のために管理、運営されています。都市統合再開発事業による投資が終了した現在も、継続して場の改善がなされています。

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スンホルムシティガーデンの航空写真、2014年撮影。整備された緑が増えているのが分かります(出典:コペンハーゲン市ウェブサイト

シティガーデン内には主に、定例ミーティングなどに使われる「グリーンハウス」、近隣住民が借りることができる「プランターボックス」、うさぎや鶏などが暮らす「飼育小屋」、敷地の境界に沿って伸びる「ウィロウフェンス」があり、ここに訪れるすべての人々に憩いの時間を提供しています。

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スンホルムシティガーデンの配置図(作成:JaDAS)

では、それぞれを順番に見ていきましょう。

気軽な集会の場、「グリーンハウス」

グリーンハウスは、主に管理者、利用者が集まる場所として利用されています。

4月になると、シティガーデン団体を中心とした定例ミーティングに使われるようになります。定例ミーティングと言っても、堅苦しい雰囲気はありません。参加したい人が食べ物を持って参加し、 みんなで食事しながら今年はどんな野菜を育てたい、こんなものがガーデン内にあったら面白そう、など幅広く気軽に話し合います。シーズンの一番最初のミーティングで、今年は誰がどのプランターボックスを借りるのか、どこが空くのかなども話し合います。

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グリーンハウスで定例ミーティングを開催(Photo by JaDAS)

夏になれば、グリーンハウスの中も大きく変わります。左右に並べられたプランターボックスの中で大切に育てられた野菜が天井まで伸び、収穫の時を待ちます。ここで育てられた野菜の一部は、スンホルムの施設でユーザーに提供する食事に使います。定例ミーティングのときも、そのへんにある野菜を無造作に獲って軽く拭き、丸かじりします。

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夏にはグリーンハウス内も植物でいっぱいに(Photo by JaDAS)


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食事を持ち寄って食べながら話します(Photo by JaDAS)

「プランターボックス」で協力して野菜育て

シティガーデン内には100あまりのプランターボックスが用意されており、希望する地域住民は、1人もしくは1組につき1つ、プランターボックスを借りてそこで自分の好きな野菜や植物を育てることができます。自治体も幾つかプランターボックスを所有しており、そこでは市のスタッフとユーザーが協力して野菜を育てます。

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市のスタッフとユーザーが協働して野菜を育てます(Photo by JaDAS)

冬はマイナスまで気温が下がるコペンハーゲンでは、ガーデニングを楽しむことができるのはだいたい6月頃から10月頃まで。4月頃になると、プランターボックスの土を耕し、種をまくなどの作業をはじめます。

冬の間は寂しい雰囲気のシティガーデンですが、暖かくなり始めると色とりどりの花や野菜がガーデン中を埋め尽くし、とても居心地の良い空間に様変わりします。

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夏のプランターボックスの様子(Photo by JaDAS)

「飼育小屋」の動物と触れ合い

現在シティガーデン内では、ウサギとニワトリを飼育しています。これらの動物もまた、市のスタッフとユーザーによって世話されており、飼育小屋は、主にユーザーが建設や改築を担当しています。

ニワトリは、定期的にガーデン内で放し飼いにされ、近隣の住民が触れ合うことができます。人に慣れているため、怖がって逃げ出したりすることはありません。

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ユーザーが建てたニワトリ小屋 (Photo by JaDAS)

ユーザーが自主性を発揮した「ウィロウフェンス」

シティガーデンとスンホルム外との境界に、ひときわ人目を引く、木の枝を編み込んでつくられたフェンスがあります。このウィロウフェンスは、昔スンホルムに住んでいたインスタレーションアーティストのユーザーと、市が協力して制作しました。

実はこのウィロウフェンスは、ユーザーの提案で制作が決まったものです。ユーザーのやりたいという気持ちを尊重し、チャレンジする機会を提供できる環境が、ここスンホルムにはあります。自治体と話し合ってデザインを決定し、2年かけて完成させました。

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スンホルムの内と外を分けるウィロウフェンス(Photo by JaDAS)

このウィロウフェンスのおかげで、シティガーデンとユーザー、近隣住民の関係が大きく変化しました。

有機的にうねるフェンスは近隣住民の注意をひき、両端に設けたアーチが彼らをガーデン内部へと誘導します。幾重にも重なるうねりとうねりの間には土が敷き詰められ、そこでも花々や野菜を育てることができます。

ここには誰でも好きなものを植えることができるため、プランターボックスを借りていない人でも育てることができたり、プランターボックスに入りきらなかった種などを埋めたりすることができます。

こうしてさまざまな人のボランティアによって、ひとつのパブリックフェンスが完成するのです。

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ウィロウフェンスの間には、さまざまな植物が植えられます(Photo by JaDAS)

またユーザーの中には、一般人との接触に恐れを感じている人も多く、むやみに外側と社会統合されることを嫌う人もいます。物理的なフェンスという境界がそこに存在することで、そんなユーザーたちにとってもシティガーデンは安心できる空間になっています。閉じることと開くことの絶妙なバランスが、このフェンスによって作られているのです。

フェンスはすべて植物を編み込んでつくられているため、簡単に形を変えられます。毎年シーズンが終わるとフェンスの一部を取り壊し、来シーズンに向けて少しずつ改良を加えています。

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冬になるとウィロウフェンスを部分的に取り壊し改良していきます(Photo by JaDAS)

地域のみんなに愛され、交流のきっかけに

こうして運営されているスンホルムシティガーデンは、近隣の人に愛されています。

整備しているユーザーや野菜を育てる近隣住民だけでなく、毎日の通勤通学に横切る人がいたり、近隣の幼稚園児が先生に連れられて散歩していたり、1日ここにいるとさまざまな人々を見ることができます。

またこのシティガーデンは多様性を重視しているため、デンマーク人以外の国籍を持った人のプランターボックスの登録を積極的に促しています。私も日本人枠として、今年のプランターボックスを確保できました。

借りている人の国籍が多様であれば、そこで育てられる野菜や果物の種類の幅も広がります。利用者どうしで自国の野菜について会話をしたり野菜を交換したり、新たなコミュニケーションが生まれるきっかけとなります。

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近隣の幼稚園児が毎日遊びに来ます(Photo by JaDAS)


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近隣住民のコミュニケーションの場となっています(Photo by JaDAS)

またユーザーの生活にも大きなプラスの変化が訪れています。

自治体スタッフのリーネさんは、「ユーザーどうしの争いは少なくなりました。シティガーデン内で決められたルールは1つだけで、自分がやられて嫌なことは他人にしないこと。そのルールは当然守られているように見えるし、興味深いことにユーザーのドラッグやアルコール消費量が減っている。自然環境に触れることで、自らそういったものから距離を起きたいという心理が働いているようにみえるわ」と話します。

近隣地域に大きな変化をもたらしているスンホルムシティガーデンですが、市内ではここだけでなく、近年さまざまなところでシティガーデンを見ることができます。

コペンハーゲンは近年都市開発が急ピッチで進み、畑が次々とコンクリートに変えられています。そのためちょっとした都市のすき間を利用して、奪われた畑の機能を取り返す機運が高まっています。シティガーデンがあることで、希薄になりつつある近隣住民同士のコミュニケーションも、同時に取り返すことにつながっているようにも思えます。

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小学校の屋上を利用したシティガーデン(Photo by JaDAS)

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矢野 拓洋

矢野 拓洋

建築家/研究者/renu+設立者/IFAS設立者/修士(建築工学) デンマークで建築を中心に活動中。立ち上がった建築単体のみでなくそのデザインプロセスやデザイン教育のあり方、建築周辺の環境について研究しています。